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フィルのピンチ
しおりを挟む夕飯の準備をしていると、扉がノックされた。
「クマさん!いらっしゃい!今日は約束通り肉料理だよ。」
いつものように家に招き入れて、ご飯の仕上げにかかる。
「クマさん、肉料理はやっぱり熱い方が美味しいと思うんだけど、食べてみる?」
柔らかくて美味しいお肉を食べてもらいたくて、無駄だとは思いつつも聞いてみる。
「フーッフーッ」
頭を上下に激しく揺らしている。
これは頷いているのだろうか。
試しに熱々のお肉を目の前に置いてみた。
・・・普通に食べた。
え?食べれるの?
今まであえて冷ました料理を出してたけどそんな必要なかったのか。
「クマさん本当に人みたいだねぇ!さぁ、まだまだあるからたくさん食べてね!」
僕も久しぶりにお肉を堪能して満足した。
食後は日課になりつつあるモフモフタイム。
今日はいい1日だった!
数日後・・・
この前は、肉料理を作ったから今日は魚料理にしようかな。
クマさんは魚もきっと好きだよね。
朝方いつも水を汲む小川に行き、釣りをすることにした。
「これだけ釣れたら十分かな!」
3匹ほど釣れたところで、帰ろうとした時足を滑らせて川に落ちしてまった。
バッシャーン
「うわぁ!!冷たい!!!」
季節は春だが雪解け水が流れており、水温は非常に低い。
凍える体でなんとか家まで帰り、急いで湯を沸かし暖炉の前で体を温めた。
だけど、体はなかなか温まらない。
「寒い・・・寒いよ・・・クマさん」
しばらくそうしていたらいつの間にか夕方になってきた。
「おかしい・・・体を温めているのに震えが止まらない。なんだが頭も痛いしぼーっとする。」
そして僕は気を失った。
ルーカスside
肉料理をご馳走になった日、俺は幸せだった。
フィルは俺があげた服を早速身につけてくれた。
よかった。気に入ってもらえたんだな。
いつものように二人(一人と一匹)でご飯を食べてフィルに抱きつかれ、そろそろ俺は限界だった。
明日会う時は、獣人の姿で会いにこよう!
番であることを説明し、今まで森のクマさんを装っていたことを謝罪しよう。
次の日・・・。
俺は花束を抱えて、フィルの家に向かった。
何度も何度も深呼吸をして、扉をノックする。
「あれ?おかしいな」
いつもは元気な声と笑顔と共にドアを開けてくれるのに反応がない。
どこかに出かけているんだろうか。
でももう夕方だ。
フィルは街に行く時も夕方には家に戻るようにしている。
それに、昨日どこかへ出かけるなんて話はしていなかったはずだ。
しばらく待っていたが、一向にドアが開く気配はない。
俺は家の裏に周り、窓から中を覗いてみた。
すると、暖炉の前で毛布を体に巻きつけたフィルが横たわっていた。
寝ているのか?
窓をコンコンと叩いても反応がない。
・・・なんだかおかしい。
俺はもう一度玄関に戻りドアを開けてみた。
「鍵が開いている・・・フィル?フィル?俺だ!ルーカスだ。突然来てすまない。実はフィルに話があって・・・」
中に入り、フィルに近づくと呼吸が荒い。
慌てて額に触れると
「なんだこれは!!高熱だ!」
フィルは意識がなくぐったりしている。
そばにはびしょびしょに濡れた衣服が脱ぎ捨てられていた。
「何があったんだ・・・」
だが今はそんなことよりフィルをなんとかしないと!
一度家に戻って薬を取ってくるか?
いや、フィルを連れて行った方が早い!!
「フィル!俺の家に連れて行くよ!しんどいかもしれないけど頑張って!」
毛布ごと抱き上げて、さらにその上から外套を被せる。
なるべく振動を与えないように森を降りる。
俺の家につき、暖かい布団に寝させた。
液体の解熱薬をゆっくりと口に流し入れて、飲み込んだのを確認してから再び横たえた。
体が震えているため、湯たんぽを作り足元に置く。
「まだだ!もっと温めないと!」
俺は獣体に変化しフィルを温めるように抱き込んだ。
「クマ・・・さん・・・クマさん・・・」
苦しそうな寝言で俺を呼ぶフィル。
「大丈夫だ。そばにいる。」
耳元で囁いてやると、フィルの体から力が抜けてスースーと眠りについた。
もうフィルを一人にすることはできない。
今回、気付くのが遅かったらフィルを失っていた可能性もある。
離れて暮らしていては、もしもの時に気づいてやれない。
もう二度と手放さない。
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