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さようなら
しおりを挟むようやく体が動くようになった日、ルーカスさんは1人で出かけて行った。
僕はその隙に荷物をまとめてまだ痛い腰を庇いながら、街をでた。
でも今まで森と街の往復しかしたことない僕は、どっちに何があってどこに行けばいいのかわからない。
街を出たときに馬車の車輪跡があったからなんとなくその跡を辿って歩いてみる。
途中でいくつか分かれ道があったけど、跡を辿っているからどっちに進もうとか悩むことはなかった。
しばらく歩いているとポツポツ雨が降り出した。
急いで大きな木下で雨宿りをしたけど、しばらく止みそうにない。
どうしようかと考えていると、少し先に小屋のようなものを見つけた。
そこだけ足跡が多く残っており、車輪の跡もある。
なるほど、もしかするとここは馬車の乗り合い所なのかもしれない。
ここで待っていると馬車が通るかもしれない。
そう思ったけどもう夕方だから来るとしても明日の朝まで待つしかない。
当てもなく歩くよりは馬車に乗った方が安全だろう。
でもお金ってどれくらい必要なんだろう。
今まで馬車に一度も乗ったことがなく相場がわからない。
手持ちの金は、野菜を売って手に入れた分とルーカスさんから薬草のお礼としてもらった分がある。
とりあえず、運賃を聞いて乗れそうだったら乗ろう。
僕はそこで一夜を過ごした。
朝になり近づいてくる馬車の音で目が覚めた。
慌てて外に出てみると一台の馬車がこちらに向かって走ってきている。
でも一向に減速しようとしない。
もしかして僕がいることに気づいていないのかもしれない。
道の真ん中に立って、大きく手を振りアピールしてみた。
「すいませーん!馬車に乗せて下さーーい」
するとゆっくり止まって中から、狐族の男が降りてきた。
「おい、坊主。どうしたんだ」
「あっあの、僕馬車に乗せてほしくて・・・」
「馬車に乗りてぇのか?どれどれ・・・・ほぉ。こりゃまた大物だな。」
狐獣人の男は僕の顔を覗き込んできた。
偽耳と尻尾は森の家に置いたままだから外套の中を見られるわけにはいかない。
僕は咄嗟に俯いたけど顔は見られた。
「いいぜ!乗りな!!」
「あっありがとうございます。あの・・・運賃は?」
「運賃はいらねぇよ。」
「え?いいんですか?」
「あぁ、かまわねぇよ。それよりどこにいくつもりなんだ?」
「…実は行く場所は決まってなくて。どこかの街までお願いしたいのですが」
「なんだか訳ありみてぇだな。いいぜ街まで連れてってやるよ。だがその前に俺の用事を済ませねぇといけねぇから寄り道させてもらうぜ?」
「はい、構いません。お願いします」
とても親切な人みたいでよかった。
勇気を出して声をかけてみて正解だった。
馬車の中には荷物がぎっしり詰まっていて、荷物と荷物の間に挟まるようにして乗った。
ルーカスさん今頃どうしてるかな。
僕が居なくなって心配してるかな。
いや、僕を抱いたことを後悔してたから居なくなってホッとしてるかもしれない。
そんなことを考えていると胸の辺りがズキズキ痛む。その痛みに気づかないふりをして馬車に揺られていた。
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