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第二章 花散る所の出涸らし姫
十九、怨念漂う地
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夕刻を迎える頃、撫子の住む邸宅を訪れた迎えは青柳だった。
「・・・・・・本気ですか?」
彼は撫子だけを連れ出すつもりだったのだろう。
門扉の前で立ち塞がり、『自分も連れて行け』と要求する藤花に、逡巡する様子を見せた。
「・・・・・・身の安全の保障はできませんよ」
「分かっています」
その遣り取りを交わした後、彼は藤花の同行を認めた。
「・・・・・・お久し振りです」
「・・・・・・」
青柳は撫子と対面すると深く頭を下げ、撫子もお辞儀を返した。
しかし、会話が続くことはなかった。
「では、ご案内いたしますので・・・・・・」
青柳の先導に従い、迎えの車が用意されている場所へ向かう――
その道中、二人が言葉を交わすことはなかった。
青柳の方はちらちらと撫子の方を振り返り、気にする素振りを見せているのだが、撫子の方は緊張の為か終始俯いて歩いていたため、視線に気付いていないのだろう。
車に乗ってからも、撫子の様子は変わらなかった。
固い表情で俯き、扇子を握り締めている――撫子が産まれた時に、彼女の父である天津家当主が『撫子から離すな』と命じて託した物らしい。
撫子が許された唯一の私物であるため、大事にしているとのこと。
車に乗っているのは撫子と藤花と青柳・・・・・・そして紅鏡が膝の上にいる。
「・・・・・・天津家の本邸へ向かう道ではないな」
(そうなの?)
てっきり、撫子の姉は本邸へと呼びつけたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「あの、どちらに向かっているのですか?」
「天津家所有の別邸です」
(へえ、撫子様のお家以外にも色々お持ちなのねぇ)
高鴨家は別邸などというものと縁が無かったので、財力の差にただ驚くばかり。
「普段は天津家で修行している者達が寝泊まりしている場所なのですが・・・・・・」
運転中の為、青柳は前を見ながら説明をしてくれた。
かつて政略争いに負け自死を選び、死後に政敵達を次々と呪い殺したという豪族・・・・・・その一族が住んでいた土地は曰く付きで、今の時代に至るまで『祟り』と呼ばれるような災いを幾つか起こしたらしい。
天津家は、その土地の浄化と管理を兼ねて術者を住まわせているらしい。
「今も子鬼のような輩が何匹か出ておりまして・・・・・・芙蓉様は、取り巻き、いえ御友人を呼んで技比べをしたいと思いついたのです・・・・・・術者の務めを余興のように扱うなど・・・・・・褒められた行いではありませんがね・・・・・・」
心労や嘆きを表すように、彼は深く長く溜め息を吐く。
「おそらくは、撫子様に己の術や友人を見せびらかしたいだけでしょう・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫。慣れてるもの」
ぽつりと撫子が呟く。
特に動じない様子を見るに、本邸にいた頃は、ずっとそのような扱いを受けていたのだろう。
「・・・・・・貴女も」
「え、私?」
視線こそ分からないものの、青柳の言葉は自分に向けられたものかと察する。
「撫子様が貴女の主でも、芙蓉様はかなり高い霊力を持ち、天津家内でも有力視されている御方・・・・・・失礼の無いように頼みますよ」
「・・・・・・大丈夫です。少ししか持って来てませんから」
「何を?」
撫子や青柳の話を聞くに、天津芙蓉という少女は、かなり傲慢で性格の悪いお嬢様だと考えられる。
そんな悪いお嬢様には、自分も悪いお嬢様になるしか・・・・・・と藤花は決めた。
紅鏡には止められたが、一応、塩の小袋は懐に隠し持っている。
(撫子様に失礼なことしたら、許さないんだから)
夕焼けが辺りを染め始めた頃、車は目的地へと到着した。
豪族の怨念漂う地・・・・・・と警戒していた藤花の目に映るのは、白壁に囲まれた平屋の建物だった。
かつての宮殿を思わせるような荘厳さを感じる造りに、思わず圧倒される。
(こんな立派な場所が『別邸』なんて、名門貴族は凄いのねぇ)
金があるなら、撫子にも立派な家を・・・・・・と不満を感じながらも、青柳に従い門扉を潜る。
撫子の邸宅や、高鴨の屋敷とは比べようもなく長い距離を歩いた先に、入り口があった。
其処には、煌びやかな集団が待ち構えていた。
その先頭――とりわけ豪勢な振袖に身を包んだ少女の顔を見て、撫子が足を止める。
「久し振りね、無能」
