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第59話 だけど愛してない
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目が覚めたのは翌日の昼で、死んだように眠っていたらしい。
「俺も狂ってたから狂ったようにやってたけど、さすがに疲れた」
辰泰は苦笑しながら、デリバリーの牛丼を食べていた。
「…………」
那月はのろのろと起き上がり、身体がきれいになっていることに気づいた。辰泰のパジャマを着せられている。シーツもどろどろになっていたはずだが、辰泰が取り替えていたらしい。
牛丼を食べながら、辰泰が喋った。
「リアルはやっぱり疲れるな。ゲームの中だとどれだけやっても疲れなかった気がするんだけど」
「……いや、脳は疲弊すると思う」
喋ったら声がかすれていた。ずっと喘いでいたから喉も酷使されたのだろう。
起き上がる元気がなくて、再びベッドに横たわった。牛丼を食べている辰泰をぼんやり眺めていると、腹の虫が鳴った。
「……おなかすいた」
「なにか頼もうか? いつ起きるかわからなかったから、俺の分しか注文してないんだ」
「……うん」
辰泰がデリバリーのメニューをいくつか持ってきた。腹は減ったが、食欲はなかった。食べたいものがなくて眉間にしわを寄せる。
「カップラーメンもあるけど」
「……じゃあ、それにする」
那月は起き上がろうとしたが、だるくて無理だった。
ゲームの中ではどれだけやっても平気で動けたが、実際はこんなにも疲れるものだったのだ。無理な体勢を強いられたこともあり、あちこちが痛い。酷使された部分もズキズキと痛む。
「しょうゆ味と味噌味とトンコツ味とあるけど、どれがいい?」
辰泰がカップラーメンのパッケージをいくつか見せたくれたので「しょうゆ」と答えた。
「じゃあ、作ってくる」
辰泰がキッチンへと消えた。
那月は深く息をついて、天井を仰いだ。狂ったように辰泰とセックスをしてしまった。ヴァーチャルで覚えた快感を、リアルでも求めてしまった。
今頃になって、脳裏にリュウトがよぎる。
(バレたらすげー怒られそう……)
リュウトとスオウの二人でナツキを共有するという、意味不明なことになっているが、実はとても嫉妬深いのではないかと内心疑っている。
リュウトがリアルではどこの誰なのかはわからないが、この先いつかどこかで出会うようなことはあるのだろうか。
ゲームの中では二人から同時に愛されることも多かったが、もしリアルでもそうなったらどんな感じになるのだろう。
那月はぞくりと震えた。いったい何を考えているのか。変態にでもなったような気分になる。
だが、もう認めざるを得ない。この身体はすっかり淫乱になっている。どこまでも貪欲に快感をほしがるようになってしまった。
(知らなかった頃にはもう戻れない)
はあ、とため息をついた。
カップにお湯を注いだ辰泰が戻ってきた。
「熱いから気をつけろよ?」
スオウだとバレたからだろうか、身体の関係になったからだろうか。いつの間にか辰泰から敬語が消えている。先輩とも呼ばなくなっている。
起き上がった那月はカップラーメンと箸を受け取り、もそもそと食べ始めた。食欲がなかったはずなのに、案外食べられる。
辰泰も牛丼の元へ戻って、残りを食べ始めた。
那月はカップラーメンを食べながら、ぼんやりと辰泰を眺めた。
「……いつから」
「え?」
「いつから俺のこと好きなの」
那月が問いかけると、辰泰が頬を赤らめた。
「初めて出会った時から」
「……結構前だな」
腐れ縁だと思っていたのは那月だけだったのだ。つきまとってくるのを不思議に思っていたが、実は下心満載だったのだろう。
ずっと性的な目で見られていたのだと思うと、変な気分になった。
箸を持つ手も、ラーメンをすする唇も、辰泰からはいったいどう見えているのだろう。そう思うと妙に意識してしまい、わずかに手が震えた。
