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第25話 解放
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「つまらぬ」
急に魔王が吐き捨てるように言った。
「うめくばかりで喘がない。余興にもならぬ。快楽に溺れる様をあの男に見せつけようと思ったのだが」
急に引き抜かれ、ラムティスは捨てられた人形のように床に落ちた。
「……う……」
「まあいい。痛めつけるのも、それはそれで面白かった。だがもう飽きたな。違う人形が欲しい」
(え……?)
ラムティスは身動きできないまま、純粋に驚いた。
(もしかしたら、殺されずに……済む?)
だが、まだわからない。魔王は飽きたと言った。用済みの玩具を、生かしたまま外に出すだろうか。
「ひとつ言っておく。間違っても俺を殺そうとはするなよ。少しでもそのような真似をしたら、おまえたちの命はない。だが、おとなしくしていれば、外に戻してやる」
どうやら、これは取引だ。
ガルドとラムティスがどんなに死に物狂いで戦っても、この魔王を倒すのは無理だろう。圧倒的な力の差がある。ふたりを一瞬で捻り潰せるだけの力を、魔王は持っている。
なら、賭けるしかない。
助かる道を。
生きて帰れる道を。
「余計な行動をしなければ、自由にしてやる」
ガルドに絡みついていた鎖が解けた。
ここで魔王に飛びかかるようなことをすれば、ふたり共、即座に殺される。
ガルドはわかっているようだった。その場から動かなかった。
あられもなく崩れ落ちていたラムティスの身体が、ふわりと浮いた。
ガルドに押しつけるようにぶつかる。ガルドは慌てて抱きとめた。
「返してやろう」
ガルドは大切なものを守るようにラムティスを抱きしめた。腕や身体が小刻みに震えている。溢れる怒りを必死で押し殺しているからだ。
ここは耐える場面だ。怒りに任せて飛びかかってはならない。
耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、生きて帰れる道へ。
ラムティスはぐったりとしながらも、ガルドにしがみついていた。その体温が心地よかった。見せたくない場面を見られてしまったが、今はそれを気にしている時ではなかった。
「そのまま外に出すほど、無慈悲ではないぞ」
魔王はそういうと、魔法の力でラムティスの身体を綺麗にし、体内の傷も治し、一瞬で衣服も着せた。
すべては魔王の気まぐれ。気分を害させてはならない。
「何か言い残したことはないか?」
魔王が聞いた。
おそらくこれは罠だ。
「ない」
ガルドが答えた。
グッと押し殺したような声で。
「おまえたちは多少は賢いようだ。気に入った。殺さずに帰してやる」
魔王はニヤリと酷薄の笑みを浮かべ、ぶつぶつと呪文を唱えた。
それは一瞬だった。
一瞬の出来事だった。
目が潰れそうなほどの眩しい光が視界を覆い、次に目を開けた時にはもう、ダンジョンの中ではなかった。
辺りには木々が生い茂り、どう見渡しても森の中だった。
ダンジョンに閉じ込められる前に走っていた森だ。
この森で魔王に追われ、ダンジョンへと逃げ込んだ。
永遠に出られないと思っていたダンジョン。まさかこんな形で出られるとは。
「……すべては魔王次第、か」
ガルドが低くつぶやいた。
「半年もかけて必死で出ようとしていたのが、馬鹿みたいだな。どれほど頑張ったところで、魔王に出す気がなければ出られないものだった」
疲れた息を吐きながら、ラムティスがささやいた。
がくりと力が抜けたように膝をついたラムティスを、ガルドが慌てて支える。
「大丈夫か」
「……ああ。安心したら、力が抜けた」
「身体のほうは」
「もう、なんともない。傷も治っている」
安心させるように笑ったラムティスの頬を、ガルドの手のひらがとらえた。
「よく頑張った。生きるのを諦めないでくれてよかった」
「あの程度のことで死にはしない。そこまで俺は弱くない。魔王が無茶で横暴だったおかげで、まったく気持ちよくなかった。もし気持ちよくなっていたら、むしろそちらのほうが死にたくなっただろうな……」
「あんなことがあっても、おまえは気高く美しい。おまえを性的に扱った俺が言うのもどうかとは思うが」
「……ガルドはいいんだ。もう許している。俺も、気持ちよかったから」
ふたりの視線が間近で重なる。
どちらともなくまぶたを閉じ、顔が近づいた。
唇が重なる。
「……んっ」
ラムティスは舌を差し出し、ガルドに吸わせた。互いの柔らかな弾力が押し合い、絡み合い、だんだん息があがってくる。
「いいのか?」
ガルドが耳元で問いかけてきた。
ラムティスは迷いなく深くうなずいた。
急に魔王が吐き捨てるように言った。
「うめくばかりで喘がない。余興にもならぬ。快楽に溺れる様をあの男に見せつけようと思ったのだが」
急に引き抜かれ、ラムティスは捨てられた人形のように床に落ちた。
「……う……」
「まあいい。痛めつけるのも、それはそれで面白かった。だがもう飽きたな。違う人形が欲しい」
(え……?)
