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第3話 蝶はからだを開く

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「俺はね、オメガの不憫なところがとても好きなんだ」
 霧也がささやくように言った。四つん這いの俺を撫でながら。
「こんなことを言ったら、たいていのオメガは怒るだろうけど、俺はアルファに生まれてしまったからね。オメガの気持ちなんてこれっぽっちもわからないんだよ。だけど、とても愛しいとは思ってる」
 剥き出しの尻に息がかかった。
 霧也の顔が尻に寄せられている。
「ひゃっ、あっ」
 濡れた柔らかいものが、孔に入ってきた。
 ぬめぬめと動く軟体動物のようなもの。
 霧也の舌だ。
「うっ、あっ……あっ」
 たちまち俺から余裕がなくなる。
 こんな、舐めかた、されたら……っ。
 霧也はためらいなく舌を遣い、抜き差しを繰り返した。
「んっ……うっ、はっ……」
 ぴちゃぴちゃと音がする。
「ほんとだ、濡れてきた」
 孔から舌を抜いた霧也が、ほぅと息をついた。
「キミは知らないかもしれないが、一般社会で普通に暮らしているオメガもいるんだ」
「……見たことはないですが、話では聞いたことあります」
「羨ましいと思うかい?」
「知らない世界のことはわかりませんから」
「遊郭しか知らず、遊郭で育ったキミは、ある意味、社会の犠牲者なんだ。抜け出したいだろう?」
「わかりません」
 ここで働いて、うっかり本音を語るのは危険行為だ。
 バレたら罰をくだされる。
 逃げたいなんて、一言も漏らしてはいけない。

 いつか身請けされたいと夢を見る。
 でも言葉にして語るのは許されない。

 カチャカチャとベルトを緩める音がする。
 霧也がベルトを外している音だ。
「もうちょっと時間かけたかったんだけど、もう我慢できそうにないな」
 ちらりと振り返り、盗み見た。
 霧也のそれはとても大きくて、立派だった。
 ……入るかな。
 ちょっと心配になった。
 口で大きくしろと股間を押しつけてくる客もいるが、霧也はそういうタイプではなかったようだ。
 だけど、性急だった。
 早く繋がってこようとする。
「あっ……」
 小さな孔をこじあけて、霧也の大きなモノが押し込まれた。
「あぁっ……」
 濡れた粘膜に、大きなモノが容赦なく入ってくる。
 四つん這いの俺の腰をがっしりとつかみ、霧也は深い場所まで入ってきた。
「これはいい締めつけだ」
 腰をグラインドさせながら、霧也がささやく。
 その後はもう、なにも考えられなかった。
 霧也のセックスは激しく、乱暴なようでいて丁寧で、自分勝手なのかと思いきやそんなこともなく、だけど気持ちよすぎて頭がおかしくなる。
 今までこんなに声をあげたことないぞと思うほど、俺は叫んだり喘いだりしていた。
 気づけば涙でぐしゃぐしゃで、あられもなく精液を撒き散らしていた。
 なにをされたのか、正直よくわからない。
 何度達したのかわからなくなった頃に、顎を持ち上げられた。
 霧也の顔が傾き、唇を奪われていた。
 霧也の舌は熱く、気持ちよかった。
 ずっとキスしていたい唇だった。

「では、ふた月後に」
 衣服を整えた霧也が、ぺこりと頭を下げて帰って行った。
 俺はしばらく放心状態で、なにも考えることができなくなっていた。
 ……あぁ、次の客が来るから……風呂に、入らなきゃ……。
 かろうじてわずかに残る理性をかき集め、なんとか風呂場に向かった。
 風呂はそれぞれ個人部屋についている。
 ひとりで普通に入ることもあれば、客とのプレイで使われることもある。
 霧也は帰ってしまったので、ひとりで入った。
 湯船にゆったりと浸かり、今の出来事を反芻する。
 まだ身体はほてっていた。
 なにをされたのかはよく覚えていないが、とてもよかったことだけは覚えている。
 もしヒートの時に、ラットになった霧也に抱かれたら、俺の身体はいったいどうなってしまうのだろう。
 次回はふた月後らしい。
 本当に来るのかどうかはわからないが、この身体はつい、わずかな期待をしてしまう。
 また抱かれたいと思うような客は初めてだった。
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