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短い物語P&D『On The Run~PartⅡ』
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コンビニで買い物をすませて帰る途中、僕は少し後悔することになった。
来た道を戻って帰ればいいものを、思いつきで遠回りした結果、遭遇してしまった。
狭い路地を塞いでいたのは、なるべく避けたい感じの面々。
僕は十数メートルの先に屯す男三人から視線を外した。
けれど視界には密かに収めつつ、予定になかった角を曲がった。
危険を察知したから。
だから回避したのだと言い聞かせた。 実際は弱気な逃避。 道は更に窮屈になったような気がした。 くたびれた色彩の建物ばかり連なる道を歩きながら、僕は振り返ろうか迷った。
しばらく歩き続け、右へ一回、左へニ回曲がった。 そして目の前を黒い猫が横切った時、足を止めた。
ここはどこだ。 立ち止まった場所は、少し不安になるほど記憶に無い風景だった。
僕は直ぐスマフォに頼ろうとした。 そこへ人の気配。 さっきの連中かもしれない。 僕は右側に建っているガレージに隠れるというアイデアが閃いた。 腰の高さくらいまでシャッターが開いていたから、急いで中へ転がり込んだ。 幸いガレージの中には誰も居なかった。 僕は差し込む光が当たる地面を見つめながら、近づいてくる数人の声に集中した。 やがて話し声がガレージの前まで来ると、想定していないことが起こった。 男たちはシャッターを開けようとしていた。 焦った僕は後ずさりした。 奥に半開きのドアを見つけると、そこへ飛び込んだ。 ドアの向こうは狭い通路になっており、数メートル先にはまたドアがあった。 どうしようか迷っていると、シャッターが上がる音が聞こえた。 僕は迷わず駆け出した。 通路の奥にあるドアは難なく開いた。 中に入ると、そこは物置だった。 いくつか棚が並び、車の部品があった。 僕はそっとドアを閉め、更なる逃げ道を探そうと見回した。 すると頭に蜘蛛の巣が引っかかった。 慌てて払い除けると、掌サイズの蜘蛛が床に落ちた。
少し驚きはしたが、直ぐに次の逃げ道を見つけた。 奥にはスイングドアあり、覗き窓から屋外らしき景色が見えた。 とにかく外に出ようと思った僕は、棚の隙間を通り抜けようとした。 乱雑な足場に気を取られていたせいか、棚に立て掛けてあった脚立にぶつかってしまった。 その衝撃で棚の最上段に並んでいた物体が落下した。
それは、つやの無い黒い球体だった。
直径は僕の2メートルくらいあった。
見た目は大型のくす玉だったが、重みのある音が室内に響き渡った。
棚が身震いするように揺れた。 そして、床に落ちた球は僕に向かって転がってきた。
避けるつもりはなかった。
受け止めるつもりもない。 僕は逃げた。
ぶつかるようにしてドアを突破。 外に出ると、そこは六畳ほどの広さがある空間だった。
背の低い雑草と苔が敷かれた小さな中庭。 それだけだった。
けれど、期待できる抜け道があった。 家と家の間に排水路が通っている。 狭いけれど、そこをたどればいい。 僕は横歩きで蓋の無い水路の上を進んだ。 通り抜ける途中、他人の家の中が見えた。 住人はゲームをしていた。
大型のディスプレイに映っていたのは、転がって来る物体から逃げるシーン。 敵は後ろから迫り来る。
前方から現れる敵を倒すわけではない。
避けたりもしない。
プレイヤーは傾斜のある狭い通路を走って下る。
振り向いて敵を確認できるが、待ち構えて破壊できないし、受け止めることもできない。
追いつかれそうになったら上手く避けてやり過ごす。
とにかくゴールまで走って前進。
どうやら普通のゲームとは違うらしい。
観るからにやりにくそうなシステム。
爽快感からは遠い。
僅かな時間だったけれど、僕はゲームに気を取られてしまっていた。 とにかく今はここを通り抜けなくては。 僕はスピードを上げようとした。 その時だった。 猫が一匹、足元を駆け抜けて行った。 さっき僕の前を横切った奴だった。 立ち止まることなく走り去った。 僕の存在は無視されたが、ここを通り抜けてしまえば猫が待っているかもしれない。
そんな想いで道に出ようとした時、声が聞こえた。
「もう逃げるなよ。探すの大変なんだから」 瞬時に固まった僕の前を、三人の男が通り過ぎて行った。 その内の一人が、さっきの猫を抱いていた。 猫は僕の方を見ていた。
確かに目が合った。 彼らは猫を探していたらしい。 だとしたら、僕は何をしていたのだろう。 何となくほっとしたけれど、気分は暗い路地から抜け出せていなかった。 彼らが遠去かった後、明るい道を歩きながら僕は何度か振り返った。
あの黒い球体は何だったのかな。
あのゲームのタイトルは何だろう。
僅かに妄想の坂を下り始めると、都合のいい解釈も転がって来た。 背後に気配を感じたら、それは背中を押してくれる何か。 負け惜しみのようでもあり、言い訳しているような気もする解答。 けれど、やっぱり気になったのは、あの猫。
黒猫の迷信を信じているわけじゃない。
でも、あいつは何かを知っている。
そう思えて仕方ないんだ。 ~終わり
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『On The Run~PartⅡ』
■作家名(Artist):環樹リョウ(RYO KANZYU)
■制作年:2018
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【画】
■タイトル(Title):『On The Run~PartⅡ』
