悠久の大陸

彩森ゆいか

文字の大きさ
上 下
62 / 80

第62話 溺れるカラダ

しおりを挟む
 一時間半ほどのトークイベントが終わり、ぞろぞろと立ち上がる人々に混ざるように那月も席を立った。足元がふらつく。結局、なにも話が聞こえてこなかった。
「那月?」
 不思議そうな顔で辰泰が顔を覗き込んでくる。ぎくりとした那月は、取り繕うように笑った。
「や、なんか緊張しちゃって」
「帰りどうする? 俺の家、寄る?」
 辰泰の瞳の中に下心が見えた。
「……うん」
 触発されるように那月の眼差しに熱が帯びる。
「よし、じゃあ帰ろう」
「ん……」
 辰泰への恋愛感情はまだないままだったが、肉欲に負けた那月は、彼なしではいられなくなってしまった。愛でも恋でもない相手とそういう関係になってしまったのは問題のような気もしていたが、抜け出せないのだからどうしようもない。
 それに愛されるのは気持ちよかった。同時に罪悪感も覚えるが、やはり気持ちよさのほうが勝つ。辰泰は驚くほど献身的で、その気持ちの上にあぐらをかいている自覚はあったが、求められるのを拒絶する気にもなれなかった。
 ずるいのだろう。ずるいのだと思う。
 辰泰の家に着くと、なだれ込むように身体を重ねた。ベッドの上で尻をつかまれ、背後から貫かれる。辰泰から与えられる快感は、ただひたすら気持ちよく、溺れずにはいられない。
 最も感じやすい場所を、辰泰の膨らんだ先端がごりごりと穿ってくる。もはや彼のものとなった前立腺は、歓喜を覚えたように快楽を生み、那月の意識を蕩けさせる。
 熱を帯びた粘膜は、辰泰に絡みついて名残惜しそうに離さず、ぐちゅぐちゅと水音を立てながら収縮している。
「んっ、うぅっ……あっ、はぁっ……」
「気持ちいいね、那月」
 荒い息遣いを繰り返しながら、辰泰が耳元で囁いてくる。
 辰泰に抱かれながら、那月の目の前でフラッシュバックが起きた。トイレで雪平海咲に見つめられた。ステージ上から雪平海咲に何度も見られた。
「んっ、うぅんっ……」
 那月は四つん這いの姿勢のまま、思わず自分の性器をつかむ。
(……見られてた。じっと見られてた……)
 今さらだが、初めて会ったような気がしなかった。彼の作品世界をいつも見ているせいだろうか。小説に没頭し、アニメを楽しみ、ゲームに溺れた。彼が作り出した世界だ。
 那月は後ろから突かれながら、手の中のものをしごいた。快感が脳天まで響き、がくがくと全身を震わせる。手の中に溢れ出る白濁。シーツを濡らす。
(……あっ、いっちゃった……思い出して、見られたとこを思い出しながら……)
 同時に辰泰には申し訳ないと思った。他の男を思い出しながら達してしまったことに。
(……俺って……俺って、すごいクズなのかな……)
 なにも知らない辰泰は、二人の快楽を追うように腰を叩きつけてくる。
「中に出すよ、那月」
「んっ……出して……っ」
 熱いものが体内にほとばしる。この瞬間、自分は彼のものにされたのだと強く思う。腹の中を辰泰でいっぱいにされ、ほどよい快感と幸福感に満たされ、急激に睡魔に襲われる。
 こんなに何度も身体を重ねていれば、辰泰への情もある。だがそれはやはり、愛や恋とは少し違っていた。友情の延長線上のような感覚だ。
 背中にキスされ、仰向けにひっくり返された。辰泰が覆いかぶさってきて、濃厚に口づけられる。
 彼はどんなキスをするのだろう。雪平海咲の顔が那月の脳裏にちらついた。雪平海咲はペンネームなのだろうか。本名なのだろうか。彼はゲームをするのだろうか。もしかしたらどこかですでに出会っているのだろうか。
 そんなことで頭がいっぱいになり、那月はまずいと思った。
 今は辰泰とセックスしている最中なのに。
「そういや、雪平海咲ってイケメンだったな」
 まるで見透かしたように辰泰がそう言ったので、那月は内心でぎくりとした。必死でポーカーフェイスを保つことしかできない。
「雪平海咲って名前だけ聞くと、女なのかなって思ってたんだけど」
「……ん、俺も、思ってた」
 辰泰は気づいていない。那月は内心でホッとした。
「あんなイケメンじゃ、今後女性ファンとかもすげー増えるんだろうな」
「かもね」
「……那月は、ああいうの好き?」
「……えっ?」
 いきなりの質問に、ぎょっとした。
「なん、で? そんな、ことを?」
「……なんとなく。ほら、那月はあの人の原作ファンだし」
 辰泰は含みのある眼差しで那月を見つめると、そっと視線をはずした。
「那月は今度いつゲームやる?」
「……え、と……明日かな。日曜日だし。もしかしたら今日もやるかも」
 戸惑いながら那月が答えると、辰泰が即座に却下した。
「今日はダメだろ。那月は俺の家に泊まるんだから」
「え? 泊まるの?」
「うん。泊まるの」
 辰泰はそう言うと、那月の両足を抱えて腰を割り込ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

松本先生のハードスパンキング パート1

バンビーノ
BL
 中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。  初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。 「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」  僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。 「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」  気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。  

処理中です...