今さら緊張するなんてどうかしている。
「……大学、さぼっちゃったな」
誤魔化すように那月が口を開く。
「一日ぐらいなら大丈夫だよ」
辰泰が気さくに言う。
(俺はこの先もずっと、辰泰と寝るんだろうか)
誘われれば断らないだろう。でも愛しているかと問われると、それは違うと思う。求められたいだけなのだ。求められて愉悦に浸りたいだけなのだ。
(調子に乗りすぎだ、俺)
モテていることに愉悦を覚え始めている。リュウトからもスオウからも愛されている自分に酔い始めている。初めはあんなに無理矢理だったのに。あんなに嫌だったのに。
いつの間にか、愛されることが当たり前になっている。
(タチが悪い)
自分でも思う。愛されたい、求められたい、でも自分は彼らを愛さない。なんて身勝手な。彼らをいいように利用して悦楽に浸りたいだけではないか。
牛丼を食べ終わった辰泰が近づいてきた。顔を寄せられ、反射的にまぶたを閉じる。貪るような口づけ。
「……ラーメンの味がする」
「……牛丼の味がする」
ふふっと互いに笑った。妙にそれがおかしかった。
「那月、愛してる」
耳をくすぐるその言葉はとても心地よく、だが同時に罪悪感をともなう。
(俺は愛してないから)
頬に口づけられ、ズキズキと心が痛む。
辰泰は勘違いしてしまったかもしれない。こんな風に微笑ましく過ごしてしまったら、勘違いしてしまうかもしれない。
(俺は愛してないのに)
辰泰の顔がまた近づいてきて、唇を塞がれる。愛おしいもののように触れられ、愛おしいもののように口づけられる。
愛されなくてもいい。ただ拒絶はしないで。辰泰の望みはそれだけだ。わざわざそう伝えてきたと言うことは、那月の気持ちはわかっているのだろう。
その後はイチャイチャすることはあっても、セックスにはなだれ込まなかった。那月の消耗を辰泰も理解していたのだろう。夕方ぐらいになると身体もだいぶ回復してきて、那月は帰ることにした。
「じゃ」
「また明日」
「うん、また明日。会えるかわかんないけど」
学年も違えば取っている講義も違うので、同じ大学でも必ず会えるという保証はない。だるさも痛みもまだ完全にはなくなっていないが、自力で帰れないほどではなかった。
「俺も狂ってたから狂ったようにやってたけど、さすがに疲れた」
辰泰は苦笑しながら、デリバリーの牛丼を食べていた。
「…………」
那月はのろのろと起き上がり、身体がきれいになっていることに気づいた。辰泰のパジャマを着せられている。シーツもどろどろになっていたはずだが、辰泰が取り替えていたらしい。
牛丼を食べながら、辰泰が喋った。
「リアルはやっぱり疲れるな。ゲームの中だとどれだけやっても疲れなかった気がするんだけど」
「……いや、脳は疲弊すると思う」
喋ったら声がかすれていた。ずっと喘いでいたから喉も酷使されたのだろう。
起き上がる元気がなくて、再びベッドに横たわった。牛丼を食べている辰泰をぼんやり眺めていると、腹の虫が鳴った。
「……おなかすいた」
「なにか頼もうか? いつ起きるかわからなかったから、俺の分しか注文してないんだ」
「……うん」
辰泰がデリバリーのメニューをいくつか持ってきた。腹は減ったが、食欲はなかった。食べたいものがなくて眉間にしわを寄せる。
「カップラーメンもあるけど」
「……じゃあ、それにする」
那月は起き上がろうとしたが、だるくて無理だった。
ゲームの中ではどれだけやっても平気で動けたが、実際はこんなにも疲れるものだったのだ。無理な体勢を強いられたこともあり、あちこちが痛い。酷使された部分もズキズキと痛む。
「しょうゆ味と味噌味とトンコツ味とあるけど、どれがいい?」
辰泰がカップラーメンのパッケージをいくつか見せたくれたので「しょうゆ」と答えた。
「じゃあ、作ってくる」
辰泰がキッチンへと消えた。
那月は深く息をついて、天井を仰いだ。狂ったように辰泰とセックスをしてしまった。ヴァーチャルで覚えた快感を、リアルでも求めてしまった。