その言葉と、嘲笑ともいうべき歪んだ笑みを浮かべる少女を見て、藤花は確信した。
(これが悪いお嬢様ね)
「・・・・・・本気ですか?」
彼は撫子だけを連れ出すつもりだったのだろう。
門扉の前で立ち塞がり、『自分も連れて行け』と要求する藤花に、逡巡する様子を見せた。
「・・・・・・身の安全の保障はできませんよ」
「分かっています」
その遣り取りを交わした後、彼は藤花の同行を認めた。
「・・・・・・お久し振りです」
「・・・・・・」
青柳は撫子と対面すると深く頭を下げ、撫子もお辞儀を返した。
しかし、会話が続くことはなかった。
「では、ご案内いたしますので・・・・・・」
青柳の先導に従い、迎えの車が用意されている場所へ向かう――
その道中、二人が言葉を交わすことはなかった。
青柳の方はちらちらと撫子の方を振り返り、気にする素振りを見せているのだが、撫子の方は緊張の為か終始俯いて歩いていたため、視線に気付いていないのだろう。
車に乗ってからも、撫子の様子は変わらなかった。
固い表情で俯き、扇子を握り締めている――撫子が産まれた時に、彼女の父である天津家当主が『撫子から離すな』と命じて託した物らしい。
撫子が許された唯一の私物であるため、大事にしているとのこと。
車に乗っているのは撫子と藤花と青柳・・・・・・そして紅鏡が膝の上にいる。
「・・・・・・天津家の本邸へ向かう道ではないな」
(そうなの?)
てっきり、撫子の姉は本邸へと呼びつけたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「あの、どちらに向かっているのですか?」
「天津家所有の別邸です」
(へえ、撫子様のお家以外にも色々お持ちなのねぇ)
高鴨家は別邸などというものと縁が無かったので、財力の差にただ驚くばかり。
「普段は天津家で修行している者達が寝泊まりしている場所なのですが・・・・・・」
運転中の為、青柳は前を見ながら説明をしてくれた。
かつて政略争いに負け自死を選び、死後に政敵達を次々と呪い殺したという豪族・・・・・・その一族が住んでいた土地は曰く付きで、今の時代に至るまで『祟り』と呼ばれるような災いを幾つか起こしたらしい。
天津家は、その土地の浄化と管理を兼ねて術者を住まわせているらしい。
「今も子鬼のような輩が何匹か出ておりまして・・・・・・芙蓉様は、取り巻き、いえ御友人を呼んで技比べをしたいと思いついたのです・・・・・・術者の務めを余興のように扱うなど・・・・・・褒められた行いではありませんがね・・・・・・」
心労や嘆きを表すように、彼は深く長く溜め息を吐く。
「おそらくは、撫子様に己の術や友人を見せびらかしたいだけでしょう・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫。慣れてるもの」
ぽつりと撫子が呟く。
特に動じない様子を見るに、本邸にいた頃は、ずっとそのような扱いを受けていたのだろう。
「・・・・・・貴女も」
「え、私?」
視線こそ分からないものの、青柳の言葉は自分に向けられたものかと察する。
「撫子様が貴女の主でも、芙蓉様はかなり高い霊力を持ち、天津家内でも有力視されている御方・・・・・・失礼の無いように頼みますよ」
「・・・・・・大丈夫です。少ししか持って来てませんから」
「何を?」
撫子や青柳の話を聞くに、天津芙蓉という少女は、かなり傲慢で性格の悪いお嬢様だと考えられる。
そんな悪いお嬢様には、自分も悪いお嬢様になるしか・・・・・・と藤花は決めた。
紅鏡には止められたが、一応、塩の小袋は懐に隠し持っている。
(撫子様に失礼なことしたら、許さないんだから)
夕焼けが辺りを染め始めた頃、車は目的地へと到着した。
豪族の怨念漂う地・・・・・・と警戒していた藤花の目に映るのは、白壁に囲まれた平屋の建物だった。
かつての宮殿を思わせるような荘厳さを感じる造りに、思わず圧倒される。
(こんな立派な場所が『別邸』なんて、名門貴族は凄いのねぇ)
金があるなら、撫子にも立派な家を・・・・・・と不満を感じながらも、青柳に従い門扉を潜る。
撫子の邸宅や、高鴨の屋敷とは比べようもなく長い距離を歩いた先に、入り口があった。
其処には、煌びやかな集団が待ち構えていた。
その先頭――とりわけ豪勢な振袖に身を包んだ少女の顔を見て、撫子が足を止める。
「久し振りね、無能」
その言葉と、嘲笑ともいうべき歪んだ笑みを浮かべる少女を見て、藤花は確信した。
(これが悪いお嬢様ね)
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