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第51話 リアルでもやってみたいと思いません?
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昼になり学食に行くと、辰泰が現れた。
「……またおまえか」
「ひどいなあ。そんなに俺ウザいですか」
「ウザい」
「ひどいなあ」
そう嘆きつつも、後についてくる。那月が定食を手に席につくと、辰泰も向かい側に腰を落ち着けた。
「で、ゲームはどうですか?」
「えっ?」
那月がぎくりとして顔をあげた。
「何が?」
「だから、ゲーム」
那月は視線をうつむかせた。
「……もう、やってない」
「え? やめちゃったんですか?」
辰泰が驚いた顔をする。那月は素直にうなずいた。
「うん。しばらくやめることにした」
「どうして?」
戸惑いを見せる辰泰をちらっと見やり、那月は嘆くように左右に首を振った。
「……ちょっと、リアルとヴァーチャルの境目が曖昧になってきて、自分でもヤバイって思ったからだよ。おまえは? 半年もあのゲームやってておかしくならねえの?」
辰泰は爽やかな笑顔を見せた。
「俺は大丈夫ですよ。リアルとヴァーチャルの区別はついてます」
那月は思わず感心する。辰泰を見つめた。
「……おまえ、すごいな。俺はなんか……いろいろヤバイよ」
わずかに頬を赤く染めた那月に、辰泰が問いかけてきた。
「例えば? どんな風に?」
「やだ。教えない」
那月が言うと、辰泰がため息をついた。
少し考える素振りを見せた後、淡々と口を開く。
「先輩、セックスってしました?」
単刀直入に訊かれ、那月がぎょっとする。
瞬時に顔が赤く染まった。激しく動揺したが、グッと耐えた。
「えっ?」
辰泰がニヤリと微笑む。
「ゲームの中でセックスできるんです。アダルト空間っていう場所があって。はっきり言ってしまえば、俺はそこに興味を惹かれて、あのゲーム始めました。すごく気持ちいいんですよ。ヤミツキになるぐらい」
「……そ、そう……」
那月は定食を食べながら伏し目がちになる。辰泰と目を合わせたくなかった。変な気分をぶり返しそうな気がして。そうでなくても脳裏に何度も、あの光景がちらついているというのに。
「先輩は? しました?」
まだ話を続けようとする辰泰に、那月は素っ気なく応じた。
「……もう、その話はいいよ」
「どうして?」
「嫌いだから」
辰泰はなぜこの話をしつこく続けるのだろう。もうやめてほしい。
頭を冷やしたいのに。
「何が? セックスがですか? 珍しいですね男でそういう話題を嫌う人」
「メシがまずくなるし、昼間だし、学食だし、他にたくさん人もいるし」
「大丈夫です。聞こえませんよ」
辰泰の声音が少しだけ低くなった。
「でも変ですね。先輩、顔も赤くなってるし、目も潤んできてる。呼吸も少し苦しそうですよ。どうしてそんな風になるんですか?」
「…………」
那月は耐えるように唇を噛んだ。
辰泰の声がさらに低くなる。熱っぽさが増した。
「俺ね、リアルで男としたことないんですよ。リアルでも気持ちいいのかなって夢想したりするんです」
那月は驚いて顔をあげた。
「……おまえ、ゲームの中で男としてるのか」
辰泰は落ち着いた素振りで微笑んだ。
「いろいろです。男ともするし、女ともするし。セックス自体に興味があるんです。でもアダルト空間に本物の女はまずいませんけどね。ネカマかNPCぐらいしか出会えません。いたとしてもきっとすごく少ないんでしょうね」
「…………」
辰泰の眼差しが熱っぽくなった。那月の顔を覗き込もうとする。
「先輩は? リアルでもやってみたいと思いません?」
辰泰の手が伸びて、那月の手に触れた。ビクッとして思わず箸を落としてしまう。
「あっ……バカッ、おまえのせいで箸が……っ」
慌てる那月を面白そうに眺め、辰泰は嬉しそうに微笑んだ。
「どうして動揺するんです? ホントは先輩もゲームの中でセックスしてるんじゃないですか?」
「……おまえ、いい加減にしろ」
那月は辰泰を睨みつけた。
「そんな潤んだ目で怒られても、全然怖くないですよ、先輩」
辰泰がにこやかに笑う。
「やるほうですか? それとも、やられるほうですか? ちなみに俺はタチです。先輩は?」
こんなヤツだったっけ。那月は混乱する頭で考える。
こいつ、こんなヤツだったっけ。
「リアルでも男としてみたいんです。興味本位ですよ。先輩は興味ありません?」
