捨てられ聖女は魔王に拾われる

水中 沈

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第三王女②

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日が傾き、ようやく自室に戻れた私は、力なく椅子に座り込みながらため息を吐く。

頑張ったわ、私。

全ての洗濯物を干し終わった私がディアナ様に報告に行くと、ディアナ様はポカンとした顔をしていた。

「あなた、あれを全部洗ったって言うの?」

ええ、洗いましたとも。

散乱した服をかき集めて、何度も洗い場と部屋を往復した。
その甲斐あって、 部屋にはタオル一つ落ちてはいない。

「そ、そう。良くやったわね。もう今日は帰ってもらって結構よ」
「はい、失礼いたします」

終業時間まではあと一時間ほどあったが、ディアナ様がこう言っているのだからご厚意に与ろう。

にしても、疲れた。
聖女として穢れの浄化に奔走していた頃よりも大変だったのではないだろうか。

(もう、動きたくないーい)

だらりと机に伏した所で、右手にはめたルビーの指輪が目に入る。
定期的な情報交換の為、ベリアと別れる際に渡された通信魔道具である。

通信したい時はこのルビーの飾りを捻ればベリアの持つもう1つの指輪に繋がる、大変便利な代物だ。

(そう言えば、仕事終わりに連絡するって言っていたわね)

なんて考えていると指輪のルビー部分がタイミングよくチカチカと光る。通信の合図だ。

指輪を手に取り魔道具を起動させると、ブツブツとノイズの音が聞こえ、通信が繋がる。

「・・・ィ・・・リリィ、聞こえるか?」
「聞こえてるわ」

指輪から聞こえる声はどこかノイズ交じりだ。

そのノイズの混じった音からでも、べリアの周りが騒がしいのが分かる。

一体何処からかけているのかしら?

気になって聞いてみると、騎士団の歓迎会で城下町の酒場に来ているらしい。

飲み会が終わってからではいつ連絡が取れるか分からなかったから、飲み会の合間を縫って連絡をしていると言うベリアの声は随分と楽しげだ。

人が必死に働いていたと言うのに、この男は!

「ここに来た目的を忘れた訳じゃないでしょうね」

ベリアは魔物調査の最前線にいるのだから、情報の1つでも手に入れるべきだ。と自分の事を棚にあげて詰め寄る。

 「心配するな。そっちの方も抜かりはない」

そっちとは何だ。他に目的などあったのかと言いたい所を抑え、訊ねる。

「何が分かったの?」
「帝都で出没した魔物たが、現れたのはほんの小さな魔物で、すぐに処理された為大した騒ぎにはならなかったらしい。

ただ、出没した魔物の生態を鑑みるに、魔族領から人間領にまで入って来れる確率はまず無い」

つまり、人間領で魔物が発生しているのは確定ってことね。
まあ、殆ど確定事項の様なものだったけれど。

となると、問題となってくるのはそれが自然発生しているのか、人為的なものであるか。という点。

正直、人為的なものであると非常に面倒くさいと思う。

政界のどろどろとした雰囲気に揉まれながら必死に内情を調査するのもそうであるし、

魔物を産み出すなんて事をわざわざしたがる+魔物産み出す技術がある人物が一般人なんかである筈もなく、確実に位の高い貴族か王族の類いである。

最悪、冤罪をかけられたまま終わる可能性だってあり得る。

自然的なものであってもそれをどう解決するのか?とか問題は山積みではあるのだが、少なくとも平和的に終われる可能性高い。

真犯人を突き出し、「ほら見なさい、冤罪だったでしょう?」と強く胸を張れないのは心残りではあるが・・・。

そんな私の気持ちを他所にベリアは話を続けた。

「それと、魔物の出没区域にも疑問点があってだな・・・。詳しく調べてはみるが、まあ、人為的なものと見たほうが良いだろう」

そう冷静に告げたベリアはある程度察していた様子だった。

私としては見たくない現実ではあったが、ある日を境に、いきなり魔物が発生し始めたのだ。
自然発生というよりも、人為的な可能性が・・・ちょっと、ほんのちょっとだけ高いということには気付いていた。

面倒なことになった。と頭を悩ませていると、通信魔道具の向こうからベリアを呼ぶ声が聞こえてくる。

私の苦悩をよそに、どうやら酒場では腕相撲大会とやらが開催されているらしい。
何とも酷い話である。

「すぐに行く!・・・という訳で、城内の情報は頼んだぞ」

小声でそう言うなり、ベリアは通信を切った。

「ち、ちょっと、愚痴の1つくらい聞いていきなさいよー!!!」

本当に、本当に災難な一日である。
今日に限った話ではないけれど。




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