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リースside
しおりを挟むマオを膝の上に乗せて書類仕事をしていると、マオが眠たそうに目を擦り、コクリコクリと船を漕ぎだした。
背中をポンポンとリズムよく叩いてやると、やがてスースーと寝息が聞こえ始めた。
可愛い。愛らしい。俺の腕のなかで眠っているこの小さい存在を俺はもう手放すことはできないだろう。
俺からマオを奪おうとするヤツはどんな手を使っても阻止する。
そして、マオが俺のことしか見ないように囲い込むんだ。
マオを見ながらそんなことを考えていると、横で書類整理していたダンが
「……ギルマス。目がギラついてますよ。言っておきますが、マオ君が成人していると分かったからって手を出してはいけませんよ。マオ君はこの国の常識が薄く、ギルマスを頼るしかない状況なのですよ?そんな状況で、ギルマスに迫られてはマオ君も断れないかもしれませんからね」
「……わかってる。俺だってマオに無体を働きたくはない。マオがちゃんと俺のことを男として好きになるのを待つさ」
だから、マオ。俺のことを好きになり早く俺のものになってくれよ。
今はまだ言えない心のうちをぐっと押さえ込み、書類仕事を進めた。
もうすぐ昼だな。かわいそうだがそろそろ起こしてやるか。
マオの身体を軽く揺すって起こしてやり、ダンに昼飯を持ってきてもらった。
3人でソファーに座り、食べていたがマオはパンとスープ、ほんの少しの肉を食べて、もう食べられないと言った。
今朝の飯は、材料が足りずかなり少量だったから、昼飯はたくさん食べると思っていたんだが。
マオはこんなにたくさん食べたのは初めてだと言う。
今までマオを囲っていたヤツは、マオにまともに食事をさせていなかったようだ。
沸々と怒りが沸いてくる。見ればダンも顔をしかめている。
これからは、少しずつ食事の量を増やしてやろう。細い手足と、折れそうな腰を見ていると、マオがいつか、倒れてしまうんじゃないかと心配だ。
マオが残した食事は俺がペロリ食った。同じ肉のはずなんだが、マオの食べ残した肉は今までのどの肉より旨かった。
昼休憩を挟み、再びマオを膝の上に乗せて書類仕事を再開した。
しばらくして、マオがトイレに行きたいと言ったから、一緒に行こうとすると
1人で行けるから大丈夫だと言われた。
少しでも離れることが心配だったが、2階のトイレなら誰にも会うことはないだろうし大丈夫だろう。
トイレの場所を説明し、マオが戻ってくるのを待っていたのだが、なかなか戻ってこない。
もしや体調が悪いのか?
心配になり、トイレへ向かうと清掃員のレイがいた。
「レイ、ここにフードを被った少年が来なかったか?」
「ギルマス!えぇ来ましたよ。しかし、清掃中だったので一階のトイレに行ってもらいました」
なんだと?1階は血の気が多く野蛮な冒険者がいるかもしれないと言うのに。
俺はすぐに1階のトイレに向かった。
トイレのドアを開けようとすると、中から
「リースさん!リースさんたすけてーー」
という、マオの叫び声が聞こえた。
すぐにドアを開け中に入ると、大柄な体躯の男に壁に押さえつけられ、身体をまさぐられているマオの姿があった。
目の前が真っ赤に染まり、渾身の力を込めて男を殴り飛ばした。床に倒れた男を見て、まだ殴り足りなかったが、視界に恐怖で震えるマオの姿が入り、慌てて抱き締めた。
抱き締めた瞬間、身体をビクつかせたが俺だと分かると力が抜けたようにもたれ掛かった。
「マオ、遅くなってすまない。もう大丈夫だ。」
「リース…さん?…リースさん、リースさん!!ぼくっ、ぼくっ……」
恐怖からうまく呼吸ができておらず、マオはそのまま意識を失った。
そのあと、駆けつけたダンに男を拘束するよう指示を出しマオに抱き上げた。
マオのシャツは破かれており、首筋に噛み跡、肩に掴んだ跡、それから、乳首が赤く腫れていた。
まだ俺が触れていない場所に他の男が先に触れた。
決して許さない。
男には地獄を見させてやる。
ダンにマオの新しい服を用意するよう指示を出し、仮眠室へ運んだ。誰にもマオの肌を見られないように自分の上着を被せて。
仮眠室のベッドにマオを寝かせると、しばらくして、ダンが戻ってきた。
俺は布団をマオの首と肩だけ出るように掛けた。
「ダン。ご苦労だった。マオは首と肩を怪我している。意識がないうちに治療したほうが苦痛が少ないだろう。頼めるか?」
「もちろんです。……これは、噛み跡と掴まれた跡ですね。あの男、決して許さない」
マオの傷を確認したダンは拳を握りしめて怒りを我慢している。
ダンがこんなにも感情的になるのは珍しい。ダンにとってもマオは大切な存在なんだろうな。
渡しはしないが。
治癒を終えたダンから新しいシャツを受け取り、マオを着替えさせた。
もちろん、ダンを退室させてから。
敢えて、ダンには乳首の腫れを伝えなかった。これ以上俺以外のヤツに見せたくなったからだ。
乳首には痛み止めと炎症止めの効果がある軟膏を塗った。
初めてマオの果実のような尖りに触れると言うのに、こんなにも怒りと悔しさを抱えた状態だとは。
マオを1人にした己にひどく後悔する。
それと共にもう決して1人にはしないと誓う。
それでも何が起こるかわからない。
万が一の時に、マオを守れる準備をしておかなければ。
まずは魔法具で、マオの位置を確認できるようにしよう。
街の外れにある、魔法具店にとびきりのものを用意させよう。いくら金がかかっても構わない。
できれば、常に身に付けられるもの。
そうだ、ピアスの魔法具にしよう。この世界ではピアスは恋人または伴侶がいる証となる。
もうすぐ、16歳になると言っていたし、誕生日祝いということで贈れば変に思われないだろう。
マオがしばらく起きそうにないことを確認してから隣の執務室に行った。そこには、ダンが俺を待っていた。
「ダン、あの男について詳しく教えてくれ」
「はい。男の名前はジルシード。最近D ランクからCランクへ上がったものです。しかし、Cランクの依頼をうまくこなすことが出来ず、最近は失敗ばかりだったようです。もともと組んでいたパーティとも折り合いがつかず、追い出されたようですね。それで、イライラしているときにマオ君に出会い、黒目黒髪、しかもかなりの美貌とわかり自分のものにしようと思ったそうです。貯まったストレスを性欲として発散しようとしたのでしょう。忌々しい。」
ダンの報告を聞いていると腸が煮えくり返しそうだ。やはり、1発殴っただけでは緩かったようだ。
「ダン。そいつの冒険者の資格を剥奪しろ。一旦剥奪された冒険者はこの国では再登録ができねぇ。そんなヤツを雇う愚か者もいないだろう。あいつはこの国を出ていくしかいきる道はねぇ。もし、この街に足を踏み入れようもんなら、その時はお前の命はねぇと伝えろ。……それにしても、俺の拳でヤツの顎の骨は砕けたはずだが、よく喋れたもんだな」
「最初は喋ろうとしませんでしたよ。というか、喋れませんでしたね。なので、ちょっとばかし治癒を施しました。あっ、でも安心してください。全部聞き出した後に、もう一度顎の骨は砕いておりますから。私の不注意で鼻の骨も折ってしまいましたが」
「よくやった。さすが俺の補佐だな」
「お褒めに預かり光栄です」
ダンとの話し合いを終え、仮眠室に戻りまだ目を覚まさないマオの額に口づけをする。
マオ、早く目を覚ましてキレイな瞳で俺を見てくれ。愛している。
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