「…………」
那月はめまいを覚え、自分の息が熱くなるのを感じた。
「……またおまえか」
「ひどいなあ。そんなに俺ウザいですか」
「ウザい」
「ひどいなあ」
そう嘆きつつも、後についてくる。那月が定食を手に席につくと、辰泰も向かい側に腰を落ち着けた。
「で、ゲームはどうですか?」
「えっ?」
那月がぎくりとして顔をあげた。
「何が?」
「だから、ゲーム」
那月は視線をうつむかせた。
「……もう、やってない」
「え? やめちゃったんですか?」
辰泰が驚いた顔をする。那月は素直にうなずいた。
「うん。しばらくやめることにした」
「どうして?」
戸惑いを見せる辰泰をちらっと見やり、那月は嘆くように左右に首を振った。
「……ちょっと、リアルとヴァーチャルの境目が曖昧になってきて、自分でもヤバイって思ったからだよ。おまえは? 半年もあのゲームやってておかしくならねえの?」
辰泰は爽やかな笑顔を見せた。
「俺は大丈夫ですよ。リアルとヴァーチャルの区別はついてます」
那月は思わず感心する。辰泰を見つめた。
「……おまえ、すごいな。俺はなんか……いろいろヤバイよ」
わずかに頬を赤く染めた那月に、辰泰が問いかけてきた。
「例えば? どんな風に?」
「やだ。教えない」
那月が言うと、辰泰がため息をついた。
少し考える素振りを見せた後、淡々と口を開く。
「先輩、セックスってしました?」
単刀直入に訊かれ、那月がぎょっとする。
瞬時に顔が赤く染まった。激しく動揺したが、グッと耐えた。
「えっ?」
辰泰がニヤリと微笑む。
「ゲームの中でセックスできるんです。アダルト空間っていう場所があって。はっきり言ってしまえば、俺はそこに興味を惹かれて、あのゲーム始めました。すごく気持ちいいんですよ。ヤミツキになるぐらい」
「……そ、そう……」
那月は定食を食べながら伏し目がちになる。辰泰と目を合わせたくなかった。変な気分をぶり返しそうな気がして。そうでなくても脳裏に何度も、あの光景がちらついているというのに。
「先輩は? しました?」
まだ話を続けようとする辰泰に、那月は素っ気なく応じた。
「……もう、その話はいいよ」
「どうして?」
「嫌いだから」
辰泰はなぜこの話をしつこく続けるのだろう。もうやめてほしい。
頭を冷やしたいのに。
「何が? セックスがですか? 珍しいですね男でそういう話題を嫌う人」
「メシがまずくなるし、昼間だし、学食だし、他にたくさん人もいるし」
「大丈夫です。聞こえませんよ」
辰泰の声音が少しだけ低くなった。
「でも変ですね。先輩、顔も赤くなってるし、目も潤んできてる。呼吸も少し苦しそうですよ。どうしてそんな風になるんですか?」
「…………」
那月は耐えるように唇を噛んだ。
辰泰の声がさらに低くなる。熱っぽさが増した。
「俺ね、リアルで男としたことないんですよ。リアルでも気持ちいいのかなって夢想したりするんです」
那月は驚いて顔をあげた。
「……おまえ、ゲームの中で男としてるのか」
辰泰は落ち着いた素振りで微笑んだ。
「いろいろです。男ともするし、女ともするし。セックス自体に興味があるんです。でもアダルト空間に本物の女はまずいませんけどね。ネカマかNPCぐらいしか出会えません。いたとしてもきっとすごく少ないんでしょうね」
「…………」
辰泰の眼差しが熱っぽくなった。那月の顔を覗き込もうとする。
「先輩は? リアルでもやってみたいと思いません?」
辰泰の手が伸びて、那月の手に触れた。ビクッとして思わず箸を落としてしまう。
「あっ……バカッ、おまえのせいで箸が……っ」
慌てる那月を面白そうに眺め、辰泰は嬉しそうに微笑んだ。
「どうして動揺するんです? ホントは先輩もゲームの中でセックスしてるんじゃないですか?」
「……おまえ、いい加減にしろ」
那月は辰泰を睨みつけた。
「そんな潤んだ目で怒られても、全然怖くないですよ、先輩」
辰泰がにこやかに笑う。
「やるほうですか? それとも、やられるほうですか? ちなみに俺はタチです。先輩は?」
こんなヤツだったっけ。那月は混乱する頭で考える。
こいつ、こんなヤツだったっけ。
「リアルでも男としてみたいんです。興味本位ですよ。先輩は興味ありません?」
「…………」
那月はめまいを覚え、自分の息が熱くなるのを感じた。
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