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第3話 後輩
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「センパーイ!」
講義も終わり、学食に向かおうとして那月が廊下を歩いていると、大きく手を振りながら追いかけてくる青年がいた。那月は声のする方へ振り向く。
富谷辰泰という、高校時代からの後輩だった。もはや腐れ縁だ。
「おう、どうした?」
那月が返事をすると、辰泰が人懐こい笑みを浮かべた。
「先輩、VRMMOのゲーム機買ったんでしたよね。もう始めました?」
「いやまだ。休みの日にやろうと思って」
その言葉を聞いて、辰泰が目を輝かせた。
「じゃあセットアップもまだですか? キャラクター作成も?」
「うん」
「じゃああの、俺手伝いに行きましょうか」
「いや、いい。自分でやる」
「俺、教えますよ? これでも半年ぐらい先輩だし」
浮き足立つ後輩の好意を遮るように、那月はうんざりするそぶりで制した。
「やだよ。ゲームの中でまで会いたくねえし。おまえの目の前でキャラ作ったら、名前もバレるじゃねえか」
辰泰は心底から驚いた顔をした。
「えええ? 俺には内緒でやるつもりなんですか? なんで? どうして? 一緒にパーティ組みましょうよ。俺、ずっとそのつもりでいたのに」
「ぜってーやだ。やだったらやだ」
那月はくるっと辰泰に背中を向けて、とっとと歩き出した。辰泰も負けずについてくる。
「俺、先輩がゲーム機買ったら、絶対一緒にパーティ組めると思ってたんですよ。ずっと楽しみにしてたんですよ」
那月は再びうんざりしたそぶりを見せた。
「おまえ、うぜぇ。俺はこれから学食に行くんだよ」
「俺も行きます」
「ついてくんなよ」
「やだ。ついて行きます」
那月が学食に着いて食券を買うと、隣で辰泰も食券を買った。ちらっと辰泰の手元を見た那月は、同じもの食うのかよと頭の中でぼやいた。シャケ定食だ。高校生の頃からそうだった。この男はなぜか那月の真似をする。同じ大学に通っているのも、那月の真似なのかもしれない。
シャケ定食の乗ったトレイを持って空いている席に座ると、当然のような顔で、向かい側に辰泰も腰掛けた。彼が自分の行動に対して自覚があるのかないのかは不明だが、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、テーブルの上に置いてあった醤油を手に取る。
「じゃあ、ゲームのレクチャーしますよ。まず基本操作だけど」
「だからいいって。俺の楽しみを奪うなよ。何も知らないゼロの状態から始めたいんだから。事前知識とかいらねえし」
「それじゃあ強くなるのに時間かかっちゃいますよ?」
「だから、いいんだよ、それで。マイペースにやりたいんだから」
「でも原作は読んでるんですよね? それだって事前知識になりません?」
「おまえ、うるせぇ。もう、ほっといて」
「ちぇっ」
辰泰はつまらなさそうに舌打ちすると、シャケにかぶりついた。
「わからないことがあったらいつでも聞いてくださいね」
「わからないことがあったらな」
那月はそっけなく応じた。
改めて目の前に座るこの男を眺める。年下のくせに背は那月よりも頭ひとつ分は高い。那月が高校二年の頃にこいつは一年だった。その頃は那月の身長の方が高かったのだ。なのに、三年生になった頃には完全に抜かれていた。
昔から妙に人懐こくて、少々冷たくあしらっても構わず寄ってくる。そんなのはこの男だけだ。不思議な後輩だった。ただ、たまに強引で厚かましい時もある。
嫌いなわけではないが、それほど好きなわけでもない。やはり腐れ縁という言葉が正しそうだ。
講義も終わり、学食に向かおうとして那月が廊下を歩いていると、大きく手を振りながら追いかけてくる青年がいた。那月は声のする方へ振り向く。
富谷辰泰という、高校時代からの後輩だった。もはや腐れ縁だ。
「おう、どうした?」
那月が返事をすると、辰泰が人懐こい笑みを浮かべた。
「先輩、VRMMOのゲーム機買ったんでしたよね。もう始めました?」
「いやまだ。休みの日にやろうと思って」
その言葉を聞いて、辰泰が目を輝かせた。
「じゃあセットアップもまだですか? キャラクター作成も?」
「うん」
「じゃああの、俺手伝いに行きましょうか」
「いや、いい。自分でやる」
「俺、教えますよ? これでも半年ぐらい先輩だし」
浮き足立つ後輩の好意を遮るように、那月はうんざりするそぶりで制した。
「やだよ。ゲームの中でまで会いたくねえし。おまえの目の前でキャラ作ったら、名前もバレるじゃねえか」
辰泰は心底から驚いた顔をした。
「えええ? 俺には内緒でやるつもりなんですか? なんで? どうして? 一緒にパーティ組みましょうよ。俺、ずっとそのつもりでいたのに」
「ぜってーやだ。やだったらやだ」
那月はくるっと辰泰に背中を向けて、とっとと歩き出した。辰泰も負けずについてくる。
「俺、先輩がゲーム機買ったら、絶対一緒にパーティ組めると思ってたんですよ。ずっと楽しみにしてたんですよ」
那月は再びうんざりしたそぶりを見せた。
「おまえ、うぜぇ。俺はこれから学食に行くんだよ」
「俺も行きます」
「ついてくんなよ」
「やだ。ついて行きます」
那月が学食に着いて食券を買うと、隣で辰泰も食券を買った。ちらっと辰泰の手元を見た那月は、同じもの食うのかよと頭の中でぼやいた。シャケ定食だ。高校生の頃からそうだった。この男はなぜか那月の真似をする。同じ大学に通っているのも、那月の真似なのかもしれない。
シャケ定食の乗ったトレイを持って空いている席に座ると、当然のような顔で、向かい側に辰泰も腰掛けた。彼が自分の行動に対して自覚があるのかないのかは不明だが、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、テーブルの上に置いてあった醤油を手に取る。
「じゃあ、ゲームのレクチャーしますよ。まず基本操作だけど」
「だからいいって。俺の楽しみを奪うなよ。何も知らないゼロの状態から始めたいんだから。事前知識とかいらねえし」
「それじゃあ強くなるのに時間かかっちゃいますよ?」
「だから、いいんだよ、それで。マイペースにやりたいんだから」
「でも原作は読んでるんですよね? それだって事前知識になりません?」
「おまえ、うるせぇ。もう、ほっといて」
「ちぇっ」
辰泰はつまらなさそうに舌打ちすると、シャケにかぶりついた。
「わからないことがあったらいつでも聞いてくださいね」
「わからないことがあったらな」
那月はそっけなく応じた。
改めて目の前に座るこの男を眺める。年下のくせに背は那月よりも頭ひとつ分は高い。那月が高校二年の頃にこいつは一年だった。その頃は那月の身長の方が高かったのだ。なのに、三年生になった頃には完全に抜かれていた。
昔から妙に人懐こくて、少々冷たくあしらっても構わず寄ってくる。そんなのはこの男だけだ。不思議な後輩だった。ただ、たまに強引で厚かましい時もある。
嫌いなわけではないが、それほど好きなわけでもない。やはり腐れ縁という言葉が正しそうだ。
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