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第55話 彼の正体
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壁に手をつきながら、中に出された精液を辰泰の指で掻き出され、熱にうかされたようなため息をつきながら那月はまぶたを閉じた。何か弱みを握られた気分だった。
知られてはいけないことを知られてしまったような。越えてはならない一線を越えてしまったような。身体の奥の奥まで知り尽くされてしまったような。
辰泰が那月の恋人ならそれでも構わなかったが、恋愛感情があるわけではない。ただケモノのように、互いが快楽に溺れただけにすぎない。
「俺はずっと先輩のこと好きでした。こんな風にしたいっていつも思ってました。願望が叶ってとても嬉しいです」
いきなり後ろから耳元で告白された。那月はびっくりする。
「頭の中ではいつも先輩のこと裸にして犯してました。どこを触ると感じるのか、どんな声で喘ぐのか、想像して、シュミレーションして、いつこうなってもすぐに対応できるように」
那月は呆然とした顔で振り返り、辰泰を見つめた。
「……ずっと、そういう目で、見てたのか」
辰泰がにっこりと笑う。
「気づいてなかった先輩が鈍いんです。俺は隠してませんでした」
うなじに口づけられる。びくっと那月が小さく揺れた。
「……んっ……」
「俺の家に来ますか、今日」
誘われて那月は心底から戸惑う。
「……え、いや、今日は……」
「俺はいつでも歓迎です。その気になったら言ってくださいね」
「…………」
伏し目がちの那月の瞳が揺れた。誘惑に乗りそうな自分に内心戸惑っていた。恋愛感情なんてないのに、どうして。
(なんて浅ましい身体に成り果ててしまったんだ)
そんな那月の内心の葛藤には気づかない様子で、辰泰は満足しきった顔をしていた。
「愛してるよ、那月」
うなじに顔をうずめながら、辰泰が囁いた。那月は、つい最近同じことを言われたなと思った。
ハッとした。驚きの眼差しで辰泰を見つめた。
「どうしました?」
辰泰が怪訝そうな顔をする。那月は穴があきそうなほど彼を見つめた。
「……スオウ……?」
「えっ?」
反射的に辰泰の目が泳いだ。那月は瞬時に確信した。
スオウは辰泰よりも遥かに体格がいい。戦闘に向いた筋肉質な身体で、身長ももっと高い。スオウの顔はどちらかと言うと日本人というよりも外国人に近く、髪の色も金髪寄りの茶色だ。言われなければ辰泰とスオウは結びつかない。
那月は走馬灯のようにさまざまなことを思い出した。初めて出会った時、スオウはナツキを見て驚いていなかったか。名前を聞いて、絶句していなかったか。
「……俺を、見つけるのは、簡単だっただろ……」
ゲーム内の姿形をリアルに近づけ、同じ名前を名乗っていた。すぐに気づかれて当然だ。あの広い世界で、そんなすぐに知り合いに出会うなんて誰が思うだろうか。
辰泰の手が、那月の髪に触れた。まじまじと顔を見つめてくる。
「初めて見た時はすごくびっくりした。リアルの那月そのまんまで、この人バカなのかなって。でもすぐ愛おしくなって。俺のものにしたくなって」
熱っぽい眼差しで見つめられ、戸惑いながら那月は問いかけた。
「……リュウトのことは、どう思った……?」
辰泰は当時の苛立ちを思い出したような顔をした。
「最初は殺してやろうかと思ったよ。俺の那月になんてことしやがったんだって。でも」
「二輪刺し提案されて、あっさり落ちやがって」
那月がぼやくと、辰泰はあははと笑って頭をかいた。
「話のわかるいいヤツだと思ったよ。那月を二人で共有するのはちょっと複雑でもあったけど、それはそれで楽しかったし」
辰泰の顔が近づいてきて、唇にキスされる。
「俺は那月とやれれば、それだけでもよくて。俺のこと愛してほしいとか、そんな高望みはしてません。ただ、俺のこと拒絶しないでもらえれば、それでいい」
「……ほんとに?」
那月は上目遣いで辰泰を見つめた。辰泰はにっこりと微笑んだ。
「ほんとに」
再び口づけられた。
「でもリュウトを好きになるのはナシですよ? 俺のことを好きにならないのなら、誰のことも好きにならないでください。カラダだけの関係でいてください」
「……カラダ、だけの、関係」
那月は反芻した。辰泰が深くうなずく。
「それでバランスが保たれてるんです。三人の奇妙なトライアングルの」
「……わかった」
那月は素直にうなずいた。
辰泰が口を開き、耳元で囁く。
「でも、俺のことは内緒にしてください。これは二人だけの秘密です。リアルでも知り合いで関係を持ってることは、リュウトには内緒です。いいですね?」
「…………」
こくりと那月はうなずいた。辰泰が微笑んで、また那月に口づける。
「じゃあ、帰りましょうか。今から教室に戻っても、もう間に合わないし」