今頃になって、脳裏にリュウトがよぎる。
(バレたらすげー怒られそう……)
リュウトとスオウの二人でナツキを共有するという、意味不明なことになっているが、実はとても嫉妬深いのではないかと内心疑っている。
リュウトがリアルではどこの誰なのかはわからないが、この先いつかどこかで出会うようなことはあるのだろうか。
ゲームの中では二人から同時に愛されることも多かったが、もしリアルでもそうなったらどんな感じになるのだろう。
那月はぞくりと震えた。いったい何を考えているのか。変態にでもなったような気分になる。
だが、もう認めざるを得ない。この身体はすっかり淫乱になっている。どこまでも貪欲に快感をほしがるようになってしまった。
(知らなかった頃にはもう戻れない)
はあ、とため息をついた。
カップにお湯を注いだ辰泰が戻ってきた。
「熱いから気をつけろよ?」
スオウだとバレたからだろうか、身体の関係になったからだろうか。いつの間にか辰泰から敬語が消えている。先輩とも呼ばなくなっている。
起き上がった那月はカップラーメンと箸を受け取り、もそもそと食べ始めた。食欲がなかったはずなのに、案外食べられる。
辰泰も牛丼の元へ戻って、残りを食べ始めた。
那月はカップラーメンを食べながら、ぼんやりと辰泰を眺めた。
「……いつから」
「え?」
「いつから俺のこと好きなの」
那月が問いかけると、辰泰が頬を赤らめた。
「初めて出会った時から」
「……結構前だな」
腐れ縁だと思っていたのは那月だけだったのだ。つきまとってくるのを不思議に思っていたが、実は下心満載だったのだろう。
ずっと性的な目で見られていたのだと思うと、変な気分になった。
箸を持つ手も、ラーメンをすする唇も、辰泰からはいったいどう見えているのだろう。そう思うと妙に意識してしまい、わずかに手が震えた。
今さら緊張するなんてどうかしている。
「……大学、さぼっちゃったな」
誤魔化すように那月が口を開く。
「一日ぐらいなら大丈夫だよ」
辰泰が気さくに言う。
(俺はこの先もずっと、辰泰と寝るんだろうか)
誘われれば断らないだろう。でも愛しているかと問われると、それは違うと思う。求められたいだけなのだ。求められて愉悦に浸りたいだけなのだ。
(調子に乗りすぎだ、俺)
モテていることに愉悦を覚え始めている。リュウトからもスオウからも愛されている自分に酔い始めている。初めはあんなに無理矢理だったのに。あんなに嫌だったのに。
いつの間にか、愛されることが当たり前になっている。
(タチが悪い)
自分でも思う。愛されたい、求められたい、でも自分は彼らを愛さない。なんて身勝手な。彼らをいいように利用して悦楽に浸りたいだけではないか。
牛丼を食べ終わった辰泰が近づいてきた。顔を寄せられ、反射的にまぶたを閉じる。貪るような口づけ。
「……ラーメンの味がする」
「……牛丼の味がする」
ふふっと互いに笑った。妙にそれがおかしかった。
「那月、愛してる」
耳をくすぐるその言葉はとても心地よく、だが同時に罪悪感をともなう。
(俺は愛してないから)
頬に口づけられ、ズキズキと心が痛む。
辰泰は勘違いしてしまったかもしれない。こんな風に微笑ましく過ごしてしまったら、勘違いしてしまうかもしれない。
(俺は愛してないのに)
辰泰の顔がまた近づいてきて、唇を塞がれる。愛おしいもののように触れられ、愛おしいもののように口づけられる。
愛されなくてもいい。ただ拒絶はしないで。辰泰の望みはそれだけだ。わざわざそう伝えてきたと言うことは、那月の気持ちはわかっているのだろう。
その後はイチャイチャすることはあっても、セックスにはなだれ込まなかった。那月の消耗を辰泰も理解していたのだろう。夕方ぐらいになると身体もだいぶ回復してきて、那月は帰ることにした。
「じゃ」
「また明日」
「うん、また明日。会えるかわかんないけど」
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