悠久の大陸

彩森ゆいか

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第10話 ストーリークエスト

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 よろず屋の店員は中年男性の姿をしたNPCで、やはりプログラム通りの受け答えしかしない。なので余計な雑談もしない。カウンターでじっと立ち尽くしている彼を尻目に、ナツキは商品を眺める。
 布の服よりも防御力がアップするのは革の服だった。金額も百五十ロンと安く、地道に金を貯めた今のナツキなら買える。同時に新しい靴も欲しかった。革の靴は百二十ロンで、やはり買えそうだ。その他にも毒消し草などの薬草類も欲しかった。アイテム所持枠は、レベル五になった今では二十五枠あるが、モンスターを倒した際に拾ったアイテムですでにいっぱいになっていた。二十四個の枠が埋まっていて、あと一枠しか空いていない。
 初期に登場する大型ネズミと、それよりちょっと強い大型リスからランダムでドロップされたアイテムは、ほとんどチーズやナッツだった。チーズは食べると戦闘で減ったライフが少し回復し、ナッツを食べると一定時間だけ力が+1強くなる。
 落ちたものを拾って食べることになるので、心理的には抵抗はあるが、ゲームの世界なので衛生面の問題はない。見た目はチーズやナッツだが、実際はデジタルデータでしかなく、ナツキ自身もデジタルデータにすぎないので、問題は何もないのだ。
 とはいえ、食べれば感触はあるし、味もある。嚥下して喉を通過していく感覚も、食道から胃に流れていく感覚もある。その辺りはリアルと同じだ。
 初期モンスターが弱かったこともあり、ナツキはこれらのアイテムをほとんど使っていない。アイテム枠を空けるために一掃しようと思い、売ってしまうことにした。
 しかし、チーズは1ロン、ナッツは2ロンでしか売れない。
 なかなかお金が貯まらずじれったいのも、RPGにはよくあることだ。
 とりあえずナツキは邪魔なチーズとナッツをすべて売り、革の服と革の靴を買って防具を入れ替えた。便利なもので、わざわざ着替えなくても、左手首の端末を開いてパネルを操作するだけで、一瞬で服が入れ替わる。
 不要になった布の服と布の靴を売り、今度は武器を眺めた。短剣よりも攻撃力があがるロングソードは二百三十ロンだった。よし、買える。
 短剣を売りロングソードを購入した。装備が整うと気分も変わり、残る金で毒消し草をふたつ買った。
 少し強くなると新しいモンスターと戦いたくなるものだ。
 ナツキはサブクエストに手を出すのをやめ、ストーリークエストに踏み込むことに決めた。
 ストーリークエストは原作小説の内容に沿っている。ゲーム用に多少のアレンジは入っているが、大筋はだいたい同じだ。プレイヤーは原作の登場人物の誰かになるのではなく、彼らの物語を追う協力者であり傍観者としてストーリーに参加する。違う場所に移動できるようにはなるが、ストーリーに沿った場所以外を自由に歩くことはできない。いつでも始められるし、いつでも中断できるし、いつでも再開できる。
 主人公のエレクトラは王国の王女だが、大臣の陰謀により国を追われ、他国まで逃げることになる。国王と王妃である両親も失い、国も乗っ取られ、逃げた先には海賊がいた。海賊に拾われたエレクトラはひどい目に遭う覚悟をしたが、頭領の息子の青年アレンスと恋仲になり、海賊として生きることになる。ところが仲間の海賊に裏切り者がいて、再び逃げることに。頭領が殺され、エレクトラはアレンスに守られながら旅をすることになる。やがて、散り散りになった王国の人々と再会し、国を取り戻す決意を固めていく。
 第一部のあらすじはこんな感じだ。原作では悠久の大陸で生きる人々の物語が書き綴られていて、第二部では違う人物が主人公になり、違う国の物語になる。
 ストーリークエストの名の通り、ストーリーを追うことがメインだ。戦闘もあるにはあるが、サブクエストをこなしている時ほど多いわけではない。なのでストーリークエストを少し進めただけで、急に行き詰った。モンスターが強くて先に進めなくなったのだ。
 となると、ストーリークエストを進めつつ、サブクエストをこなしていき、地道にモンスターと戦って強くなっていくしかない。
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