ひとりでこっそり暮らしていた僕はクマ獣人と幸せになります

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番について

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僕がルーカスさんの家にお世話になってから5日が経った。
その間熱が上がったり下がったりを繰り返し、今日やっと普通の生活に戻れそうだ。
ルーカスさんの家は薬局だから薬には困っていないようで僕にも惜しみなく与えてくれた。
消化にいいものを作ってくれたり、体を拭いてくれたり着替えさせてくれたり・・・。
本当に至れり尽くせりだった。
獣人の姿で触れられるのは正直怖かったけど、体がしんど過ぎて碌な抵抗もできなかった。
でも、なぜか僕の体に触れるときは鼻息荒くして怖い顔だった。
この人は情緒不安定なのかもしれない。


「ルーカスさん、看病してくださってありがとうございました。もう元気になりましたので僕は自分の家に戻ります。今回のお礼は次回街に来たときに必ずしますので。」

「・・・ダメだよフィル。一人にしないって言ったでしょ?」

「そんなこと言われましても・・・僕はやっぱりここには住めません。」

「どうして?何か気に食わなかった?」

「そういうわけでは・・・。ルーカスさんには本当にお世話になりました。でも僕はやっぱり母さんと暮らしたあの家が落ち着くんです。野菜も育てないといけませんし。そろそろ冬眠から覚めた友達が来ると思いますので」

「なら、週に一度俺と一緒に森の家に行こう。その時に野菜や植物を植えておけば友達は食べ物には困らないだろう?シエルさんに卸す野菜はこの家の庭を使ったらいいよ。そしたらわざわざ森から野菜を運ばなくても済むしね。」

「・・・」

「フィル。君と離れることはもうできないんだ。もう一度君と離れてしまうと俺はきっと狂ってしまう」

「狂ってしまうって、そんな大袈裟な・・」

「大袈裟なんかではないよ。獣人は番を失ったり、失う恐怖に晒されると狂ってしまうんだ。人族にはない感覚かもれないけど獣人はそう言う生き物なんだよ。」

「・・狂ったらどうなるんですか?」

「暴れまくって関係ない人を傷つけたり、この街もめちゃくちゃに破壊してしまうかもしれない」

「そんなっ」

「獣人にとって番はそれほどの存在なんだよ。」

「僕は・・・獣人を好きにはなれません。どれだけ昔と変わったって言われてもやっぱり怖いんです。シエルさんだって僕が人族だって知ったら態度が変わるかもしれません。」

「まぁ、びっくりはするだろうね。人族は絶滅したかもしれないって言われているから。」

「絶滅・・・。本当に人族はもういないんですか?僕が最後の一人??」

「それはわからない。フィルみたいに隠れて暮らしている人族がいるかもしれないしね」

「もし、他に人族がいるなら会ってみたいです」

「そうだね。でもそうなると森にいては会えないと思うよ。フィルみたいにたまに街にくるっていう可能性があるから街で暮らしていた方が会える確率も高いと思うよ。」

「それは・・・そうかもしれません。」

「よし!じゃとりあえず今日は必要なものを森の家に取りに行こう。貴重品とか置きっぱなしにしていると危ないからね。」

「・・・はい」

なんだかうまく流されてしまったような気もするけど、もし本当に人族に会えたら初めて言葉を交わせる友達になれるかもしれない。
ほんの少しだけ楽しみだ。




そして僕はルーカスさんに抱っこされて森の家に向かっている。
かなり抵抗したんだけど病み上がりだから歩かせるわけにはいかないって言われて渋々・・・。

家に向かっている途中、ルーカスさんは色んなことを教えてくれた。
まず、ルーカスさんは28歳。両親は隣町に住んでいるらしく、あの薬局はもともと祖父の店だったらしい。
祖父は引退し今は両親と住んでいるんだって。
兄弟はおらず、ちなみに・・・
「いつかバレると思うから言うけど、小さい親戚がいるって言うのは嘘なんだ。フィルにあげた服は俺がフィルのために用意したものなんだよ。遠慮して受け取ってもらえないかもと思って嘘ついてごめんね。」

「え?じゃあこの服やっぱり新品?」

「そうだよ。誰かが着て匂いがついた服を俺が贈るわけないだろう?」

「綺麗で、ズボンに尻尾用の穴が空いてないから不思議だなって思っていたんです。」

「ははは、確かに変だね。」

「でもあんなにたくさん服ももらって、看病もしてもらったのに僕には返せるものがありません。・・・すいません。僕、やっぱり自分の家で暮ら「それならフィルにしてもらいたいことがあるんだ!」」

「俺の家は薬局だからね。薬草を仕入れて自分で薬を作っているんだけど、貴重な薬草も多くてね。なかなか手に入らないことがあるんだ。だからフィルには薬草を育ててほしいな。」

「僕が薬草を?」
そうだ。僕の能力は森のクマさんの時にバレちゃってるんだ。

「もちろん無理にとは言わないよ。フィルがその力を使ってもいいと思った時だけでいい」

「もし、使いたくないって言ったら?」

「それでも構わないよ。俺はフィルと一緒に居られれば十分だからね。」



やっぱりこの人は変だ。
あんなに服を贈って、看病もしたんだからもっと見返りを求めるのが普通でしょ?
なのに、僕が居ればいいなんて・・・。

でも、僕も変かもしれない。
以前なら、どんなに親切にされても体に触れられるのは嫌だと思ったはずだ。
なのに今は恥ずかしさはあるけど、不思議と嫌ではない。
ルーカスさんだからなのか・・・それはまだわからない。
でももう少しこの人のことを知りたいと思った。







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