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しおりを挟む試験期間まで一週間をきると、生徒たちの雰囲気も張り詰めて緊張感を含んだものになる。
移動教室の帰りに背後から呼び止められた撫子が振り返るのを合図に、詩織がぺこりと小さく頭を下げた。
昼休みや放課後など事前に決めた相談の日以外は会うことも話すこともなかった。
こうして呼びとめられるのも、初めて会ったとき以来のことだ。
いつも穏やかで控えめな笑みを浮かべている彼女の表情が今日はひどく硬い。その深刻そうな様子に、撫子は咲恵と美南を先に行かせ、詩織と廊下の隅に移動した。
「なにかあった? ここじゃ難しそうなら空き教室行く?」
大体の生徒は教室に入って休み時間を満喫しているが、行き交う生徒がゼロというわけじゃない。
撫子の控えめな問いに、詩織は力なく笑って首を振った。
「大丈夫です。香月くんにはお世話になったから、一言お知らせしておこうと思っただけなので」
――昨日、四条くんに告白してフラれました。
一瞬喜びを感じそうになった自分を蔑むよりも早く、続いた彼女の言葉によって頭が真っ白になった。
「お礼も受け取ってはもらえましたが、あんまりいい顔はされませんでした。まあ、今さらなんだよって感じですよね」
「え……?」
驚いて見開いた眼で彼女を見下ろした。眉を落として笑う姿は、分かっていたことだと受け入れているようだが、それでも悲しんでいるのが分かった。
彼女の言った言葉に嘘はないのだろう。
――いい顔はされなかった? 四条くんが?
受け取りはしたと言うが、途中つっかえたように言葉を呑んだ様子から見て、快くというわけではなかったのだろう。
まさかそんなことがあるだろうか、と撫子は驚きでしばらく呆けてしまった。
四条は確かに直接的でハッキリとした物言いをするから、きつい性格に思える部分もあるが、根は善良で優しい男だ。
本心から真摯に謝罪をしたいという彼女の気持ちは十分に分かったはずだ。喜びはしなくても、彼女の真剣な想いを理解することはあると容易に想像していた。だから、まさか渋い顔をするなんて、撫子には全く想像出来ていなかった。
(それとも、それだけあの出来事は四条くんの心に残ってるのかな……)
そう思うと、傷ついた彼を思って胸が切なく痛んだ。
落ち込む詩織を前に、なんて声をかけたらいいのか分からず視線があっちこっちへ動かした。言葉を探す撫子に、詩織は無理に口角を上げてへらりと笑った。
「四条くん、好きな人がいるらしいです。だから私の気持ちには答えられないって言われちゃいました」
笑う顔は無理をしているが、意外と瞳の奥は晴れていてすっきりしているように見えた。
最後に今までの相談の礼を言って、詩織は足早に教室へと戻っていった。彼女の背中を、撫子は廊下で立ち尽くしながらぼんやりと見送り、やがてよろよろと自分も教室に向かう。
(四条くんの好きな人って、だれ……? いつの間に好きな人なんて出来たんだろう)
虚ろな足取りでなんとか席につき、そうしてやっと追いついた頭に浮かぶ疑問はたった一つだ。
真っ暗な闇の中にぽんと放り出されたような、そんな途方もない虚無感が撫子の胸に押し寄せた。
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