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本当のこと
しおりを挟む夢を見ていた。
寒くて寒くて震えていると大きな手で抱き上げられてどこかへ連れて行かれる夢。
行き先はわからないけど、なんとなく危機感はなかった。
クマさんとは違うけど、何となく雰囲気が似ているようなそんな感じの人に。
そしてその人は大きな体で僕を抱きしめてくれた。
でも不思議だ。さっきまでこんなにモフモフじゃなかったのに。
まるでいつも抱きついているクマさんのような手触り。
まぁ夢なんだし、なんだってありだよね。
パチっと目が覚めた。
見慣れた天井じゃない。
「あれ・・・?ここどこ?僕どうして・・・」
自分の置かれた状況がわからずパニックになってしまった。
起きあがろうとしたけど体が重くて頭も痛くて起き上がれない。
「目が覚めたかい?」
突然隣から声がして視線を向けると・・・
「クマさん!!」
そう森のクマさんが僕と一緒に布団で寝ていた。
「どうしてここにクマさんが!?もしかしてクマさんの家!?」
「そうだよ。俺の家だ」
それにしてはなんだか見覚えのある家だ。
ルーカスさんの家に似ているような・・・ん?似ている?いやそうじゃない!そっくりだ!!
どういうことだろう。クマさんは自分の家だと言ったのに。
あれ??言った?喋った?
「くっクマさん!!!今喋ったよね!?」
「・・・俺は獣人だからね。」
「え?・・・獣人??」
するとクマさんの体がぼやけ始めて縮こまりルーカスさんに変身した。
「なっなんで・・・どうして・・・クマさんはルーカスさんで、ルーカスさんはクマさん?」
どういうこと?これは夢の続きなのか?
でもこの頭痛は夢なんかじゃない。
落ち着け、落ち着くんだ。
僕が何度も深呼吸をしていると
「すまない。フィルが今まで森のクマさんとして会っていたのは俺なんだよ。実は、フィルのことが心配で後をつけたらあの森の家に辿り着いてね。正直に言おうかと思ったんだけど、フィルは獣人を怖がっているんじゃないかと思って。フィルはその・・・人族だろう?」
僕は布団で自分の顔を覆った。
バレてる。僕の正体が。どうしよう・・・どうしよう。
僕はこのままこの人の奴隷にさせられるのか?
自分の迎える末路を想像して体が震える。
母さんと約束したのに。元気でちゃんと生きるって!
でも奴隷にされて弄ばれてそのまま死ぬんだ。
「フィル!怖がらないでほしい。今まで君を騙すようなことをしていた俺のことは信じられないかもしれないが、フィルに危害を加えたりしないから!!数十年前までは獣人が人族を奴隷にしていたことは確かにあった。でも今は法律で禁止されているし、逆に保護対象になっているんだ!」
人族が保護対象?
そんな話信じられない。
そうやって油断させておいて誘き出す作戦なんだ!
「そんな話信じられません!僕は母さんから獣人に捕まったらおしまいだと聞かされました。獣人は人族を嬲って死なせるって」
「正直、過去のことは俺も学習院で習っただけだから詳しくは知らない。けど命をかけて誓うよ。俺はフィルを傷つけたりしない。俺はフィルを守りたいんだ!急に信用しろなんて言わない。徐々にでいいから俺のことを知ってほしい!」
ルーカスさんは布団から出て床に頭をつけながら僕に懇願している。
「僕を・・・守りたい?」
「そうだよ。言うのが遅くなったけど、フィルは俺の番なんだ。番ってわかるかい?」
「番?・・・知りません」
「番って言うのは、唯一の存在ってことだよ。自分の命よりも大切で一度出会ってしまえば二度と離れられない。俺は初めてフィルに出会った時に番だと確信したんだ。フィルにも早く気づいて欲しくて声をかけたんだけど、フィルは俺を見ても何も反応しなかった。おかしいなって思ったんだ。」
「おかしい?」
声をかけられただけなのに、何がおかしいんだろう。それに反応って?
「獣人同士はお互いの匂いで番を判断するんだ。でもフィルは俺の匂いに反応しなかった。それから何度か会ってもフィルの反応は変わらなかった。俺の勘違いなのかもしれないって思ったけど、仮に番じゃなくても俺には関係なかったよ。俺はもうフィルを好きになっていたからね。」
「僕を・・・好き?」
「そうさ。番でも番でなくてもフィルが好きだ。フィルと離れたくないんだ。」
「そんなこと言われても・・・僕は獣人の世界では生きていけませんから」
「今までずっとそう思って生きてきたなら急に考えを変えるのは難しいよね。でも頼む!もうフィルを一人にはできないんだ。今回フィルが倒れているのをみて俺はすごく後悔したよ。どうして無理矢理にでも一緒にいなかったんだって。だからフィル・・・この家で一緒に暮らさないか?」
「!!そんなこと・・・」
「無理に外に出なくてもいい。出たとしても外套を被ったままで構わない。いや・・・すまない。これはただの建前だ。本当はフィルをここから出したくないんだ。俺だけを見て俺だけを頼ってほしい。」
出したくないと言われて体がブルっと震えた。やはり人族だから監禁されるのか?
「フィルは自分の容姿に気づいているかい?とても可愛くて小さくて獣人の庇護欲を刺激してしまうんだ」
「僕はただチビなだけです」
「そんなことはない。森のクマさんとしてフィルとともに過ごしている中で見た君の笑顔は俺を萌え殺しそうだったよ。あんな可愛い顔を誰かに見られたら君を奪われてしまうかもしれないって本気で焦ったんだ」
「もっもえ・・・何?」
「とにかく、フィルの体調が戻るまでは何がなんでもここにいてもらうからね!!」
「それは・・・」
「返事は!??」
「はっはい!!」
こうして僕とルーカスさんの同居生活が始まった。
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