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第44話 健全なゲーム
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ログアウトした場所からのスタートだった。ウラクの町の役場の前だ。きょろきょろと周りを見渡したが、リュウトもスオウもいなかった。ホッと安堵しながら役場のクエスト一覧を眺める。まともにゲームができる喜びを噛み締めた。
よく見ると、料理を作るクエストや、釣りのクエストもある。まだ磨いていないスキルはなんだったろうかとステータス画面を開き、ナツキは確認した。
性的な数値ばかりが異様に高く、ナツキは内心でげんなりとする。
アダルト要素を省けば、それ以外は全年齢対象のゲームとほぼ同じだ。
『デルタスタのダンジョンをクリアする』
一人でダンジョンは危険だろうか。ライフがゼロになると、モンスターと戦う直前に戻る仕様になっていたはずだ。リュウトやスオウと行動を共にしていたせいで、まだそういう状況になったことはない。
ライフがゼロになる感覚を想像して、ナツキはぞっとした。普段コントローラーを握って遊ぶゲームなら、ゲームオーバーになってもただ悔しいだけだが、リアルに体感できるゲームの場合は死を経験するのと同じなのではないのだろうか。
性の感覚があれほどリアルなのだ。死の感覚もリアルかもしれない。
恐怖を覚えて、思わず自分の腕を抱く。
「よし、もっと平和なやつをやろう」
結局ナツキが選んだクエストは、羊毛を刈って布を作るクエストだった。
ウラクの町の牧羊園には、数多くの羊がわらわらといる。NPCと同じようにプログラムに従って存在している羊なので、どれほど羊毛を刈られてもハゲない。それでも一頭から取れる量は限られていて、その時には別の羊へと移動する。
羊毛専用のナイフを購入し、ナツキはウキウキとしながら牧羊園へと向かった。羊たちはメエメエと鳴きながら地面の草をはんでいる。
羊の毛を刈るのはこのナイフ以外ではできない仕様になっていて、そして羊たちを傷つけるようなことも絶対にできない。平和で安全な設計なのだ。モンスターではない動物たちは殺せない。
ナツキは一頭の羊の前に腰を下ろし、羊毛を刈った。取れた羊毛は自動的にアイテム枠に入っていく。数を確認したかったらステータス画面を開けばいい。
無心で羊の毛を刈っていたら、ピコンと音がした。
『もうこの羊から羊毛は取れません。他の羊に移動してください』
電光掲示板のように目の前を文字が流れた。と同時に合成音声で読み上げられる。
他の羊のところに移動し、また無心で羊の毛を刈る。そんなことをしているうちに、異様に羊毛がたまった。アイテム枠には限りがあるが、同じアイテムなら999個まで持てる。
どれだけ増えても荷物にならないのがいい。
「よし、じゃあ布を織るか」
布を織るためには移動しないといけない。ここで取れるのは羊毛だけだ。
ナツキはウラクの町を歩き回り、糸車と織り機を探す。その途中で高炉を見つけた。このゲームではアイテムや武器も、アイテム合成などで作ることができる。そのためには材料を集めなければならないのだが、今のナツキのレベルではまだ厳しかった。リュウトやスオウなら材料を持っているかもしれないので、アイテムをトレードしてもらえればできるのかもしれないが。
ようやく洋品店を見つけた。羊毛を糸にしてから布を織るので、非常に手間がかかる。糸車と織り機の前には二人のプレイヤーがいた。どちらも筋骨隆々でいかつい。ナツキは内心で怖気づいたが、勇気を振り絞って近づいた。
ゲームならではなのだが、一見ひとつしか糸車と織り機がないようでも、プレイヤーの人数に合わせて自動的に増えてくれる。
ナツキは無心で糸をつむいだ。久しぶりに心が洗われる気分だ。
糸をつむぎ終え、では次に布を織ろうかと思ったところで、目の前にスオウとリュウトが現れた。
「えっ?」
二人が同時に現れたことに、ナツキは驚いた。まるで示し合わせたようなタイミングで戸惑う。怪訝な顔をするナツキを見て何を思ったのか、スオウが口を開いた。リュウトを指差す。
「ゲームの中に入ったら、こいつが洋品店の中をずっと見てたから、何かと思って覗いて見たらナツキがいたんだ」
「えっ……?」
ではずっとリュウトに見られていたのだろうか。声もかけずに?
