悠久の大陸

彩森ゆいか

文字の大きさ
上 下
55 / 80

第55話 彼の正体

しおりを挟む
 壁に手をつきながら、中に出された精液を辰泰の指で掻き出され、熱にうかされたようなため息をつきながら那月はまぶたを閉じた。何か弱みを握られた気分だった。
 知られてはいけないことを知られてしまったような。越えてはならない一線を越えてしまったような。身体の奥の奥まで知り尽くされてしまったような。
 辰泰が那月の恋人ならそれでも構わなかったが、恋愛感情があるわけではない。ただケモノのように、互いが快楽に溺れただけにすぎない。
「俺はずっと先輩のこと好きでした。こんな風にしたいっていつも思ってました。願望が叶ってとても嬉しいです」
 いきなり後ろから耳元で告白された。那月はびっくりする。
「頭の中ではいつも先輩のこと裸にして犯してました。どこを触ると感じるのか、どんな声で喘ぐのか、想像して、シュミレーションして、いつこうなってもすぐに対応できるように」
 那月は呆然とした顔で振り返り、辰泰を見つめた。
「……ずっと、そういう目で、見てたのか」
 辰泰がにっこりと笑う。
「気づいてなかった先輩が鈍いんです。俺は隠してませんでした」
 うなじに口づけられる。びくっと那月が小さく揺れた。
「……んっ……」
「俺の家に来ますか、今日」
 誘われて那月は心底から戸惑う。
「……え、いや、今日は……」
「俺はいつでも歓迎です。その気になったら言ってくださいね」
「…………」
 伏し目がちの那月の瞳が揺れた。誘惑に乗りそうな自分に内心戸惑っていた。恋愛感情なんてないのに、どうして。
(なんて浅ましい身体に成り果ててしまったんだ)
 そんな那月の内心の葛藤には気づかない様子で、辰泰は満足しきった顔をしていた。
「愛してるよ、那月」
 うなじに顔をうずめながら、辰泰が囁いた。那月は、つい最近同じことを言われたなと思った。
 ハッとした。驚きの眼差しで辰泰を見つめた。
「どうしました?」
 辰泰が怪訝そうな顔をする。那月は穴があきそうなほど彼を見つめた。
「……スオウ……?」
「えっ?」
 反射的に辰泰の目が泳いだ。那月は瞬時に確信した。
 スオウは辰泰よりも遥かに体格がいい。戦闘に向いた筋肉質な身体で、身長ももっと高い。スオウの顔はどちらかと言うと日本人というよりも外国人に近く、髪の色も金髪寄りの茶色だ。言われなければ辰泰とスオウは結びつかない。
 那月は走馬灯のようにさまざまなことを思い出した。初めて出会った時、スオウはナツキを見て驚いていなかったか。名前を聞いて、絶句していなかったか。
「……俺を、見つけるのは、簡単だっただろ……」
 ゲーム内の姿形をリアルに近づけ、同じ名前を名乗っていた。すぐに気づかれて当然だ。あの広い世界で、そんなすぐに知り合いに出会うなんて誰が思うだろうか。
 辰泰の手が、那月の髪に触れた。まじまじと顔を見つめてくる。
「初めて見た時はすごくびっくりした。リアルの那月そのまんまで、この人バカなのかなって。でもすぐ愛おしくなって。俺のものにしたくなって」
 熱っぽい眼差しで見つめられ、戸惑いながら那月は問いかけた。
「……リュウトのことは、どう思った……?」
 辰泰は当時の苛立ちを思い出したような顔をした。
「最初は殺してやろうかと思ったよ。俺の那月になんてことしやがったんだって。でも」
「二輪刺し提案されて、あっさり落ちやがって」
 那月がぼやくと、辰泰はあははと笑って頭をかいた。
「話のわかるいいヤツだと思ったよ。那月を二人で共有するのはちょっと複雑でもあったけど、それはそれで楽しかったし」
 辰泰の顔が近づいてきて、唇にキスされる。
「俺は那月とやれれば、それだけでもよくて。俺のこと愛してほしいとか、そんな高望みはしてません。ただ、俺のこと拒絶しないでもらえれば、それでいい」
「……ほんとに?」
 那月は上目遣いで辰泰を見つめた。辰泰はにっこりと微笑んだ。
「ほんとに」
 再び口づけられた。
「でもリュウトを好きになるのはナシですよ? 俺のことを好きにならないのなら、誰のことも好きにならないでください。カラダだけの関係でいてください」
「……カラダ、だけの、関係」
 那月は反芻した。辰泰が深くうなずく。
「それでバランスが保たれてるんです。三人の奇妙なトライアングルの」
「……わかった」
 那月は素直にうなずいた。
 辰泰が口を開き、耳元で囁く。
「でも、俺のことは内緒にしてください。これは二人だけの秘密です。リアルでも知り合いで関係を持ってることは、リュウトには内緒です。いいですね?」
「…………」
 こくりと那月はうなずいた。辰泰が微笑んで、また那月に口づける。
「じゃあ、帰りましょうか。今から教室に戻っても、もう間に合わないし」
「帰るって、どこに?」
 那月が問いかけると、辰泰は微笑みながら口を開いた。
「どこって、俺の家ですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

松本先生のハードスパンキング パート1

バンビーノ
BL
 中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。  初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。 「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」  僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。 「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」  気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。  

処理中です...