ひとりでこっそり暮らしていた僕はクマ獣人と幸せになります

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俺はクマ獣人だ。
クマ獣人は獣人の中でも体がでかい。

力のある獣人は力仕事を好んでするが、俺は薬学が好きで、祖父が経営していた薬局を受け継いだ。


ある日、定休日に同じ街にある八百屋に買い物に行った。
ここの店主シエルさんとは仲が良くて、経営についても度々相談に乗ってもらう程だ。

今日も経営について相談しようと思っていた。
だが、店に近づくにつれて嗅いだことのないとてつもなくいい匂いが漂ってきた。
食べ物の匂いじゃない。
それになんだか体が熱くなってきた。

発情期はまだまだ先のはずだ。

なぜかわからないが、その匂いの元を辿らなくてはいけない気がした。
匂いが近づくにつれて俺の呼吸も乱れる。走っているからではない。興奮しているからだ。

そして匂いがだいぶ濃いところまで来たと思ったらそれは八百屋の前だった。
店主のシエルさんと外套を被った少年??が話をしていた。

匂いの元はあの子だ!!
そう思った時チラッとその子の顔が見えた。
心臓が爆発するかと思うほど可愛らしかった。
そして俺の息子が元気に勃ち上がった。

発情期でもないのにこんな道端でおっ立てるなんて恥ずかしいがそんなこと気にする余裕もない。
しばらくその少年を穴が開くほど見つめていたが、少年が八百屋から離れどこかへ行こうとしている。

俺は急いでシエルさんにあの子のことを聞いた。
声をかけるにも名前くらい知っておこうと思ったんだ。
「シエルさん!シエルさん!さっきの子は??シエルさんの知り合い???」

「びっくりした!ルーカスじゃない。どうしたの?そんなに慌てて」

「今ここにいた子!!誰??」

「フィルちゃんのこと?ここに野菜を卸にくる子だよ?」

「フィル?フィルって言うんだね!名前まで可愛いなんて!ありがとう」

「え??ちょっと待ってルーカス!本当にどうしたの~?」

説明している暇がない。あの子を追いかけなくては!


あの子の姿は見失ってしまったけどまだ匂いが残ってる。
漂う甘い匂いを必死で追いかけた。
だが、途中でそれもわからなくなってしまった。
完全に獣体になれば嗅覚もアップして追いかけられるだろうがこんな街中で獣体になるわけにはいかない。

でもこの街に住んでいるかもしれない。再会のチャンスはあるはずだ!
とりあえずシエルさんのところに戻って、もっと詳しくあの子について教えてもらおう。


「シエルさん、さっきはごめん。俺急いでてさ」

「本当にどうしたのよ、あんなに慌てて」

「さっきの子、フィルについて知ってることを教えて欲しいんだ。もしかしたらフィルは俺の・・・俺の運命の番かもしれないんだ」

「ええ???本当なの?」

「あぁ、いい匂いがすると思ってその匂いを辿ってきたらあの子がいたんだ」

「そうだったの・・・獣人にとって運命の番に会えるのはこれ以上ない幸せよ!よかったじゃない!」

「あぁ、だからまたフィルに会いたいんだ。どこに住んでるか知ってるかい?」

「教えてあげたいけど、私もフィルちゃんがどこに住んでいるのか知らないのよ。でもこの街には住んでなさそうよ」

「この街には住んでいないのかい?じゃあ違う街から来ているのかい?」

「そうだと思うわ。でもフィルちゃんは3ヶ月に一度しかこの街に来ないのよ」

「3ヶ月に一度・・・じゃあ俺はあと3ヶ月待たなければいけないのか・・・気が狂いそうだ」

「そうよね。番を見つけたのに、会えないのは辛いわよね。次フィルちゃんが来たら教えてあげるわよ。」

「あぁ、必ず・・・必ず教えてくれ!」






それから俺は毎日フィルのことを考えながら過ごした。なんとか店はやっているが、客がいない時はひたすらぼーっとしている。

夜にはフィルのことを思いながら何度も達した。
自分でも引くぐらいに。

そうして、フィルを見かけてからそろそろ3ヶ月が経とうとしている。

もうすぐあの子がこの街にやってくると思うと仕事も手につかなくなった。
俺は一時店を休業し、街をうろついた。
わずかでもあの子の匂いがしたらすぐに追えるように。


そして、待ちに待ったあの子を見つけた。
前回と同様、外套を頭から被っているため顔は見えないが、背中に背負っている大きな籠も見覚えあるし、なんと言ってもこの甘い匂いがあの子だと教えてくれる。

俺は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから声をかけた。

だが、気づいてもらえず通り過ぎようとしたため思わず肩を掴んでしまった。
外套の上からでも華奢なのはわかっていたが想像以上に肩が薄くて、力加減を間違えれば怪我を負わせてしまいそうだった。
慌てて肩から手を外し、なるべく不振がられないように話しかける。

「実は俺、3ヶ月前に君を八百屋で見かけたんだ。それから君のことがずっと気になってて、よかったら少し話をしないかい?」

「すいません。もう家に帰るところなので、失礼します」

「そうなのか!なら家まで送ろう。その大きな籠を背負うのは大変だろう?俺が持つよ」

「いえ、結構です。」

「そうか・・・では次いつ街に来る??その時にお茶しよう!」

「次いつ来るかはわかりません。ごめんなさい、では。」



会話が終了し、フィルは帰ってしまった。
俺はその場からしばらく動けなかった。

近くで合えばフィルも俺を番と認識してくれると思っていたんだ。
獣人同士なら言葉を交わさなくてもお互いの匂いでそれがわかる。

番ではなかったのか?俺の勘違いか?
いや、そんなことはない。この匂いの感じ方は番に決まってる。

もしかして風邪気味で匂いがよくわからなかったのかもしれない。
きっとそうだ!

フィルは次いつ来るかわからないって言っていたが3ヶ月おきに来ていることは知っている。

次も必ず会えるはずだ。




自分の店に戻る途中、八百屋の前を通った。
「ルーカス!ルーカス!さっきフィルちゃんが来たわよ!」

「あぁ、さっき会ったよ」

「よかったわ~。ようやく番を手に入れられたのね!!フィルちゃん恋人はいないって言っていたし、付き合うつもりもないって言っていたけど番なら大丈夫ね」

「いや・・・実は・・・」

俺はさっきのことをシエルさんに話した。

「おかしいわね・・・。確かに番なんでしょ?なのにフィルちゃんは気づかなかったのかしら」

「俺もよくわからない。けど諦めるなんてできないからまた3ヶ月後を待つよ」

「・・・ルーカス、元気出しなさいよ。」

「あぁ、ありがとう」



そうしてまた長い3ヶ月を耐え忍んだ。





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