11 / 16
第三王女②
しおりを挟む
日が傾き、ようやく自室に戻れた私は、力なく椅子に座り込みながらため息を吐く。
頑張ったわ、私。
全ての洗濯物を干し終わった私がディアナ様に報告に行くと、ディアナ様はポカンとした顔をしていた。
「あなた、あれを全部洗ったって言うの?」
ええ、洗いましたとも。
散乱した服をかき集めて、何度も洗い場と部屋を往復した。
その甲斐あって、 部屋にはタオル一つ落ちてはいない。
「そ、そう。良くやったわね。もう今日は帰ってもらって結構よ」
「はい、失礼いたします」
終業時間まではあと一時間ほどあったが、ディアナ様がこう言っているのだからご厚意に与ろう。
にしても、疲れた。
聖女として穢れの浄化に奔走していた頃よりも大変だったのではないだろうか。
(もう、動きたくないーい)
だらりと机に伏した所で、右手にはめたルビーの指輪が目に入る。
定期的な情報交換の為、ベリアと別れる際に渡された通信魔道具である。
通信したい時はこのルビーの飾りを捻ればベリアの持つもう1つの指輪に繋がる、大変便利な代物だ。
(そう言えば、仕事終わりに連絡するって言っていたわね)
なんて考えていると指輪のルビー部分がタイミングよくチカチカと光る。通信の合図だ。
指輪を手に取り魔道具を起動させると、ブツブツとノイズの音が聞こえ、通信が繋がる。
「・・・ィ・・・リリィ、聞こえるか?」
「聞こえてるわ」
指輪から聞こえる声はどこかノイズ交じりだ。
そのノイズの混じった音からでも、べリアの周りが騒がしいのが分かる。
一体何処からかけているのかしら?
気になって聞いてみると、騎士団の歓迎会で城下町の酒場に来ているらしい。
飲み会が終わってからではいつ連絡が取れるか分からなかったから、飲み会の合間を縫って連絡をしていると言うベリアの声は随分と楽しげだ。
人が必死に働いていたと言うのに、この男は!
「ここに来た目的を忘れた訳じゃないでしょうね」
ベリアは魔物調査の最前線にいるのだから、情報の1つでも手に入れるべきだ。と自分の事を棚にあげて詰め寄る。
「心配するな。そっちの方も抜かりはない」
そっちとは何だ。他に目的などあったのかと言いたい所を抑え、訊ねる。
「何が分かったの?」
「帝都で出没した魔物たが、現れたのはほんの小さな魔物で、すぐに処理された為大した騒ぎにはならなかったらしい。
ただ、出没した魔物の生態を鑑みるに、魔族領から人間領にまで入って来れる確率はまず無い」
つまり、人間領で魔物が発生しているのは確定ってことね。
まあ、殆ど確定事項の様なものだったけれど。
となると、問題となってくるのはそれが自然発生しているのか、人為的なものであるか。という点。
正直、人為的なものであると非常に面倒くさいと思う。
政界のどろどろとした雰囲気に揉まれながら必死に内情を調査するのもそうであるし、
魔物を産み出すなんて事をわざわざしたがる+魔物産み出す技術がある人物が一般人なんかである筈もなく、確実に位の高い貴族か王族の類いである。
最悪、冤罪をかけられたまま終わる可能性だってあり得る。
自然的なものであってもそれをどう解決するのか?とか問題は山積みではあるのだが、少なくとも平和的に終われる可能性高い。
真犯人を突き出し、「ほら見なさい、冤罪だったでしょう?」と強く胸を張れないのは心残りではあるが・・・。
そんな私の気持ちを他所にベリアは話を続けた。
「それと、魔物の出没区域にも疑問点があってだな・・・。詳しく調べてはみるが、まあ、人為的なものと見たほうが良いだろう」
そう冷静に告げたベリアはある程度察していた様子だった。
私としては見たくない現実ではあったが、ある日を境に、いきなり魔物が発生し始めたのだ。
自然発生というよりも、人為的な可能性が・・・ちょっと、ほんのちょっとだけ高いということには気付いていた。
面倒なことになった。と頭を悩ませていると、通信魔道具の向こうからベリアを呼ぶ声が聞こえてくる。
私の苦悩をよそに、どうやら酒場では腕相撲大会とやらが開催されているらしい。
何とも酷い話である。
「すぐに行く!・・・という訳で、城内の情報は頼んだぞ」
小声でそう言うなり、ベリアは通信を切った。
「ち、ちょっと、愚痴の1つくらい聞いていきなさいよー!!!」
本当に、本当に災難な一日である。
今日に限った話ではないけれど。
頑張ったわ、私。
全ての洗濯物を干し終わった私がディアナ様に報告に行くと、ディアナ様はポカンとした顔をしていた。
「あなた、あれを全部洗ったって言うの?」
ええ、洗いましたとも。
