悠久の大陸

彩森ゆいか

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第37話 ゲーム再開

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 とりあえず、身体を綺麗にして、装備も整えて、ゲームを再開することにした。アダルト空間に来て以来、セックスが活動のメインのようになってしまっているが、それは本意ではない。ナツキはセックスをするためにここにいるのではなく、ゲームをするためにここに来ているのだから。
(初心を取り戻そう。初心、初心)
 セックスばかりしていたせいか、心身ともに疲労感は強かったが、それもスオウが魔法で回復してくれた。ゲーム世界のアイテムや魔法はとても便利で、どれほど怪我をしていても疲弊していても、なんとかなってしまう。そこが現実世界とは違った。
(なんか、ドーピングみたいだな)
 ほんのりそんなことを思ったが、体感型のVRMMOだから余計そう思うのであり、たいがいのゲームではアイテムや魔法などで回復できたり強化したりするのが普通なのだ。だからおかしくはないのである。
「じゃあ、真面目に冒険するか」
 スオウがそう言って宿屋のドアノブを握った。
「そう言えば、まだレンザニアの花を三十本採取したやつが完了していないんだけど」
 ナツキが言うと、スオウが思い出した顔をした。
「あっ、そうか。俺が持ってたんだっけ」
 パーティを組んでいる相手とは、気軽にアイテムをトレードすることができる。
 最初からナツキではなくスオウが採取していれば、呪われて身体が動かなくなるようなこともなかったのだ。ナツキはスオウの作為を感じた。彼は初めからナツキが動けなくなるのを狙っていたのだろう。
 今でこそ、仕方がないと思うこともできるが、場合によっては殺意をいだいてもおかしくない状況だったのだ。
(そう考えたら、俺って寛大)
 許せてしまえるのは、心のどこかでスオウを憎みきれないからなのだろう。あんなにまっすぐな眼差しで、好きだ好きだと連呼されてしまうと嫌いにはなれない。
(捨て犬に懐かれた通りすがりの人の気分。たぶん、それだ)
 愛でもない。恋でもない。捨て犬を拾った飼い主の気分。当てはまるものがあるとすれば、きっとそれなのだろう。
 スオウが急に振り返った。どうしたのだろうと見つめ返していたら、いきなり顔を寄せてきた。
「んっ……ふぁっ」
 唐突なキスに戸惑ったが、ナツキの身体はすぐに反応するようになってしまっている。たちまち身体が熱くなり、頭もぼうっとした。
「……いい顔してる」
 スオウがぼそりと言った。
 きっとこういう時のナツキの表情が誤解を呼ぶのだろう。素直に気持ちよくなってしまったりするせいで。嫌がってみても説得力がないと思われるのは当然だった。
「……キスしてる場合じゃないだろ。俺はゲームをやりたいんだよ」
「はいはい。これは当分エッチはおあずけかなあ」
「さんざんやりまくったばっかりのくせに、なに言ってんだよ」
 いろいろなスキルの経験値は増えたが、それでもまだレベル二十の身、リュウトやスオウの足元にも及ばぬ存在なのだろう。ゲームに費やした時間が圧倒的に違うのだから仕方がない。
 宿屋を出てウラクの町の役場の建物へと向かった。受付のNPCに会いに行き、レンザニアのクエストの報酬を受け取った。他に何か受けられるクエストがないか、一覧を見てみる。ランダムで内容が変わるのか、見たことのないクエストがあった。
『モンスター・ザークを十体倒す』
「ああ、なんか普通のRPGっぽい」
 ナツキがホッとしながらそう言うと、すぐ隣でスオウが「そうかぁ?」とぼやいた。
 意味深な反応が引っかかり、思わずナツキは彼を見る。
「……何か知ってるなら言えよな」
「言わなーい」
 知らんぷりをするスオウを軽くにらみつけ、ナツキはそのクエストの詳細を眺めた。
『モンスター・ザークの弱点はエクスタシー。絶頂に導くと倒せる』
「却下」
 ナツキは他のクエストを探した。
『釣りで深海魚・トゥトゥラを五十匹釣る』
「これにしよー」
「えー。五十匹ってことは、ひたすらずっと釣りするんだろ? 退屈じゃない? かったるくない?」
「うるさいなー。俺は普通のゲームをやりたいんだよ」
「もうちょっと戦う系とかにしてよ。俺が退屈だよ釣りなんて」
「んもー」
 ナツキは違うクエストを探した。
『灰色狼を百体倒す』
「これなんてずっと戦ってられるぞ」
「多いだろ。百体って多いだろ」
「時間制限ないんだし、総合で百体倒せばいいってことだろ? クエストの掛け持ちできるんだし、とりあえずこれ引き受けるぞ」
 ナツキは灰色狼のクエストを受けた。ピコンと音が鳴る。
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