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29話 VS.お母様方でございます。

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 正直、犬みたいな獣との戦い方がよくわからない。
 どうすれば良いんだろうか?
 それに相手はSランクの魔物のケルベロスの亜種だ。魔物図鑑やウォルクおじいさんの研究資料を見た私の記憶の限りではそうだった。
 つまり、今の私ではやはり、勝ち目はない。

 ケルベロスの特徴は、パワー・スピードどもさながら、その三つの首が一度に魔法を使うという点。
 話からして、ベスさんは三種類の属性の魔法が使える。
 いくら私がミスリルでできている上に、魔流の気の効果のひとつである、魔力耐性を上げる効果をもってしても、お父さんの前例があるから、耐えられる自信はない。
 因みに、魔流の気が魔法耐性を上げてくれることがわかったのも、あの氷魔法を使うセントピーのおかげだったりする。

 さて……どう攻めるか…?
 そう考えていたら、ベスさから念話が送られてくる。


【コムスメ! セメヌノナラ コチラカラ イクゾ!】


 その言葉と同時に勢いよくこちらに体当たりをかまそうとしてくるベルさん。
 まるでその様子は、車に轢かれそうになっているかのような恐怖感を持てる。

 当たれば確実に腹部にクレーターができる気がした私は、受け流しの構えをとる。


【マッコウカラ ウケヨウッテノカイ!? イイドキョウジャナイカ!】


 そう、念話が送られてきたけど、違うんです。
 勘違いしてますね。

 ベスさんが私に当たる寸前に、私は身を横に翻し、少し横に押してやり捌いた。
 彼女はうまく勢いを殺し、どこかに突撃することなく地面に着地する。
 その瞬間に私は自分の手に、空から魔爆拳をベルさんめがけて、良いタイミングで撃つように命令。
 これで私の手は空から爆撃してくれることだろう。

 私は腕をだらんと下げ、ガードが低い代わりに素早く攻撃ができる構えをとった。
 

【アノ、チュウニウイテル フタツハ ナンダイ?】
【教えません】
【ソウカイ】


 ベルさんは私に、驚異的な跳躍力で高く飛び、私に飛びかかろうとする。
 その瞬間に、私の手が魔爆拳を放つ。

 放たれた魔爆拳をベルさんは、空中ではかわせないはずなのだが、身体をひねるなりして軌道をずらひ、すべて交わした。
 私は手に、腕に戻ってくるように命令をする。


【フゥン、ソンナコトモデキルダネ コムスメ】
【まぁ…はい】
【ジャア、アタシモミセテ ヤロウカナ?】


 そう言いながら、彼女は私から距離を取り、その三つの頭の口をすべて大きく開けた。
 口の中に小さく、まるで薄切りのバームクーヘンをそ横に口に入れたかのような赤い魔法陣が展開される。

 その刹那、三つの頭の目の前に超巨大な火球が形成されていく、一目でその全てが物すごい威力を含んでることが分かる。

 かわせば良いかな?
 そう思った時である。
 私は今、自分の後方に何があるかをよく見ていなかった。

 そう、ロモンちゃん、リンネちゃん、お父さんの3人が居るんだ。
 しかも全員、それには気づいてないみたい。

 これ、かわせないじゃん?
 どうするの……私があたりに行くしかないじゃない!

 私はデフェルとワフェルを、限界のあと3回唱えたどころか、多少のリバウンドも承知の上でさらに2回。
 通算6回ものデフェルとワフェルを自分にかけ、さらに魔流の気をより張り巡らし、さらに自分に回復魔法すぐにかけられるように、右手と左手に、被弾した直後に回復魔法を使うように予約しておく。

 大丈夫……いけるはず。
 死なないはず。


【リファイムトリプル!……………ア、ヤバ】


 その声とともに、魔法が発車された。
 全て、まるで私を追尾するかのような軌道を描きこちらに向かってくる。
 私は後ろに絶対に流れないように、両手を大きく広げ、まちかまえる。


 ドゴオオオオ_____


 と、物すごい音がして、私には3つの火球が被弾した。
 その間に間髪入れずに両手が私にリペアムをする。
 その後、その手の反応はなくなった。

 それはそうだ。
 私は今おそらく、四股が吹き飛び、お腹には大きなクレーターができているはずだ。
 私の両手はタイミングよく回復魔法をかけてくれた。

 私は衝撃で後ろに勢いよく吹き飛ばされるも、新しく生えてきた手と足をブレーキとして踏ん張り、ロモンちゃん達とは衝突せずにすんだ。

 起き上がりざま、私は念のために自分にもう一度リペアムとスペアラをかける。
 

【イヤァ……ワルカッタネ。マサカウシロニミンナガイルトハオモワナクテ……カワシテモラウツモリデヤッタンダケドネ】
【はぁ……】


 ベスさんは私にトボトボと申し訳なさそうに近づいてきた。


【デモ、アンタスゴイネ! アタシノマホウヲモロニウケテ、ダメージヲオッテナイナンテ!】
【そんなことないですよ……ほら】


 私は散乱している自分の身体だったものを指差した。


【アリャ……ワルカッタネ。デ……デモスゴイネ! アンタノロモンチャンヘノ チュ……チュウ……チュウセ……ト、トニカク、マモノトハオモエナイ、ニンゲンノヨウニ、ナカマオモイナンダネ! アタシハ ケッコウナカズ ニンゲンノ ナカマヲ ミステテ ジブンダケ ニゲタ マモノヲ シッテルカラサ! アタシハ アンタヲ キニイッタヨ。アイリス】
【ど、どうも……】


 ベルさんから認めてもらったよ。
 確かに私はあの二人を見捨てて逃げることなんて絶対にないだろうね。
 断言できるよ。


【格上と闘い生き延びることができた! 経験値722を獲得!】
【レベルが8上がり、11になった!】

 
 なんか、経験値もらえたし。
 レベルも大幅に上がったんだけど。
 この世界のいいところは、相手を殺さなくても経験値が入るところだね。
 
 そう、考えていると、またもや、ロモンちゃんとリンネちゃんが私に駆け寄ってくる。
 ロモンちゃんは半泣きで、両親にむかってこう言った。


「もう! お母さんもお父さんも、アイリスちゃんを殺すつもりなの! ただの力試しだよね! もっと加減してよ!」
「本当にすまない……」
「反省してます」


 私はそんなロモンちゃんと、オロオロと慌てふためいているリンネちゃんを抱き寄せ、諭す。


【皆、無事だから良いではないですか】
「アイリスちゃん……あんなに大怪我だったのに? 全然無事なんかじゃ……」
【私にとっては、皆様が無事ならば、それが"無事"なのですよ】


 二人を抱き寄せている私の元に、お母さんが近づいてきた。
 彼女は私に目線を合わせるように、膝をほんの少しだけ曲げる。


「まずは、謝らなければいけないわ。ごめんなさい」
【いえ、私はこうして何事もなかったかのように元気ですし、お気になさらなくても大丈夫ですよ?】


 その言葉を聞き、お母さんは口元を緩ませる。


「私はね…最初、ロモンの事を心配していたの」
「え…なんで? お母さん」


 私の腕の中で、ロモンちゃんは軽く首を傾げた。


「まぁ…トゥーンゴーレムなら心配はなかったんだけど…来てみてびっくり! 新種のゴーレムの極至種に進化してたんですもの」
「それの何が心配なの?」


 確かに、何が心配する必要があるのかな?

 その理由を、いまからお母さんは説明するみたいだね。
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