捨てられ聖女は魔王に拾われる

水中 沈

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魔物会議

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「・・・なるほどそれで髪が濡れているわけだ」

日がもう暮れるであろう夕暮れ、庭園のテラスでべリアは同情した目で私を見つめていた。
魔族大量発生の件で進展があったから会って話したいと通信があり、集合した次第である。

結局あの後、多くの犠牲を払いながら自室に戻り着替えた後、掃除用具を取りに行った。
水たまりを掃除している最中、たまたま食堂の廊下に出ていた料理長に迷惑そうな顔をされ、侍女たちからも白い目で見られながら廊下を掃除した。
無駄にピカピカになった廊下を目に、魔力がないのに喧嘩なんか売るんじゃなかったわ。と深く反省した。

一連の事を話しきった後、べリアは不思議そうな顔で言った。

「にしても、聖女に魔力が無いとは初耳だ」
「こっちでは一般常識よ」

魔族は本当に人間の事に詳しくないらしい。
聞くところによると、人間の食生活についてもあまり詳しくなかったようで、「案外色んなものを食べられるんだな。果物以外は口にしないのかと思っていた」などと感慨深げに語っていた。

「で、本題なんだけど、魔物の穢れって今はどうしているの?」

私が追放された今、浄化の力を使えるのはアリスだけだ。
当の本人は浄化を嫌がっていた為、穢れが溜まっていないか以前から気になってはいたのだけれど、なかなか聞く機会が無かった。

「新しい聖女様とやらが頑張っているみたいだな」
「あのアリスが?」
「ああ。実際に穢れを浄化するのを見たし、間違いないだろう」
「そう・・・」

一体どんな心境の変化があったのか。あれだけ浄化を嫌がっていたアリスがそう簡単に浄化の仕事をするだろうか?
いや、彼女の事だ。周りに「素晴らしい聖女様」と思われるために仕方なく浄化をしているのかもしれない。
とは言え、浄化の仕事が問題無い様で安心した。

冤罪で私を追放したのは教会側だとは言え、魔物がよく現れる地域に住んでいる住民には罪がない。
もし穢れが集まって悪臭に満ちたドロドロの塊「疫病神」へと進化していないかちょっとだけ心配だった。

「それよりも気になる事があってな。調べてみたんだが、最近魔物の発生がカスタール伯爵の領地に固まっていてな
国を挙げての調査をすることになった」

その調査員に推薦して参加させてもらう事になったとべリアは語る。

「カスタール伯爵が怪しいって事ね」

カスタール伯爵。
政治には疎く、詳しい事は分からないけれど、確か帝国に従順で、多数の功績をあげている家門だ。
侯爵家に昇格するとの声も聞いた事がある。名門の貴族だ。

後ろ暗い噂は一切聞いた事がないけれど、政治の世界に闇は付き物だ。
昇格の裏で魔物を発生させ、それを討伐し手柄にするなんて事も平気でやってのける貴族もいるだろう。
怪しい。と言われればそんな気もしてくる。

「ただ、分からない事があってな。わざわざ自分の領地に魔物を連れてくるか?
手柄が欲しいならそれこそ帝都の真ん中にでも魔物を持ってくればいい。
それをせずに自領で魔物を増やすだなんて、疑ってくれと言っている様なものだ」
「確かに・・・でも、魔物を捕まえて増やしている間に逃げちゃった可能性もあるわ」

魔族領に近い地域ではよくある話だった。
魔物を一時的に捕まえて魔物討伐部隊と聖女を待つ間に魔物が逃げ出してしまって逆に魔物が増えてしまったという話は一回や二回ではない。
地域によっては魔物が住み着いてしまうケースもあったりする。

一掃討伐にあたった事もあるけれど、大変なのよね。

話がずれてしまったが、魔物を捕まえて増やす。という事は不可能ではない。
法律違反ではあるが、ペットとして飼育して増えてしまったとか、可能性を上げればキリがない。

「何にせよ、今回の調査は重要だな。で、リリィの方はどうだ?何か情報は得られたか」
「それが・・・ですね」

思わず敬語になってしまう。
政界の事情を調べるのが目的ではあったのだけれど、侍女としての仕事が忙しすぎてまだなんの情報も得られてはいなかった。

「まあ、そういう時もある」

もごもごと口ごもる私を気遣う様にべリアは言った。

「今度パーティーがあるらしいから、その時に頑張ってみるわ!」
「頑張れよ」

まだ王城に入って数日なのだ。情報が無いのも仕方がないと自分に言い聞かせる。
次のパーティーの手伝いをしてもらうわよとディアナ様にも言われたし、頑張らないと。
意気込む私にべリアが「話は変わるが・・・」と話し始める。

「明日、休みか?」
「そうだけど?」
「なら、一緒に城下に行こう。しばらくカスタール領へ出張だからな」

明日くらいは一緒に居たいとまるで恋人のような事を抜かすべリアに思わず「へあ?」と声を漏らすが、
続いて「帝都に住んでいたんだろう?城下街に関して俺は詳しくないからな」迷子防止だ。と言われ呆れた。
迷子防止って・・・嫌ではないけれど、女性を誘う文句としては不合格だ。

「まあ、いいけど」
「決まりだな」

明日のべリアとのお出かけが決まると、余り遅くなると逢引きと勘違いされるかもしれないからと。解散する事となった。
 










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