【完結】乙ゲー世界でもう一度愛を見つけます

瀬川香夜子

文字の大きさ
上 下
24 / 38

23

しおりを挟む


 週明けにユーリスとともに王立図書館へ向かったところ、目当ての絵本が無事に見つかった。
 ネノンを通して連絡をしてもらっていたこともあり、事情を話すとスムーズに許可が取れ、持ち出すことが出来た。
 役に立てばと、調査に関わっているヘルサ経由で騎士団に提供してもらったところ、その翌週には捕獲に成功したと連絡が入った。
「そこまで攻撃性の高い魔獣じゃなかったからね。さほど手間取らずに捕獲できたみたいだよ」
 わざわざ報告に来てくれたヘルサの言葉に、リシャーナとユーリスはほっとした。
 魅了魔法は無防備でいるほど効きやすい。反対に、来ると分かって身構えていれば、それなりに対処が出来るものなのだ。
 自分の油断が招いたことではあったが、結果として自身の経験が役に立ったことにほんのり救われた気持ちだ。
「どうしてチーチャムがあそこにいたのかは分かっていないんですよね?」
 ユーリスの問いに、ヘルサは渋い顔で頷いた。
「随分と昔に絶滅したはずの魔獣だからね……召喚魔法で呼び出した、っていうのが有力だけれど、時間を越えての召喚だなんて並大抵の魔力では出来ないはずだ」
「仮に召喚魔法だったとしても、どうしてチーチャムを召喚しようとしたのか……目的も分かりませんよね?」
 ヘルサのいうように召喚魔法というのは、膨大な魔力を使うものだ。
 本来は何人もの魔力保有者が協力し合って行う。
 しかしそれは、同じ時間軸に存在する無機物や生物に関してのことで、現在絶滅した生き物を生存している時間軸から現代に召喚するとなると、さらに膨大な魔力が必要となるだろう。
 召喚魔法とは、本来国の騎士団など組織単位で行われるもので、それはひとえに、そうでなければ必要な魔力を補うことが出来ないからだ。
 よく使われる手段としては戦争だろうか。
 相手の陣営内に凶暴な魔獣を送り込むといったひどい使われ方をしていたこともある。
(でも、国単位で使うようなものを一体誰が……?)
 決して一個人や、一つの家系だけで可能とは考えにくい。
 しかも、それほど苦労して喚びだしたのがチーチャムとはどういうことだろう。
 リシャーナが訊ねれば、ヘルサはいくつかの仮定を語ってくれた。
「考えられるとするなら三つかな……まずあの魅了魔法が必要だった。次に、チーチャムの雑食に目をつけた」
「チーチャムは雑食なのですか?」
 あの小さくて可愛らしい姿からは想像出来なくて、思わず声に出てしまった。
 ヘルサはこくりと頷いて続けた。
「チーチャムとチムシーとの共生関係はそれが軸になっているんだ。まず、根を張って動けないチムシーの代わりにチーチャムが餌をおびき寄せる。その餌からチムシーが魔力を吸って動きを奪う。魔力を失った新鮮な肉を、チーチャムが食べるというわけなんだ」
 追加で説明してくれたヘルサによると、チーチャムの牙は骨さえ砕いてしまうほどで、つまり最後にはなにも残らないのだという。
 チムシーに捕らわれた経験のあるリシャーナから、さっと血の気がなくなった。
 たしかに魔力をなくして死にかけはしたが、体ごとバリバリと食われるところだったなんて想像していない。
(あのときユーリスがいてくれてよかった……!)
 改めてそう思いながら、隣にいたユーリスに礼を言うと、彼もほんのり青ざめた顔でこくりと頷いてくれた。
 と、そこでヘルサが口髭を撫でながら続けた。
「最後に、額にある特殊な鉱石だ」
「ああ……あの真っ赤な不思議な石ですね」
 思い出すように言ったユーリスに、ヘルサは大きく顎を引いた。
「そうなんだ。まだ完全な解析は済んでいないんだが、あの鉱石は魔力の干渉を受けないんだよ」
「つまり、魔法が効かないということですか?」
「うーん……説明が難しいんだが、物理的な攻撃は通るんだ。例えば魔法で水を生み出して捕らえたり、火をおこして攻撃したりね。ただ、魅了魔法やチムシーのもつような魔力の混乱、吸収といった魔法など、チーチャムの魔力自体に影響がでるものは一切効果を発揮しなかったんだ」
 驚きだろう? と、ヘルサは眼鏡の奥で瞳を輝かせた。
「しかもこれはチーチャム固有のものではなく、あくまであの鉱石が主となって効力を発揮していることなんだ。あの鉱石に触れた騎士にも、同じような効果が見られた」
「それは本当ですか?」
「ああ、もちろん! 私もこの目で見たので間違いない。もしかしたらチーチャムは、魔獣の生存競争に負けたのではなく、その鉱石の有用性から乱獲されて絶滅したのかもしれないよ!」
 ヘルサは興奮した口ぶりで語尾を上げた。
「たしかにその鉱石が目的、というのが一番可能性としては高そうですね」
 ユーリスの言葉に、リシャーナも同意を示す。
 このオルセティカ国は他国との戦争もなく平和であるが、同じ大陸の離れた国ではいまだ戦火の止まぬところもある。
 そして、戦況を左右するのは攻撃魔法の質と量だ。
 例え兵器や兵士の数で負けていたとしても、魔力保有量が相手よりも格段に多い少数先鋭の部隊が一つあれば、簡単に戦況など変わってしまう。
 それだけ魔法の存在というのは厄介なものだ。しかし、どんなに危険な攻撃魔法であっても、魔力がなければ使うことはできない。
 そのため、戦争においてはどれだけ相手に魔法を使わせないようにするかが重要であり、兵士そのものの精神に影響を与えて魔力のコントロールを出来なくするものであったり、魔力自体を乱したりなくしてしまって魔法を使えなくしたりする魔法や魔法具の存在が増え続ける始末だ。
 近年では、どれだけ相手国からの魔力妨害の被害をなくすか。ということが第一に勝利条件として提示されるぐらい、悩ましい話題となっている。
 しかし、チーチャムの鉱石を一つ、お守りのように懐に忍ばせておくだけで、その問題は解決だ。
 そう思うと、どこか戦争真っ只中の他国が、国がらみで召喚に臨んだとみるのが妥当だろうか。
(でも、チーチャムが発見されたのはオルセティカの王都近くだし……)
 逃げ出したとしても、果たしてオルセティカまでまで来られるものだろうか。
 どうにもその点が腑に落ちない。ユーリスも同じような考えなのか、釈然としないような顔で首を捻っている。
「しかもね、あの鉱石自体が魔力を宿す魔鉱石なんだけど、外から魔力を与えて石にとどめておくことが出来るんだよ! つまり、持ち運びの出来る魔力の貯蔵庫なんだ!」
 興奮した様子を隠さずにヘルサは言い募った。そのあまりの利用価値の高さに、リシャーナとユーリスは唖然としたように口を開いてしまった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

処理中です...