捨てられ聖女は魔王に拾われる

水中 沈

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第三王女①

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べリアと帝都の城前で別れた後、
これから私はこの王都で第三王女ディアナ・ミリネリア・アバレンシア様に使えることとなる。

現王の侍女へのお手つきで生まれたとされる、元平民の第三王女は、わがままで有名な王女で、気に食わない侍女をすぐにクビにしてしまうといういわく付きの物件だ。

誰も侍女になりたがらない。ハズレ王女。
だからこそ、私が侍女になれた訳なんだけれど・・・・。

実のところ、人間領に、協会にいた時は穢れの浄化で忙しかったため、王政事情にはあまり詳しくないのである。
第三王女の件もここに来て初めて知ったという体たらくだ。

「まずはは挨拶からよね」

侍女の宿舎に魔族領で用意してもらった服等の荷物を置き、王女へあいさつに向かった。




「私の言う事が聞けないというのね」

王女の部屋の前でノックをしようと手を伸ばした時だった。
扉の向こうから低い怒りの声が聞こえた。

(早速の修羅場!)

サッとドアから身を引く。扉の向こうからは離れていても聞こえる程の声が響いていた。
今は絶対に刺激してはいけないと本能が告げている。 

「辞めたいなら、辞めてもらって結構よ。二度とこないで頂戴!」
「こんな所!こっちから願い下げです!!」

バンと勢いよく扉が開き、中から侍女が出てきた。
先ほどドアから離れていなければ私に直撃だっただろう。

侍女は私を見るなり、フン!と鼻を鳴らして通り過ぎていく。
すれ違いざまに肩をぶつけられた。

(何があったか知らないけれど、人に当たるのはどうかと思うわ)

立ち去る侍女を見つめ、ぽかんとしていると、「あなた、私に何か用かしら」と声を掛けられる。
開いたドアの向こうでは、白銀の髪にバイオレットの瞳を持つ少女が仁王立ちをしていた。
件の第三王女ディアナ様である。

「は、初めまして。今日からディアナ様のお世話をさせていただくリリアナです」

もたもたと足を縺れさせながらディアナ様に挨拶をする。
ディアナ様は私の頭からつま先までをじろっと睨んでから「ああ、そう」と言った。

「じゃ、それお願いね」

そう言ってディアナ様が指を指したのは部屋に散らばった大量の洗濯物である。
こんもりと山になっているそれは一体何時からため込んでるのよ!と言いたいくらいだ。

「これを・・・私一人で?」
「そうよ」

思わず洗濯物の山を指差す。
ディアナ様は何か文句でも?と言いたげだ。

(新参者の洗礼!!)

陰湿だあ。なんて思えども、まだ一日目で値を上げる訳にはいかない。
どうにかしてディアナ様の信頼を勝ち取り、魔物大量発生の原因を探らなくては。
冤罪の汚名を返上するためよ!

グッと侍女服の裾を握りしめる。

「分かりました!」
「!」

洗濯物の横に置いてあった桶に洗濯物を少し詰める。
少し重量があるが、重たいなどと言っていられない。
よいしょー!と担いで私は洗い場へと向かった。
そんな私を、ディアナ様が驚いた顔で見ている事にも気が付かないまま・・・。



「全くもう!何でこんなに洗い物があるのよ!!」

洗濯板で洗い物を擦りながら愚痴る。
それにディアナ様もディアナ様だ。
ちょっとお使いに行ってきて位の軽さで言うのだから、腹が立つ。

洗い物の中には擦ってはいけない繊細な物からタオルまで色々なものが混じりあっていた。
それを一つづつ分けながら、丁寧に出来るだけ早く処理をしていく。
私も、聖女になる前は平民だったのだ。これくらいはお手の物である。
せっせと手を動かしていると、突然上から水が降って来た。

ばしゃーん

「あらごめんなさい?」

つい手が滑ってしまった。とでも言うように他の侍女から水をかけられる。
クスクスと周囲から笑い声が上がった。


「ほら、あの子が」
「あのハズレ王女の新しい・・・」

ひそひそと囁き声が聞こえる。

出たわね!王城名物「苛め」!!

淑女の怨念渦巻く王城では苛めなど日常茶飯事である。
男性の前では清廉な淑女の皮を被る彼女たちの闇は深い。

(負けてたまるもんですか!)

水をかけてきた侍女を睨むと、「まあ、怖い」と声が上がった。
どの口が言うのよ。
と心の中で呟いて洗濯を再開する。
魔法が使えたらちょっとくらい仕返しが出来たのに。

まだ暖かい季節で良かった。
そう思いながら服を洗い、洗ったものを干し、また洗い物をディアナ様の部屋に取りに行く。
繰り返すうちにお昼になっていた。

「あー、疲れた」

山の様になった洗濯物も半分程になっただろうか。
一旦作業を終わらせて食堂へと向かう。
そこでも私は戦うことになるのである。

食事として渡されたのは。薄いパンと具の殆ど入っていないスープ。

抗議の声を上げたら、「ハズレ王女の侍女ならそれで充分だろ」と食堂を追い出された。
豪華な食事を持って先ほど私に水を掛けた侍女が通り過ぎていく。

「ほんっと信じらんない」

仮にも王女の侍女なのである。
それなりのものを用意するべきではないのか。

食堂を追い出された私は庭園の隅にあるベンチに座り、イライラしながら食事とも言えない食事を呑み込んでいく。

すると、庭園の影になった場所で栗色の髪の侍女が手招きをしているのが目に入る。

「?」

小首をかしげながら近づくと、「手を出して」と言われる。
言われるがまま手を出すと、その上にクッキーの入った袋が置かれる。

驚いて侍女の方を見ると、彼女はしっと言いながら唇に手を当てた。

「私、アビゲイル。あなたと同じディアナ様の侍女よ」

これ、良かったら貰って。とクッキーをの袋を指差す。

「いいの?」
「勿論。ねえ、もし出来たらなんだけど、私の友達になってくれない?」

にこりと笑うアビゲイルがまるで女神のように見える。

「喜んで!」

喜びの余り立ち上がる。

「ありがとう。あら、もうこんな時間。私、もう行かなくちゃ」

ディアナ様に呼ばれているの。
と急いで王城の中へ走っていくアビゲイルを見送る。

貰ったクッキーを一口食べると、ホロホロと甘さが口に広がる。

「さー!もうひと頑張り!」

残りの洗い物を片付けるべく私は洗い場へと向かった。

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