29 / 378
29話 VS.お母様方でございます。
しおりを挟む正直、犬みたいな獣との戦い方がよくわからない。
どうすれば良いんだろうか?
それに相手はSランクの魔物のケルベロスの亜種だ。魔物図鑑やウォルクおじいさんの研究資料を見た私の記憶の限りではそうだった。
つまり、今の私ではやはり、勝ち目はない。
ケルベロスの特徴は、パワー・スピードどもさながら、その三つの首が一度に魔法を使うという点。
話からして、ベスさんは三種類の属性の魔法が使える。
いくら私がミスリルでできている上に、魔流の気の効果のひとつである、魔力耐性を上げる効果をもってしても、お父さんの前例があるから、耐えられる自信はない。
因みに、魔流の気が魔法耐性を上げてくれることがわかったのも、あの氷魔法を使うセントピーのおかげだったりする。
さて……どう攻めるか…?
そう考えていたら、ベスさから念話が送られてくる。
【コムスメ! セメヌノナラ コチラカラ イクゾ!】
その言葉と同時に勢いよくこちらに体当たりをかまそうとしてくるベルさん。
まるでその様子は、車に轢かれそうになっているかのような恐怖感を持てる。
当たれば確実に腹部にクレーターができる気がした私は、受け流しの構えをとる。
【マッコウカラ ウケヨウッテノカイ!? イイドキョウジャナイカ!】
そう、念話が送られてきたけど、違うんです。
勘違いしてますね。
ベスさんが私に当たる寸前に、私は身を横に翻し、少し横に押してやり捌いた。
彼女はうまく勢いを殺し、どこかに突撃することなく地面に着地する。
その瞬間に私は自分の手に、空から魔爆拳をベルさんめがけて、良いタイミングで撃つように命令。
これで私の手は空から爆撃してくれることだろう。
私は腕をだらんと下げ、ガードが低い代わりに素早く攻撃ができる構えをとった。
【アノ、チュウニウイテル フタツハ ナンダイ?】
【教えません】
【ソウカイ】
ベルさんは私に、驚異的な跳躍力で高く飛び、私に飛びかかろうとする。
その瞬間に、私の手が魔爆拳を放つ。
放たれた魔爆拳をベルさんは、空中ではかわせないはずなのだが、身体をひねるなりして軌道をずらひ、すべて交わした。
私は手に、腕に戻ってくるように命令をする。
【フゥン、ソンナコトモデキルダネ コムスメ】
【まぁ…はい】
【ジャア、アタシモミセテ ヤロウカナ?】
そう言いながら、彼女は私から距離を取り、その三つの頭の口をすべて大きく開けた。
口の中に小さく、まるで薄切りのバームクーヘンをそ横に口に入れたかのような赤い魔法陣が展開される。
その刹那、三つの頭の目の前に超巨大な火球が形成されていく、一目でその全てが物すごい威力を含んでることが分かる。
かわせば良いかな?
そう思った時である。
私は今、自分の後方に何があるかをよく見ていなかった。
そう、ロモンちゃん、リンネちゃん、お父さんの3人が居るんだ。
しかも全員、それには気づいてないみたい。
これ、かわせないじゃん?
どうするの……私があたりに行くしかないじゃない!
私はデフェルとワフェルを、限界のあと3回唱えたどころか、多少のリバウンドも承知の上でさらに2回。
通算6回ものデフェルとワフェルを自分にかけ、さらに魔流の気をより張り巡らし、さらに自分に回復魔法すぐにかけられるように、右手と左手に、被弾した直後に回復魔法を使うように予約しておく。
大丈夫……いけるはず。
死なないはず。
【リファイムトリプル!……………ア、ヤバ】
その声とともに、魔法が発車された。
全て、まるで私を追尾するかのような軌道を描きこちらに向かってくる。
私は後ろに絶対に流れないように、両手を大きく広げ、まちかまえる。
ドゴオオオオ_____
と、物すごい音がして、私には3つの火球が被弾した。
その間に間髪入れずに両手が私にリペアムをする。
その後、その手の反応はなくなった。
それはそうだ。
私は今おそらく、四股が吹き飛び、お腹には大きなクレーターができているはずだ。
私の両手はタイミングよく回復魔法をかけてくれた。
私は衝撃で後ろに勢いよく吹き飛ばされるも、新しく生えてきた手と足をブレーキとして踏ん張り、ロモンちゃん達とは衝突せずにすんだ。
起き上がりざま、私は念のために自分にもう一度リペアムとスペアラをかける。
【イヤァ……ワルカッタネ。マサカウシロニミンナガイルトハオモワナクテ……カワシテモラウツモリデヤッタンダケドネ】
【はぁ……】
ベスさんは私にトボトボと申し訳なさそうに近づいてきた。
【デモ、アンタスゴイネ! アタシノマホウヲモロニウケテ、ダメージヲオッテナイナンテ!】
【そんなことないですよ……ほら】
私は散乱している自分の身体だったものを指差した。
【アリャ……ワルカッタネ。デ……デモスゴイネ! アンタノロモンチャンヘノ チュ……チュウ……チュウセ……ト、トニカク、マモノトハオモエナイ、ニンゲンノヨウニ、ナカマオモイナンダネ! アタシハ ケッコウナカズ ニンゲンノ ナカマヲ ミステテ ジブンダケ ニゲタ マモノヲ シッテルカラサ! アタシハ アンタヲ キニイッタヨ。アイリス】
【ど、どうも……】
ベルさんから認めてもらったよ。
確かに私はあの二人を見捨てて逃げることなんて絶対にないだろうね。
断言できるよ。
【格上と闘い生き延びることができた! 経験値722を獲得!】
【レベルが8上がり、11になった!】
なんか、経験値もらえたし。
レベルも大幅に上がったんだけど。
この世界のいいところは、相手を殺さなくても経験値が入るところだね。
そう、考えていると、またもや、ロモンちゃんとリンネちゃんが私に駆け寄ってくる。
ロモンちゃんは半泣きで、両親にむかってこう言った。
「もう! お母さんもお父さんも、アイリスちゃんを殺すつもりなの! ただの力試しだよね! もっと加減してよ!」
「本当にすまない……」
「反省してます」
私はそんなロモンちゃんと、オロオロと慌てふためいているリンネちゃんを抱き寄せ、諭す。
【皆、無事だから良いではないですか】
「アイリスちゃん……あんなに大怪我だったのに? 全然無事なんかじゃ……」
【私にとっては、皆様が無事ならば、それが"無事"なのですよ】
二人を抱き寄せている私の元に、お母さんが近づいてきた。
彼女は私に目線を合わせるように、膝をほんの少しだけ曲げる。
「まずは、謝らなければいけないわ。ごめんなさい」
【いえ、私はこうして何事もなかったかのように元気ですし、お気になさらなくても大丈夫ですよ?】
その言葉を聞き、お母さんは口元を緩ませる。
「私はね…最初、ロモンの事を心配していたの」
「え…なんで? お母さん」
私の腕の中で、ロモンちゃんは軽く首を傾げた。
「まぁ…トゥーンゴーレムなら心配はなかったんだけど…来てみてびっくり! 新種のゴーレムの極至種に進化してたんですもの」
「それの何が心配なの?」
確かに、何が心配する必要があるのかな?
その理由を、いまからお母さんは説明するみたいだね。
0
お気に入りに追加
1,775
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?
江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】
ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる!
※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。
カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過!
※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪
※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる