3 / 4
第3話
しおりを挟む
まだ無垢だった頃のミカゲと出会ってから、十年経った。
俺は会社から独立し、自分で事業を立ち上げて、順調に軌道に乗せることにも成功し、収入も増えた。
高級マンションでペットを一人飼っても支障がないほどに。
高層マンションの最上階を購入した。賃貸よりも買ったほうが安いと聞いたからだ。
ワンフロアすべてが俺の部屋。
そしてミカゲの部屋。
俺はミカゲを首輪で部屋に繋ぎとめた。首輪を外せないように手錠もかけた。
自由にしたら逃げられると思ったからだ。
うなじを噛んで永遠の伴侶にしたが、それだけでは安心できなかった。
風俗店からミカゲを買い取り、全身を綺麗にして部屋に置いた。
ミカゲはしばらくどんよりとうなだれていたが、ある時期から何かを吹っ切ったようだった。
最上階の窓から見える壮大な景色を、心を奪われたように見つめるようになった。
昼はビル群の隙間から富士山が見え、夜は眩しいほどの夜景が目の前に広がる。
成功者だけが見ることのできる景色を、ミカゲは眩しそうに眺めていた。
俺はそんなミカゲの顎を持ち上げ、濃厚に口づけた。
永遠の伴侶。永遠のつがい。
ミカゲは何かを諦めたように、俺の舌を受け入れた。
毎夜のように俺に抱かれるミカゲは美しかった。本心を口にすることはないので、何を思っているのかはわからない。
ただ、俺をつがいと認めたのであろうことだけ、その身体から伝わってきた。
ミカゲの腹に子が宿ったのもその時期だった。
病院の医師に告げられた通り、子を宿したミカゲを大事にした。
手錠を外し、首輪を外しても、ミカゲは逃げなかった。
ある日、ぽつりとミカゲが言った。
「あの頃を思い出した。出会った時の頃。まだ何も知らなかった頃を」
今の俺の中に、あの二年間の俺を見つけたようで、少しだけ微笑んだ。
「好きだったんだ。本当に。つがいになりたいと思ってた。そう思ってた相手とつがいになれたのに、あの頃の俺が思ってたのと、今の状況はまるで違う」
本当に好きだったんだ。ミカゲの目から涙の粒が何度か落ちた。
まともな男ならここで罪悪感を抱くのだろう。
俺は泣くミカゲを美しいと思うだけだった。
「逃げることを想定して首輪で繋いだり、手錠をはめたりしたんだろうけど、俺はもう逃げられない。オメガはつがいになったアルファからは逃げられないんだ。永遠に」
どこか寂しそうな眼差しで、ミカゲが俺を見た。
「オメガに生まれた者の宿命」
ミカゲの眼差しが床へと移った。
「もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと」
どういうつもりでミカゲがそんなことを言ったのかはわからない。
「オメガの喜びはつがいのアルファに愛されることなんだ。それが嫌いだった相手でも、憎んでた相手でも。つがいになれば、何もかもが変わる。オメガはアルファに愛されるための生き物になるんだ」
でも、とミカゲは続けた。
「おまえがやったことを許したわけじゃないから」
俺たちはまるで、複雑に絡み合った知恵の輪のようだと思った。
どんなに頑張っても努力してもほどくことができない。
ミカゲが何かを諦めたのは、それなのかもしれない。
俺は会社から独立し、自分で事業を立ち上げて、順調に軌道に乗せることにも成功し、収入も増えた。
高級マンションでペットを一人飼っても支障がないほどに。
高層マンションの最上階を購入した。賃貸よりも買ったほうが安いと聞いたからだ。
ワンフロアすべてが俺の部屋。
そしてミカゲの部屋。
俺はミカゲを首輪で部屋に繋ぎとめた。首輪を外せないように手錠もかけた。
自由にしたら逃げられると思ったからだ。
うなじを噛んで永遠の伴侶にしたが、それだけでは安心できなかった。
風俗店からミカゲを買い取り、全身を綺麗にして部屋に置いた。
ミカゲはしばらくどんよりとうなだれていたが、ある時期から何かを吹っ切ったようだった。
最上階の窓から見える壮大な景色を、心を奪われたように見つめるようになった。
昼はビル群の隙間から富士山が見え、夜は眩しいほどの夜景が目の前に広がる。
成功者だけが見ることのできる景色を、ミカゲは眩しそうに眺めていた。
俺はそんなミカゲの顎を持ち上げ、濃厚に口づけた。
永遠の伴侶。永遠のつがい。
ミカゲは何かを諦めたように、俺の舌を受け入れた。
毎夜のように俺に抱かれるミカゲは美しかった。本心を口にすることはないので、何を思っているのかはわからない。
ただ、俺をつがいと認めたのであろうことだけ、その身体から伝わってきた。
ミカゲの腹に子が宿ったのもその時期だった。
病院の医師に告げられた通り、子を宿したミカゲを大事にした。
手錠を外し、首輪を外しても、ミカゲは逃げなかった。
ある日、ぽつりとミカゲが言った。
「あの頃を思い出した。出会った時の頃。まだ何も知らなかった頃を」
今の俺の中に、あの二年間の俺を見つけたようで、少しだけ微笑んだ。
「好きだったんだ。本当に。つがいになりたいと思ってた。そう思ってた相手とつがいになれたのに、あの頃の俺が思ってたのと、今の状況はまるで違う」
本当に好きだったんだ。ミカゲの目から涙の粒が何度か落ちた。
まともな男ならここで罪悪感を抱くのだろう。
俺は泣くミカゲを美しいと思うだけだった。
「逃げることを想定して首輪で繋いだり、手錠をはめたりしたんだろうけど、俺はもう逃げられない。オメガはつがいになったアルファからは逃げられないんだ。永遠に」
どこか寂しそうな眼差しで、ミカゲが俺を見た。
「オメガに生まれた者の宿命」
ミカゲの眼差しが床へと移った。
「もし俺を苦しみに突き落としたかったら、ふたつ方法がある。アルファから一方的につがいを解消すること。アルファがオメガを置き去りにして先に死ぬこと」
どういうつもりでミカゲがそんなことを言ったのかはわからない。
「オメガの喜びはつがいのアルファに愛されることなんだ。それが嫌いだった相手でも、憎んでた相手でも。つがいになれば、何もかもが変わる。オメガはアルファに愛されるための生き物になるんだ」
でも、とミカゲは続けた。
「おまえがやったことを許したわけじゃないから」
俺たちはまるで、複雑に絡み合った知恵の輪のようだと思った。
どんなに頑張っても努力してもほどくことができない。
ミカゲが何かを諦めたのは、それなのかもしれない。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
Original drug
佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。
翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語
一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる