死にたがりの独白

サルビア

バス停は丘の麓にあり
古びた屋根付きのベンチの脇には
頂上へ続く苔生した石階段と
大木と雑草と花々とがあった

そこは放課後の遊び場だった
ランドセルを背負ったまま
石階段を上って下りてグリコをしたり
大木をぐるりと回ったりした

頂上には公園があると聞いたが
私たちはめったに行かなかった
そこまで行かなくても
楽しいことなど山ほどあった

春にはモンキチョウを
夏にはカブトやクワガタを
秋にはオニヤンマを
冬にはユキンコを追いかけていた

ツツジの花を髪に挿し
黄色いタンポポを指輪にした
キイチゴをおやつに
それのない日は花の蜜を吸っていた

サルビアの花を見ると
淡い甘さが舌によみがえり
もう幼くもない私は
夢のような日々を懐う

怒りに震えた大地が
すべて崩してしまった
海を飛び出した大波が
すべて攫っていった

忘れられない轟音が
毎夜私を傷つける
忘れたくない面影が
そして私を慰める

例えば雲の流れるように
風に心の揺蕩うように
帰りたいとばかり願う
未練がましくも　何度も

帰れないと知っているから
もうあの日々の続きには
生きられないと知っているから
紅い小さな花が甘い

繰り返し　繰り返し　懐う
せめて永遠であるように
私だけは忘れずにいよう
鮮やかな十五時の故郷を