考えるだけでも恐怖でゾクゾクとしたが、リュウトは何も言わずにナツキの手元を見ているだけだ。
「え、あの……? 糸がどうか……?」
「いや、ずいぶん手間暇のかかることが好きなんだなと思って」
「え、でも、これもゲームだし。ほら、どんなゲームだって作業ゲーみたいな要素は必ずあるわけだし」
「俺はそういうの苦手なんだ。これからはそういう作業系はナツキにやってもらおう」
「あ、うん、それはいいけど……でも、俺がやるとリュウトのスキルの数値あがらないけど?」
「いいんだ。戦闘にはあまり響かないから」
「そ、そう」
ナツキが戸惑いながら返事をすると、スオウも口を挟んできた。
「俺も作業ゲー苦手」
「だろうな」
「ナツキ、なんか俺には態度違うな」
「気のせいだろ」
作業を続けようとしたら、リュウトがナツキの手首をつかんだ。ドキリとして顔をあげると、彼はゆっくりと左右に首を振った。
「中断して、俺についてきてくれ」
「……え……?」
ナツキは不安そうに瞳を揺らした。
よく見ると、料理を作るクエストや、釣りのクエストもある。まだ磨いていないスキルはなんだったろうかとステータス画面を開き、ナツキは確認した。
性的な数値ばかりが異様に高く、ナツキは内心でげんなりとする。
アダルト要素を省けば、それ以外は全年齢対象のゲームとほぼ同じだ。
『デルタスタのダンジョンをクリアする』
一人でダンジョンは危険だろうか。ライフがゼロになると、モンスターと戦う直前に戻る仕様になっていたはずだ。リュウトやスオウと行動を共にしていたせいで、まだそういう状況になったことはない。
ライフがゼロになる感覚を想像して、ナツキはぞっとした。普段コントローラーを握って遊ぶゲームなら、ゲームオーバーになってもただ悔しいだけだが、リアルに体感できるゲームの場合は死を経験するのと同じなのではないのだろうか。
性の感覚があれほどリアルなのだ。死の感覚もリアルかもしれない。
恐怖を覚えて、思わず自分の腕を抱く。
「よし、もっと平和なやつをやろう」
結局ナツキが選んだクエストは、羊毛を刈って布を作るクエストだった。
ウラクの町の牧羊園には、数多くの羊がわらわらといる。NPCと同じようにプログラムに従って存在している羊なので、どれほど羊毛を刈られてもハゲない。それでも一頭から取れる量は限られていて、その時には別の羊へと移動する。
羊毛専用のナイフを購入し、ナツキはウキウキとしながら牧羊園へと向かった。羊たちはメエメエと鳴きながら地面の草をはんでいる。
羊の毛を刈るのはこのナイフ以外ではできない仕様になっていて、そして羊たちを傷つけるようなことも絶対にできない。平和で安全な設計なのだ。モンスターではない動物たちは殺せない。
ナツキは一頭の羊の前に腰を下ろし、羊毛を刈った。取れた羊毛は自動的にアイテム枠に入っていく。数を確認したかったらステータス画面を開けばいい。
無心で羊の毛を刈っていたら、ピコンと音がした。
『もうこの羊から羊毛は取れません。他の羊に移動してください』
電光掲示板のように目の前を文字が流れた。と同時に合成音声で読み上げられる。
他の羊のところに移動し、また無心で羊の毛を刈る。そんなことをしているうちに、異様に羊毛がたまった。アイテム枠には限りがあるが、同じアイテムなら999個まで持てる。
どれだけ増えても荷物にならないのがいい。
「よし、じゃあ布を織るか」
布を織るためには移動しないといけない。ここで取れるのは羊毛だけだ。
ナツキはウラクの町を歩き回り、糸車と織り機を探す。その途中で高炉を見つけた。このゲームではアイテムや武器も、アイテム合成などで作ることができる。そのためには材料を集めなければならないのだが、今のナツキのレベルではまだ厳しかった。リュウトやスオウなら材料を持っているかもしれないので、アイテムをトレードしてもらえればできるのかもしれないが。
ようやく洋品店を見つけた。羊毛を糸にしてから布を織るので、非常に手間がかかる。糸車と織り機の前には二人のプレイヤーがいた。どちらも筋骨隆々でいかつい。ナツキは内心で怖気づいたが、勇気を振り絞って近づいた。
ゲームならではなのだが、一見ひとつしか糸車と織り機がないようでも、プレイヤーの人数に合わせて自動的に増えてくれる。
ナツキは無心で糸をつむいだ。久しぶりに心が洗われる気分だ。
糸をつむぎ終え、では次に布を織ろうかと思ったところで、目の前にスオウとリュウトが現れた。
「えっ?」
二人が同時に現れたことに、ナツキは驚いた。まるで示し合わせたようなタイミングで戸惑う。怪訝な顔をするナツキを見て何を思ったのか、スオウが口を開いた。リュウトを指差す。
「ゲームの中に入ったら、こいつが洋品店の中をずっと見てたから、何かと思って覗いて見たらナツキがいたんだ」
「えっ……?」
ではずっとリュウトに見られていたのだろうか。声もかけずに?
考えるだけでも恐怖でゾクゾクとしたが、リュウトは何も言わずにナツキの手元を見ているだけだ。
「え、あの……? 糸がどうか……?」
「いや、ずいぶん手間暇のかかることが好きなんだなと思って」
「え、でも、これもゲームだし。ほら、どんなゲームだって作業ゲーみたいな要素は必ずあるわけだし」
「俺はそういうの苦手なんだ。これからはそういう作業系はナツキにやってもらおう」
「あ、うん、それはいいけど……でも、俺がやるとリュウトのスキルの数値あがらないけど?」
「いいんだ。戦闘にはあまり響かないから」
「そ、そう」
ナツキが戸惑いながら返事をすると、スオウも口を挟んできた。
「俺も作業ゲー苦手」
「だろうな」
「ナツキ、なんか俺には態度違うな」
「気のせいだろ」
作業を続けようとしたら、リュウトがナツキの手首をつかんだ。ドキリとして顔をあげると、彼はゆっくりと左右に首を振った。
「中断して、俺についてきてくれ」
「……え……?」
ナツキは不安そうに瞳を揺らした。
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