■作家名(Artist):環樹リョウ(RYO KANZYU)
■制作年:2018
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。
だから回避したのだと言い聞かせた。 実際は弱気な逃避。 道は更に窮屈になったような気がした。 くたびれた色彩の建物ばかり連なる道を歩きながら、僕は振り返ろうか迷った。
しばらく歩き続け、右へ一回、左へニ回曲がった。 そして目の前を黒い猫が横切った時、足を止めた。
ここはどこだ。 立ち止まった場所は、少し不安になるほど記憶に無い風景だった。
僕は直ぐスマフォに頼ろうとした。 そこへ人の気配。 さっきの連中かもしれない。 僕は右側に建っているガレージに隠れるというアイデアが閃いた。 腰の高さくらいまでシャッターが開いていたから、急いで中へ転がり込んだ。 幸いガレージの中には誰も居なかった。 僕は差し込む光が当たる地面を見つめながら、近づいてくる数人の声に集中した。 やがて話し声がガレージの前まで来ると、想定していないことが起こった。 男たちはシャッターを開けようとしていた。 焦った僕は後ずさりした。 奥に半開きのドアを見つけると、そこへ飛び込んだ。 ドアの向こうは狭い通路になっており、数メートル先にはまたドアがあった。 どうしようか迷っていると、シャッターが上がる音が聞こえた。 僕は迷わず駆け出した。 通路の奥にあるドアは難なく開いた。 中に入ると、そこは物置だった。 いくつか棚が並び、車の部品があった。 僕はそっとドアを閉め、更なる逃げ道を探そうと見回した。 すると頭に蜘蛛の巣が引っかかった。 慌てて払い除けると、掌サイズの蜘蛛が床に落ちた。
少し驚きはしたが、直ぐに次の逃げ道を見つけた。 奥にはスイングドアあり、覗き窓から屋外らしき景色が見えた。 とにかく外に出ようと思った僕は、棚の隙間を通り抜けようとした。 乱雑な足場に気を取られていたせいか、棚に立て掛けてあった脚立にぶつかってしまった。 その衝撃で棚の最上段に並んでいた物体が落下した。
それは、つやの無い黒い球体だった。
直径は僕の2メートルくらいあった。
見た目は大型のくす玉だったが、重みのある音が室内に響き渡った。
棚が身震いするように揺れた。 そして、床に落ちた球は僕に向かって転がってきた。
避けるつもりはなかった。
受け止めるつもりもない。 僕は逃げた。
ぶつかるようにしてドアを突破。 外に出ると、そこは六畳ほどの広さがある空間だった。
背の低い雑草と苔が敷かれた小さな中庭。 それだけだった。
けれど、期待できる抜け道があった。 家と家の間に排水路が通っている。 狭いけれど、そこをたどればいい。 僕は横歩きで蓋の無い水路の上を進んだ。 通り抜ける途中、他人の家の中が見えた。 住人はゲームをしていた。
大型のディスプレイに映っていたのは、転がって来る物体から逃げるシーン。 敵は後ろから迫り来る。
前方から現れる敵を倒すわけではない。
避けたりもしない。
プレイヤーは傾斜のある狭い通路を走って下る。
振り向いて敵を確認できるが、待ち構えて破壊できないし、受け止めることもできない。
追いつかれそうになったら上手く避けてやり過ごす。
とにかくゴールまで走って前進。
どうやら普通のゲームとは違うらしい。
観るからにやりにくそうなシステム。
爽快感からは遠い。
僅かな時間だったけれど、僕はゲームに気を取られてしまっていた。 とにかく今はここを通り抜けなくては。 僕はスピードを上げようとした。 その時だった。 猫が一匹、足元を駆け抜けて行った。 さっき僕の前を横切った奴だった。 立ち止まることなく走り去った。 僕の存在は無視されたが、ここを通り抜けてしまえば猫が待っているかもしれない。
そんな想いで道に出ようとした時、声が聞こえた。
「もう逃げるなよ。探すの大変なんだから」 瞬時に固まった僕の前を、三人の男が通り過ぎて行った。 その内の一人が、さっきの猫を抱いていた。 猫は僕の方を見ていた。
確かに目が合った。 彼らは猫を探していたらしい。 だとしたら、僕は何をしていたのだろう。 何となくほっとしたけれど、気分は暗い路地から抜け出せていなかった。 彼らが遠去かった後、明るい道を歩きながら僕は何度か振り返った。
あの黒い球体は何だったのかな。
あのゲームのタイトルは何だろう。
僅かに妄想の坂を下り始めると、都合のいい解釈も転がって来た。 背後に気配を感じたら、それは背中を押してくれる何か。 負け惜しみのようでもあり、言い訳しているような気もする解答。 けれど、やっぱり気になったのは、あの猫。
黒猫の迷信を信じているわけじゃない。
でも、あいつは何かを知っている。
そう思えて仕方ないんだ。 ~終わり
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【作話】
■タイトル(Title):短い物語P&D『On The Run~PartⅡ』
■作家名(Artist):環樹リョウ(RYO KANZYU)
■制作年:2018
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【画】
■タイトル(Title):『On The Run~PartⅡ』
■作家名(Artist):環樹リョウ(RYO KANZYU)
■制作年:2018
■画材:ボールペン、鉛筆、画用紙、スプレー
■作品サイズ:B5サイズ相当の画用紙を使用。縦19cm×横14cmの枠内に描画。
※『短い物語P&D』を表す絵画は、主にリアル展示による公開です。
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