悠久の大陸

彩森ゆいか

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第63話 久しぶりの再会

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 結局、辰泰の家に泊まった那月は、日曜日の昼間に帰宅した。
 あまりにも眠気が強く、ゲームする元気がない。那月はそのままベッドで昏倒し、気づいた時には夕方になっていた。
 カップラーメンを食べた後、ちょっとだけログインしようと思ってヘッドセットを装着した。仰向けに横たわる。

 宿屋の中だった。前回、ここでログアウトしたのだ。急に思い出した。
 リュウトとスオウとセックス三昧の時間を過ごし、そのままリアルに戻ったのだ。
 ナツキは思い出して赤面した。
「誰も……いないよな?」
 室内を見渡して、ナツキは宿屋を後にした。
 外は夜だった。盛大な星空に向かって手を伸ばし、ナツキは大きく深呼吸をする。満月が美しかった。
 雪平海咲の世界。
 作者の顔なんて知らないほうがよかったのかもしれない。彼は世界のどこかにいる架空の存在でよかったのだ。肉眼で見える距離のリアルにいる彼の顔も声も、あの眼差しも、すべて知らないままのほうがよかったのだ。
「ナツキ」
 リュウトの声がして、ぎくりとした。振り向くと、彼はすぐ傍に立っていた。
「スオウは?」
「まだ会ってない」
 正確には、スオウの中の人と朝まで一緒にいた。だがそれは口にはしない。
「久しぶりだな」
 懐かしそうにリュウトが言う。
「ゲームの中はリアルよりも時の流れが早いから」
「って言ってもまだ、一週間ぐらいしか経ってないよ」
 ナツキが笑うと、リュウトも笑った。内心でホッとする。よかった。怒っていない。
「今日はどうする?」
 リュウトが問いかけてきた。ナツキに選択肢を投げかけるとは珍しい。
 いつもリュウトのやりたいほうへと強制的に持っていくのに。
「ゲームしたい。普通に。戦って強くなりたい」
「そうか」
「今日は俺、ひとりで行動してもいい? ひとりで戦って強くなって、地道に経験値を稼ぎたい」
「わかった」
 今日のリュウトは不思議なほど素直だ。
 久しぶりに会ったのだから、身体を求めてくると思っていた。
「じゃあ、俺も俺で行動する。じゃあな」
「あ、うん……」
 やけにあっさりとしている。ナツキはぽつんとひとり残された。
「よし、じゃあ普通に戦うか」
 端末を開いて見ると、リュウトはすでにログアウトしていた。プライベートが忙しいのだろうか。スオウもいないようだ。
「寝てんのかな、あいつ」
 那月が昏倒するように眠っていたように、辰泰も寝ているのかもしれない。
 ナツキは端末を操作して地図を開いた。ホログラムのように浮かびあがる。
「まだ行ってないところ……まだ行ってないところ……」
 ウラクの町を出て道沿いに進むと、グランデルクの城がある。ここはまだ一度も足を踏み入れていなかった。噂によると廃墟の城らしい。ひとりで行くのは無謀かもしれない。そう思いつつも、行ってみることにした。
 回復系のアイテムを買い揃え、武器も新調した。
 馬などの乗り物を買うと進むのが楽になるので、とりあえず一番安い馬を買ってみる。八百円。乗り物が大型化したり、速くなったりするほど高価になる。ゲーム内通貨では買えない。八百円ぐらいから始まり、高価なものだと二千円以上まである。リアルな通貨での課金だ。
 本当はそろそろ新しい町にも行きたい。ウラクの町は、初心者の村でスタートしてから二番目の町なので、いつまでもここにはいたくなかった。レベルは多少あがっているのに、これでは全然ゲームが進んでいないみたいではないか。
 ウラクの町の外に出ると、乗り物アイテムとしてしまっておいた馬を端末から取り出す。大きな茶毛の馬が、ヒヒヒヒーンといなないて地面に降り立った。じっとしてナツキが乗るのを待っている。
 馬の乗り方など知らないが、そこはやはりゲームなので問題なかった。身体が勝手にスムーズに動き、馬の背中にすんなり乗る。ただ、問題はここからだった。
「……あっ」
 性感のステータスが高いせいで、感じてしまう。
 馬が数歩歩き、ナツキの尻が軽くバウンドする。
「……あっ、あっ……」
 耐えるように手綱をつかんだ。
 走り出したらどうなってしまうのだろう。
(だから、数値あげすぎなんだよ)
 怒りはリュウトとスオウに向かう。
 性感のステータスを下げるアイテムがあったら今すぐ買いたかった。
 馬が走り出す。ナツキの尻が浮いては落ちる。馬の背中に尻が当たるたびに、ナツキはびくびくとした。
「あっ、あぁっ……はぁっ……あっ」
 馬から落ちないようにするだけで精一杯だった。
 乗り物に乗るとモンスターには遭遇しない仕様になっている。ナツキはなんとかグランデルクの城に到着し、紅潮した頬ではあはあと呼吸を乱しながら、馬から降りた。
「……盲点だった」
 馬の背中にこんなに感じてしまうとは。
 馬をアイテム欄に戻し、ナツキは呼吸を整える。頭はまだ朦朧として変だったが、ナツキはここに戦いにきたのだ。性感帯を刺激しにきたわけではない。
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