悠久の大陸

彩森ゆいか

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第72話 恋焦がれ

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 ナツキはリュウトと別れてログアウトした。
 現実世界が久々のように感じる。
 ゲームの中でセックスばかりしているせいで、起きた瞬間の身体はいつも夢精したような有り様だ。そんな状態にもすっかり慣れてしまって、ズボンと下着はさっさと脱いで洗濯機へと放り込む。そしてシャワーを浴びる。
 はあ、と息をついた。
 現実世界でもセックス、ゲームの中でもセックス、頭が変になりそうだ。
「なにしてんだろ、俺……」
 明日は月曜日だ。大学もバイトもある。
 頭を正常に戻さなくては。
 スマートフォンを見ると、辰泰からメッセージが来ていた。
『一緒にメシ食いません? いつでもいいんで』
「いや、さっきゲームの中で会ったばっかりだろ。今朝まで一緒にいただろ。それにしょっちゅう一緒にメシ食ってるだろ」
 那月はげんなりとした。とりあえずメッセージは既読無視にする。
 今日は晩飯を食べてさっさと寝てしまうことにした。もうすっかり疲れている。
 ゲーム内とは違って、性感のステータスなどないので、現実世界では妙な感覚にはなりにくい。そのはずなのに、思い出すだけで、変な気分になる。
 リュウトやスオウに触れられた感触はリアルと何も変わらない。身体の奥まで穿たれる感覚も変わらない。
 リアルとはなんだろう。ヴァーチャルとはなんだろう。肉があってもなくても、脳しかなくてもセックスはできてしまうのだ。
 まだ別れたばかりなのに、抱きしめられたかった。つい先ほどまで一緒にいたのに、もうどこにいるのかわからない。遥か遠くだ。連絡先すらも知らない。
 キスしたい。
 まぶたを閉じるとリュウトばかりが蘇る。内心でスオウに謝りながら、リュウトの腕や身体や顔を思い出した。感触から温もりまですべてがリアルだ。
(どうして)
 どうしてこんなにもリュウトを欲しているのだろう。ついさっき身体を重ねたばかりなのに。
 いや、身体を重ねたばかりだからなのか。
 もしスオウだったら、すぐに連絡して会うこともできたのに。
 どこの誰だかもわからないリュウト。本当の顔も、本当の声も、本当の名前も、本当の身体も知らない。リアルのリュウトに出会ったらがっかりする可能性だってある。それでも会いたい、会ってみたいと思ってしまうのはなぜだろう。
 連絡先を聞けばいいだけだ。ゲーム内でならいつでも会える。連絡先を交換して、リアルで会う約束をすればいいだけだ。
 そこまで思って急に怖くなる。リアルのリュウトを好きになれるのか、まだわからない。会ってしまったことで何かが変わって、気まずくなって疎遠になる可能性だってある。
 しかしよく考えたら、この前のイベントで会うはずだったのだ。リュウトに用事があったから会えなくなってしまったけれど、本当ならあの時に会えていたはずだったのだ。
(よし、今度ゲームに入った時に聞こう)
 もっといいことを考えよう。連絡先を交換したら、リアルで会って、きっとリュウトの面影もあって、また好きになる。リアルでも身体を重ねて、デートして、恋人みたいになって。
 辰泰の顔が脳裏をよぎった。
 二股はよくない。那月の中の倫理観が叫ぶ。
 辰泰と約束したはずだ。
 辰泰のことを好きにならないのなら、誰のことも好きにならない。
(……いや、無理だよ……)
 リュウトには恋焦がれている。この想いをなくすのは無理だ。
 なかったことにはできない。
 もし別れるなら、辰泰のほうになる。彼はきっととても傷つくだろう。本気で那月を愛していることはわかっている。
(苦しい)
 どちらのことを考えても苦しかった。
 眠れないかと思っていたが、知らないうちに熟睡していたようだ。気がついた時には明け方で、那月はのろのろと起きて洗面所へと向かった。
 顔を洗い、改めて洗面台の鏡に映る自分の顔を見つめた。
 ごく普通の青年の顔だ。特別美形とか、かわいいとか、そういった顔ではないと思う。いや、かわいい顔立ちなのかもしれないが、自分ではあまりそう思えない。
(愛してくれるだろうか)
 もしリアルのリュウトと出会った時には。
 ほぼ姿は同じなので、ゲームの中で愛されているのだから、リアルでも愛されるとは思う。そうであってほしい。そうでなければ困る。
(俺をこんな身体にしたのは、あんたなんだから)
 微笑むリュウトの顔が脳裏に浮かぶ。
 いつもどこか余裕があって、自分に自信を持っている。振り回されることもさんざんあったが、勝手なところも多いが、それでも嫌いにはなれない。
 むしろ惹かれていってしまう。否応なく。
 自分でも自分がよくわからない。
 どうして彼を好きになってしまったのか。
 出会った頃はあんなに逃げたかったのに。
 でも、好きになるのに理屈なんてない。
 ある日突然、好きになってしまうものなのだ。
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