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第39話 ロシアンナ
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「魔法が使えるのもかつて狩り人だった者のみです。訓練と経験の積み重ねが必要なので、司祭や魔法使いなどに転職できるのも狩り人だけです。リアナ様は何もご存知ないようですので、差し出がましいとは思いましたが、説明させていただきました」
ぺこりと頭を下げて、イーシャがそっと立ち去った。
現代日本で生きていた亜姫にとっては信じられない世界だが、RPGなどのゲームに置き換えて考えてみるとわかりやすかった。ようは経験値をためてレベルアップし、今までなかった新しい能力も手に入れ、とある神殿で転職するようなものなのだろう。転職すれば魔法も使えるようになるということなのだろう。
魔法。この城にいる人々で魔法を使う者がいないから、考えもしなかった。この世界には魔法があったのだ。
デュレンの部屋へ向かうと、扉の前に見張りの兵士がいた。止められるだろうかと一瞬迷ったが、敬礼されただけですんなり入ることができた。
室内には使用人を取りまとめている中年女性のロシアンナがいた。沈痛な面持ちでベッドに眠るデュレンを見つめている。リアナに気づいた彼女は、一礼すると口を開いた。
「デュレン様は眠られておいでです」
「あ、あの。怪我は……大丈夫なの?」
「ええ。司祭様が助けてくださいましたので、傷は綺麗に治りました。眠りから覚めれば普段通り行動できるようになるでしょう」
リアナはおずおずと問いかけた。
「さっきのは……治癒魔法ですか?」
「ええ」
「デュレンは魔法を使うことは?」
「いいえ。デュレン様は——というより、何にも転職していない狩り人は誰も魔法を使うことはできないんですよ、リアナ様。魔法使いあるいは司祭、それ以外にもさまざまな職業があります。その職についた者だけが得られる特殊技術が魔法です。職業によって使える魔法も違います」
「そうなんだ……」
「魔法自体、使える者が少ないので、まだまだ研究不足の分野で。デュレン様は伯爵という身分なので、何かに転職することはできません。だから一生魔法を使うことはないでしょうね。狩り人でさえ、我々にとって身近な存在ではありません。デュレン様が狩り人になり、初めて私たちは狩り人がどういう存在なのか知り得ました。普通に暮らしていると出会うこともなく、狩り人はただの伝説の存在で、世界のどこかにいるらしい、としか思わずに終わってしまうものなのです。唯一、身近なのは教会にいる司祭様ぐらいかしらね」
リアナは眠るデュレンを眺めた。
「そんなに珍しい存在の狩り人に、デュレンはどうやってなったんだろう……」
「それはまだ誰にも語られておりません。もしかしたら、リアナ様にならお話いただけるかもしれませんよ」
「え?」
「デュレン様の怪我は治り、状態も良好です。目が覚めるまで、お傍についていただけますか?」
そう言うとロシアンナはデュレンの部屋から出て行った。ここで働く人たちは、リアナのことを信用しすぎではないのか。もしリアナが狩り人で殺し屋だったらどうするつもりなのだろう。そう思いながらリアナは椅子をベッドの傍に引き寄せ、そっと腰掛けた。
ぺこりと頭を下げて、イーシャがそっと立ち去った。
現代日本で生きていた亜姫にとっては信じられない世界だが、RPGなどのゲームに置き換えて考えてみるとわかりやすかった。ようは経験値をためてレベルアップし、今までなかった新しい能力も手に入れ、とある神殿で転職するようなものなのだろう。転職すれば魔法も使えるようになるということなのだろう。
魔法。この城にいる人々で魔法を使う者がいないから、考えもしなかった。この世界には魔法があったのだ。
デュレンの部屋へ向かうと、扉の前に見張りの兵士がいた。止められるだろうかと一瞬迷ったが、敬礼されただけですんなり入ることができた。
室内には使用人を取りまとめている中年女性のロシアンナがいた。沈痛な面持ちでベッドに眠るデュレンを見つめている。リアナに気づいた彼女は、一礼すると口を開いた。
「デュレン様は眠られておいでです」
「あ、あの。怪我は……大丈夫なの?」
「ええ。司祭様が助けてくださいましたので、傷は綺麗に治りました。眠りから覚めれば普段通り行動できるようになるでしょう」
リアナはおずおずと問いかけた。
「さっきのは……治癒魔法ですか?」
「ええ」
「デュレンは魔法を使うことは?」
「いいえ。デュレン様は——というより、何にも転職していない狩り人は誰も魔法を使うことはできないんですよ、リアナ様。魔法使いあるいは司祭、それ以外にもさまざまな職業があります。その職についた者だけが得られる特殊技術が魔法です。職業によって使える魔法も違います」
「そうなんだ……」
「魔法自体、使える者が少ないので、まだまだ研究不足の分野で。デュレン様は伯爵という身分なので、何かに転職することはできません。だから一生魔法を使うことはないでしょうね。狩り人でさえ、我々にとって身近な存在ではありません。デュレン様が狩り人になり、初めて私たちは狩り人がどういう存在なのか知り得ました。普通に暮らしていると出会うこともなく、狩り人はただの伝説の存在で、世界のどこかにいるらしい、としか思わずに終わってしまうものなのです。唯一、身近なのは教会にいる司祭様ぐらいかしらね」
リアナは眠るデュレンを眺めた。
「そんなに珍しい存在の狩り人に、デュレンはどうやってなったんだろう……」
「それはまだ誰にも語られておりません。もしかしたら、リアナ様にならお話いただけるかもしれませんよ」
「え?」
「デュレン様の怪我は治り、状態も良好です。目が覚めるまで、お傍についていただけますか?」
そう言うとロシアンナはデュレンの部屋から出て行った。ここで働く人たちは、リアナのことを信用しすぎではないのか。もしリアナが狩り人で殺し屋だったらどうするつもりなのだろう。そう思いながらリアナは椅子をベッドの傍に引き寄せ、そっと腰掛けた。
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