ラムティスは身動きできないまま、純粋に驚いた。
(もしかしたら、殺されずに……済む?)
だが、まだわからない。魔王は飽きたと言った。用済みの玩具を、生かしたまま外に出すだろうか。
「ひとつ言っておく。間違っても俺を殺そうとはするなよ。少しでもそのような真似をしたら、おまえたちの命はない。だが、おとなしくしていれば、外に戻してやる」
どうやら、これは取引だ。
ガルドとラムティスがどんなに死に物狂いで戦っても、この魔王を倒すのは無理だろう。圧倒的な力の差がある。ふたりを一瞬で捻り潰せるだけの力を、魔王は持っている。
なら、賭けるしかない。
助かる道を。
生きて帰れる道を。
「余計な行動をしなければ、自由にしてやる」
ガルドに絡みついていた鎖が解けた。
ここで魔王に飛びかかるようなことをすれば、ふたり共、即座に殺される。
ガルドはわかっているようだった。その場から動かなかった。
あられもなく崩れ落ちていたラムティスの身体が、ふわりと浮いた。
ガルドに押しつけるようにぶつかる。ガルドは慌てて抱きとめた。
「返してやろう」
ガルドは大切なものを守るようにラムティスを抱きしめた。腕や身体が小刻みに震えている。溢れる怒りを必死で押し殺しているからだ。
ここは耐える場面だ。怒りに任せて飛びかかってはならない。
耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、生きて帰れる道へ。
ラムティスはぐったりとしながらも、ガルドにしがみついていた。その体温が心地よかった。見せたくない場面を見られてしまったが、今はそれを気にしている時ではなかった。
「そのまま外に出すほど、無慈悲ではないぞ」
魔王はそういうと、魔法の力でラムティスの身体を綺麗にし、体内の傷も治し、一瞬で衣服も着せた。
すべては魔王の気まぐれ。気分を害させてはならない。
「何か言い残したことはないか?」
魔王が聞いた。
おそらくこれは罠だ。
「ない」
ガルドが答えた。
グッと押し殺したような声で。
「おまえたちは多少は賢いようだ。気に入った。殺さずに帰してやる」
魔王はニヤリと酷薄の笑みを浮かべ、ぶつぶつと呪文を唱えた。
それは一瞬だった。
一瞬の出来事だった。
目が潰れそうなほどの眩しい光が視界を覆い、次に目を開けた時にはもう、ダンジョンの中ではなかった。
辺りには木々が生い茂り、どう見渡しても森の中だった。
ダンジョンに閉じ込められる前に走っていた森だ。
この森で魔王に追われ、ダンジョンへと逃げ込んだ。
永遠に出られないと思っていたダンジョン。まさかこんな形で出られるとは。
「……すべては魔王次第、か」
ガルドが低くつぶやいた。
「半年もかけて必死で出ようとしていたのが、馬鹿みたいだな。どれほど頑張ったところで、魔王に出す気がなければ出られないものだった」
疲れた息を吐きながら、ラムティスがささやいた。
がくりと力が抜けたように膝をついたラムティスを、ガルドが慌てて支える。
「大丈夫か」
「……ああ。安心したら、力が抜けた」
「身体のほうは」
「もう、なんともない。傷も治っている」
安心させるように笑ったラムティスの頬を、ガルドの手のひらがとらえた。
「よく頑張った。生きるのを諦めないでくれてよかった」
「あの程度のことで死にはしない。そこまで俺は弱くない。魔王が無茶で横暴だったおかげで、まったく気持ちよくなかった。もし気持ちよくなっていたら、むしろそちらのほうが死にたくなっただろうな……」
「あんなことがあっても、おまえは気高く美しい。おまえを性的に扱った俺が言うのもどうかとは思うが」
「……ガルドはいいんだ。もう許している。俺も、気持ちよかったから」
ふたりの視線が間近で重なる。
どちらともなくまぶたを閉じ、顔が近づいた。
唇が重なる。
「……んっ」
ラムティスは舌を差し出し、ガルドに吸わせた。互いの柔らかな弾力が押し合い、絡み合い、だんだん息があがってくる。
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