「帰るって、どこに?」
那月が問いかけると、辰泰は微笑みながら口を開いた。
「どこって、俺の家ですよ」
知られてはいけないことを知られてしまったような。越えてはならない一線を越えてしまったような。身体の奥の奥まで知り尽くされてしまったような。
辰泰が那月の恋人ならそれでも構わなかったが、恋愛感情があるわけではない。ただケモノのように、互いが快楽に溺れただけにすぎない。
「俺はずっと先輩のこと好きでした。こんな風にしたいっていつも思ってました。願望が叶ってとても嬉しいです」
いきなり後ろから耳元で告白された。那月はびっくりする。
「頭の中ではいつも先輩のこと裸にして犯してました。どこを触ると感じるのか、どんな声で喘ぐのか、想像して、シュミレーションして、いつこうなってもすぐに対応できるように」
那月は呆然とした顔で振り返り、辰泰を見つめた。
「……ずっと、そういう目で、見てたのか」
辰泰がにっこりと笑う。
「気づいてなかった先輩が鈍いんです。俺は隠してませんでした」
うなじに口づけられる。びくっと那月が小さく揺れた。
「……んっ……」
「俺の家に来ますか、今日」
誘われて那月は心底から戸惑う。
「……え、いや、今日は……」
「俺はいつでも歓迎です。その気になったら言ってくださいね」
「…………」
伏し目がちの那月の瞳が揺れた。誘惑に乗りそうな自分に内心戸惑っていた。恋愛感情なんてないのに、どうして。
(なんて浅ましい身体に成り果ててしまったんだ)
そんな那月の内心の葛藤には気づかない様子で、辰泰は満足しきった顔をしていた。
「愛してるよ、那月」
うなじに顔をうずめながら、辰泰が囁いた。那月は、つい最近同じことを言われたなと思った。
ハッとした。驚きの眼差しで辰泰を見つめた。
「どうしました?」
辰泰が怪訝そうな顔をする。那月は穴があきそうなほど彼を見つめた。
「……スオウ……?」
「えっ?」
反射的に辰泰の目が泳いだ。那月は瞬時に確信した。
スオウは辰泰よりも遥かに体格がいい。戦闘に向いた筋肉質な身体で、身長ももっと高い。スオウの顔はどちらかと言うと日本人というよりも外国人に近く、髪の色も金髪寄りの茶色だ。言われなければ辰泰とスオウは結びつかない。
那月は走馬灯のようにさまざまなことを思い出した。初めて出会った時、スオウはナツキを見て驚いていなかったか。名前を聞いて、絶句していなかったか。
「……俺を、見つけるのは、簡単だっただろ……」
ゲーム内の姿形をリアルに近づけ、同じ名前を名乗っていた。すぐに気づかれて当然だ。あの広い世界で、そんなすぐに知り合いに出会うなんて誰が思うだろうか。
辰泰の手が、那月の髪に触れた。まじまじと顔を見つめてくる。
「初めて見た時はすごくびっくりした。リアルの那月そのまんまで、この人バカなのかなって。でもすぐ愛おしくなって。俺のものにしたくなって」
熱っぽい眼差しで見つめられ、戸惑いながら那月は問いかけた。
「……リュウトのことは、どう思った……?」
辰泰は当時の苛立ちを思い出したような顔をした。
「最初は殺してやろうかと思ったよ。俺の那月になんてことしやがったんだって。でも」
「二輪刺し提案されて、あっさり落ちやがって」
那月がぼやくと、辰泰はあははと笑って頭をかいた。
「話のわかるいいヤツだと思ったよ。那月を二人で共有するのはちょっと複雑でもあったけど、それはそれで楽しかったし」
辰泰の顔が近づいてきて、唇にキスされる。
「俺は那月とやれれば、それだけでもよくて。俺のこと愛してほしいとか、そんな高望みはしてません。ただ、俺のこと拒絶しないでもらえれば、それでいい」
「……ほんとに?」
那月は上目遣いで辰泰を見つめた。辰泰はにっこりと微笑んだ。
「ほんとに」
再び口づけられた。
「でもリュウトを好きになるのはナシですよ? 俺のことを好きにならないのなら、誰のことも好きにならないでください。カラダだけの関係でいてください」
「……カラダ、だけの、関係」
那月は反芻した。辰泰が深くうなずく。
「それでバランスが保たれてるんです。三人の奇妙なトライアングルの」
「……わかった」
那月は素直にうなずいた。
辰泰が口を開き、耳元で囁く。
「でも、俺のことは内緒にしてください。これは二人だけの秘密です。リアルでも知り合いで関係を持ってることは、リュウトには内緒です。いいですね?」
「…………」
こくりと那月はうなずいた。辰泰が微笑んで、また那月に口づける。
「じゃあ、帰りましょうか。今から教室に戻っても、もう間に合わないし」
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那月が問いかけると、辰泰は微笑みながら口を開いた。
「どこって、俺の家ですよ」
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