死にたがりの独白

死にたがりの独白

今日の風は今日のものだ
たとえ何度地球を廻っても

未だ来ぬものを疑うことのない人々の声の中で
私だけが怯えて息をしている
首筋に当てられた死神の鎌の切先は
十年をとっくに過ぎるのに錆びることがない

ああ、死ぬのだと思った
未練を憶うおもうこともなく
ああ、死ぬのだと覚悟した
あの瞬間からずっと死神がここにいる

死なないから生きている虚しさを
悟らせないように息をしていれば
周囲はまるで美徳かのように
明日のための苦労を強要する

どうして明日を信じられよう
どうして辛苦の道を選べよう
今日、この帰り道に
私は死ぬかもしれないのに

ほうら、こうして
目を合わせた次の瞬間には
死神に首を刎ねられるやもしれないと
思いもしない果報者めが

今日の風は今日のものだ
たとえ何度地球を廻っても

だから風よ
私の周りを行くのなら
いつだって優しく吹いていけ

死ねない私の死に際に
悲しみも苦しみもいらないのだ