散乱した服をかき集めて、何度も洗い場と部屋を往復した。
その甲斐あって、 部屋にはタオル一つ落ちてはいない。
「そ、そう。良くやったわね。もう今日は帰ってもらって結構よ」
「はい、失礼いたします」
終業時間まではあと一時間ほどあったが、ディアナ様がこう言っているのだからご厚意に与ろう。
にしても、疲れた。
聖女として穢れの浄化に奔走していた頃よりも大変だったのではないだろうか。
(もう、動きたくないーい)
だらりと机に伏した所で、右手にはめたルビーの指輪が目に入る。
定期的な情報交換の為、ベリアと別れる際に渡された通信魔道具である。
通信したい時はこのルビーの飾りを捻ればベリアの持つもう1つの指輪に繋がる、大変便利な代物だ。
(そう言えば、仕事終わりに連絡するって言っていたわね)
なんて考えていると指輪のルビー部分がタイミングよくチカチカと光る。通信の合図だ。
指輪を手に取り魔道具を起動させると、ブツブツとノイズの音が聞こえ、通信が繋がる。
「・・・ィ・・・リリィ、聞こえるか?」
「聞こえてるわ」
指輪から聞こえる声はどこかノイズ交じりだ。
そのノイズの混じった音からでも、べリアの周りが騒がしいのが分かる。
一体何処からかけているのかしら?
気になって聞いてみると、騎士団の歓迎会で城下町の酒場に来ているらしい。
飲み会が終わってからではいつ連絡が取れるか分からなかったから、飲み会の合間を縫って連絡をしていると言うベリアの声は随分と楽しげだ。
人が必死に働いていたと言うのに、この男は!
「ここに来た目的を忘れた訳じゃないでしょうね」
ベリアは魔物調査の最前線にいるのだから、情報の1つでも手に入れるべきだ。と自分の事を棚にあげて詰め寄る。
「心配するな。そっちの方も抜かりはない」
そっちとは何だ。他に目的などあったのかと言いたい所を抑え、訊ねる。
「何が分かったの?」
「帝都で出没した魔物たが、現れたのはほんの小さな魔物で、すぐに処理された為大した騒ぎにはならなかったらしい。
ただ、出没した魔物の生態を鑑みるに、魔族領から人間領にまで入って来れる確率はまず無い」
つまり、人間領で魔物が発生しているのは確定ってことね。
まあ、殆ど確定事項の様なものだったけれど。
となると、問題となってくるのはそれが自然発生しているのか、人為的なものであるか。という点。
正直、人為的なものであると非常に面倒くさいと思う。
政界のどろどろとした雰囲気に揉まれながら必死に内情を調査するのもそうであるし、
魔物を産み出すなんて事をわざわざしたがる+魔物産み出す技術がある人物が一般人なんかである筈もなく、確実に位の高い貴族か王族の類いである。
最悪、冤罪をかけられたまま終わる可能性だってあり得る。
自然的なものであってもそれをどう解決するのか?とか問題は山積みではあるのだが、少なくとも平和的に終われる可能性高い。
真犯人を突き出し、「ほら見なさい、冤罪だったでしょう?」と強く胸を張れないのは心残りではあるが・・・。
そんな私の気持ちを他所にベリアは話を続けた。
「それと、魔物の出没区域にも疑問点があってだな・・・。詳しく調べてはみるが、まあ、人為的なものと見たほうが良いだろう」
そう冷静に告げたベリアはある程度察していた様子だった。
私としては見たくない現実ではあったが、ある日を境に、いきなり魔物が発生し始めたのだ。
自然発生というよりも、人為的な可能性が・・・ちょっと、ほんのちょっとだけ高いということには気付いていた。
面倒なことになった。と頭を悩ませていると、通信魔道具の向こうからベリアを呼ぶ声が聞こえてくる。
私の苦悩をよそに、どうやら酒場では腕相撲大会とやらが開催されているらしい。
何とも酷い話である。
「すぐに行く!・・・という訳で、城内の情報は頼んだぞ」
小声でそう言うなり、ベリアは通信を切った。
「ち、ちょっと、愚痴の1つくらい聞いていきなさいよー!!!」
本当に、本当に災難な一日である。
今日に限った話ではないけれど。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。
魔物が跋扈する異世界で転生する。
頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。
《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。
※以前完結した作品を修正、加筆しております。
完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる