43 / 49
第42話 すれ違い
しおりを挟む
「ごめんなさい、疲れているのに話しなんてさせて」
リアナが謝るとデュレンがかぶりを振った。
「いや、いい。傷も治っているし、すぐに回復する。この程度なら疲れたうちには入らない」
「さっきの司祭の人は、いつも来ているの?」
「いや、初めてだ」
「え?」
リアナが戸惑った。
「でも、兵士をつけて送りますって言ったら、慣れているからと言って一人で帰って行ったけど……?」
「それは、ここ以外の他の場所にも行っているという意味だろう。ここに来たのは初めてだ。いつもはカリウスという男が来る。教会には何人かいるし、新しく入った者もいるだろうから、気に留めるようなことでもないだろう」
「そっか」
リアナは手から伝わるデュレンのぬくもりを感じながら、さらに口を開いた。
「瞬間移動は訓練を積んでないとバラバラになるそうね」
「そうだな。あれは司祭にしか許されていない行為だからな。普通の者が教会に行って魔法陣に乗って呪文を唱えたところで、即座に死んでしまうだろう。俺でもな」
「怖い」
「なんでおまえが怖がる? 瞬間移動する機会なんてないだろう?」
「そうだけど……」
デュレンがまぶたを開け、まっすぐリアナを見つめた。
「おまえはこの城でそっと生きていけばいい。俺の子を産み、老衰するまで平和に暮らしてろ。この城を出たところで茨の道しかない。フレングス家はもうないんだ」
言い聞かせるような声だった。
「今度は俺が質問する。なんでおまえは乗馬なんて練習しているんだ? どこに行くつもりなんだ」
「あ」
リアナは声を詰まらせた。いつまでもこの城で世話にならずに自立するためだった。仕事と住まいさえあれば、一人でも生きて行けると思っている。だからデュレンの言う茨の道がピンとこない。城下町は平和そうだったし、何がダメなのかわからない。
「……馬が好きなのよ」
リアナが誤魔化すと、デュレンがため息をついた。グッとリアナの手を強く握る。
「いいか。おまえはどこにも行くな。ずっとここにいろ。俺だけのものでいろ」
「だったら……っ」
リアナは思わず口を開いた。
「だったら、もっと自分の命も大事にして」
デュレンが目を見張った。
「それがここにいる条件よ。この先もずっとあなたが瀕死の重傷で帰ってくるのを見ることになるなんて嫌。一人で行動しないで信頼できる兵士も連れて行って。それが無理なら、狩り人ほどの能力を持った誰かを雇って」
「さっきも言っただろう。信頼できる狩り人とはそうそう出会えない。それに誰でも狩り人を目指せばなることができるわけじゃない。狩り人になろうとして途中で命を落とした者を俺はたくさん見てきた。それに狩り人ではない兵士たちは獣とは戦えない。殺されるだけだ。よく知りもしないで簡単に言わないでくれ」
心配で言ったのに逆に叱られて、リアナはシュンとした。
リアナが謝るとデュレンがかぶりを振った。
「いや、いい。傷も治っているし、すぐに回復する。この程度なら疲れたうちには入らない」
「さっきの司祭の人は、いつも来ているの?」
「いや、初めてだ」
「え?」
リアナが戸惑った。
「でも、兵士をつけて送りますって言ったら、慣れているからと言って一人で帰って行ったけど……?」
「それは、ここ以外の他の場所にも行っているという意味だろう。ここに来たのは初めてだ。いつもはカリウスという男が来る。教会には何人かいるし、新しく入った者もいるだろうから、気に留めるようなことでもないだろう」
「そっか」
リアナは手から伝わるデュレンのぬくもりを感じながら、さらに口を開いた。
「瞬間移動は訓練を積んでないとバラバラになるそうね」
「そうだな。あれは司祭にしか許されていない行為だからな。普通の者が教会に行って魔法陣に乗って呪文を唱えたところで、即座に死んでしまうだろう。俺でもな」
「怖い」
「なんでおまえが怖がる? 瞬間移動する機会なんてないだろう?」
「そうだけど……」
デュレンがまぶたを開け、まっすぐリアナを見つめた。
「おまえはこの城でそっと生きていけばいい。俺の子を産み、老衰するまで平和に暮らしてろ。この城を出たところで茨の道しかない。フレングス家はもうないんだ」
言い聞かせるような声だった。
「今度は俺が質問する。なんでおまえは乗馬なんて練習しているんだ? どこに行くつもりなんだ」
「あ」
リアナは声を詰まらせた。いつまでもこの城で世話にならずに自立するためだった。仕事と住まいさえあれば、一人でも生きて行けると思っている。だからデュレンの言う茨の道がピンとこない。城下町は平和そうだったし、何がダメなのかわからない。
「……馬が好きなのよ」
リアナが誤魔化すと、デュレンがため息をついた。グッとリアナの手を強く握る。
「いいか。おまえはどこにも行くな。ずっとここにいろ。俺だけのものでいろ」
「だったら……っ」
リアナは思わず口を開いた。
「だったら、もっと自分の命も大事にして」
デュレンが目を見張った。
「それがここにいる条件よ。この先もずっとあなたが瀕死の重傷で帰ってくるのを見ることになるなんて嫌。一人で行動しないで信頼できる兵士も連れて行って。それが無理なら、狩り人ほどの能力を持った誰かを雇って」
「さっきも言っただろう。信頼できる狩り人とはそうそう出会えない。それに誰でも狩り人を目指せばなることができるわけじゃない。狩り人になろうとして途中で命を落とした者を俺はたくさん見てきた。それに狩り人ではない兵士たちは獣とは戦えない。殺されるだけだ。よく知りもしないで簡単に言わないでくれ」
心配で言ったのに逆に叱られて、リアナはシュンとした。
0
お気に入りに追加
1,554
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる