清く、正しく、たくましく~没落令嬢、出涸らしの姫をお守りします~

宮藤寧々

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第三章 伏魔殿の一族

二、<閑話>馬の骨

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『高鴨藤花』

 天津桐矢を引き留めた使用人、化粧の濃い派手な装いをした二人の使用人は、忌々しそうにその名前を告げた。

「それが、兄貴が撫子に寄越した世話係の女か?」
「はい、そうなんです・・・・・・なんでも霜凪家の許嫁に勧められるまま、紹介状を書いたとか・・・・・・」
「本当に、恐ろしい小娘なんです」
「怪しげな炎の妖術を用いて、私達を追い出して、撫子様に穢れを持ち込むなんて・・・・・・」
「きっと、悪い妖怪なんですわ」

 二人は、これまで撫子の世話をするために天津家から通っていたらしい。
 しかし、高鴨藤花という世話係に追い出され、撫子が甚振られている・・・・・・不満と嫌悪交じりの訴えを聞きながら、桐矢はこれまでの情報を整理していた。
 その名前は、何回も聞いている。
 母曰く、『ただの優しいお嬢さん』。
 青柳曰く、『撫子様をお守りしてくださる方』。
 千代曰く、『本当に素晴らしい御令嬢』。

 兄の良夜が高鴨藤花を世話係に推薦した時も、天津家は素行調査をしていたらしい。
 両親を早々に亡くし、婿入りの予定もないため爵位を返上した、ただの没落令嬢・・・・・・天津家としては余所者を撫子に触れさせたくなかったが、雛菊の意向で人気の無い場所で修行を始めた撫子と共に住める女性は貴重だったので、特例で認めたらしい。
 母が縹の傍系だが霊力は無く、術者の世界とは無縁の令嬢だったらしいと天津家は聞いていたが――

『一瞬で火の手が上がった』
『子鬼に氷の粒を投げつけた』
『水無月本家の令嬢の術を打ち消した』
 あの宴の後、醜態を晒した取り巻き達から聴取した情報を集めれば、高鴨藤花が何かしらの術を扱うのでは、と推測されていた。
 しかし、火気の性質を持つ水無月には、あのような術者はいないと返答を受けている。
 彼らとしても、本家の面子を潰されたので怒り心頭らしいが・・・・・・子の教育を反省しろと言われては黙するしかない様子。
 水気の性質を持つ霜凪家にも、霊力を雪や氷に変える術を使う物はいる。
 高鴨藤花は霜凪葵が勧めた令嬢らしいが、探りを入れても霜凪の術者とは判別できなかった。

「これは、霜凪家の策略ですわ!」
「化け物でお嬢様を誘い込み、天津家を滅ぼそうとしているのです!」
「どうか、にっくき高鴨藤花を成敗してくださいませ!」
 桐矢が物思いに耽っていた間も、使用人は交互に叫び続けていた。
 その声色や声量が、先程の妹の癇癪を彷彿とさせて、些か腹立たしい。
「あーあー分かったよ」
 舌打ちを我慢しつつ、苛立つまま返事をする。
「ちょうど見に行く予定だったんだ。案内してくれ」
「かしこまりましたわぁ!」
「お任せくださいませぇ!」
 怒りから喜びから転じても、けたたましい声を上げる二人に、今度こそ舌打ちを鳴らした。


「到着いたしましたわ!」
 お偉方から鍵を借り、使用人二人と自動車で半刻――
 車を降りて、参道や山道を歩いた先に、撫子が住むという邸宅があった。
「随分と、辺鄙な場所に住んでるなぁ・・・・・・」
 一目散に突き進む使用人の後を、桐矢は周囲を見渡しながら進んでいた。
 本邸の敷地内に住んでいた頃より、さらに人気の無い寂しい場所に、些か憂鬱な気分を覚える。
(まだ十歳だろ・・・・・・あいつは何考えてんだ・・・・・・)
 脳内に母が過ぎるが、ただただ泣き続ける姿しか思い出せない。

「桐矢様、此方ですわ!」
「ささ、鍵を、早く!」
 使用人達に案内された邸宅を一目見て、桐矢は呆然と呟いていた。
「・・・・・・何だよ、この小屋」
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