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第三王女④
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ディアナ様の親衛隊というのは、不器用な所のある、ディアナ様に尽くし、ディアナ様の為に行動する事だとアビーは熱く語っていた。
確かにディアナ様は噂で言われているほどわがままな王女ではない気がする。
そりゃあ、いきなり大量の洗濯物を押し付けられた時には驚いたし、とんでもない人に使える事になったなとは思ったけれど、諦めずに数日続けてみると、噂と異なる部分も見えてきた。
ディアナ様はぶっきらぼうではあったが、文句を付けると言うことはほとんど無い。
して欲しいことを淡々と指示するだけだ。
指示の内容も、一般的な身の回りの世話のみで、わがままと言うほどの事でもない。
たまに赤くなった顔を隠すように視線を逸らしながら「褒めてあげても良くってよ」と、不器用ながらも褒めてくれる。
そんな彼女を可愛いらしいと思うし、使える事になった以上はお側で支えられたらと思う。
「一時的な侍女だけど・・・」
ディアナ様に使える事が嫌ではないのだけれど、私が侍女として働いているのは冤罪の罪を晴らす為である。
冤罪を晴らした後の事はよく考えていないが、聖女としての力が完全に消えたわけではない。きっとまたアリスの教育係として忙しい日々を送るのだろう。
アビーはここで初めて出来た友人だ。
裏切るような事はしたくない。
だけれど・・・。
「はぁ」
夕食のトレーを持ちながら、思わずため息をつく。
その時だった。
「どういうことかしら」
鋭い声に視線をあげると、ディアナ様が仁王立ちをしていた。
何が粗相をしてしまった?
必死に記憶を手繰り寄せてみるが心当たりはない。
だが、仮にも主君を怒らせてしまったのだ、きっと何か粗相があったのだろう。
謝罪をしようと頭を下げたとき、ディアナ様は私が持っていたトレー(今夜の食事を)指差した。
「私の侍女がこんな粗末な食事をしているだなんて!」
あなた、これでいいと思っているの。とトレーの上に乗った薄いパンとスープを指差す。
良いわけがない。しかし、これしか出して貰えないのだから仕方がないのである。
「行くわよ」
「何処へですか?」
「食堂に決まってるじゃない!」
そう言うなり、ディアナ様は食堂へ乗り込み、私の侍女にこんな食事を出すなんて!と料理長に詰め寄った。
お飾りのハズレ王女とは言え、ディアナ様は王女である。
「申し訳ございません。すぐに作り直してきます」
と料理長はすぐに厨房へと向かい、しばらくして新しい食事を持って来た。
トレーの上には今私が持っているものと違ってまともな食事が乗っている。
それを見た他の侍女たちが「見てハズレ王女が料理長に難癖をつけているわ」「またわがままを言っているのね」とこそこそ話し始める。
貴方達も私と同じものを食べてみなさいよ!と言いたかったが、ディアナ様の手前、口をつぐんだ。
代わりにキッと睨み付けてやると、彼女達は自分の食事を持ってそそくさと解散していく。
「ありがとうございます」
「あ、貴方の為じゃなくってよ!私の侍女がこんな扱いをされていたら私の品位に関わるからよ!」
ディアナ様はあくまでも自分のためだと言い張りたいらしい。
「でも、良いんですか?私は、一介の侍女ですよ?」
しかも、数日前に入ったばかりの侍女だ。
私としてはあの残飯のような食事がまともになって願ったりかなったりではあるが、わざわざディアナ様が声をあげる利点はない。
それどころかディアナ様の良くない噂が更に広がるだろう。
だというのに、ディアナ様は全く気にするようすもなく白銀の髪をかき上げながら言った。
「良いのよ。だってわたくしはわがままなんだから
貴方もよく知っているでしょう?」
ふふん。と笑みをこぼす姿は気品と自信に溢れていた。
王女なんだから、わがままで当然でしょう?と。
でも、私にはディアナ様が少し寂しそうな顔をしているように見えた。
気のせいなのかもしれない。でも・・・
「・・・わたしは、ディアナ様がわがままとは思いません」
「お世辞を言う必要はなくってよ」
「お世辞じゃありません。
ディアナ様は無理なお願いをしたことはありませんし、上手く出来なくても怒ったりしません。
それに、よく褒めてくださいます。ディアナ様はわがままなんかじゃありません」
まっすぐディアナ様の目を見て言う。
私の言葉にディアナ様は目を白黒させて、「でも、皆がそう言うわ」と溢す。
「それは、皆がディアナ様の事を誤解してるからですよ」
本当はこんなにもお優しい方なのに。
どうして皆本当のディアナ様を見ようとしないのか不思議でならない。
「貴方、変わってるのね」
「よく言われます」
口煩いと変わり者とはよく言われたものだ。
だけど、私はそれを悪いことだと思ったことは一度もない。
「・・・てよ」
「?すみません、よく聞こえなくて」
「ディーと呼んでも良くってよ!」
まるで、林檎のように真っ赤な顔でディアナ様が言う。
王族を愛称で呼べるのは、同じ王族かよっぽど親しい相手であるかのどちらかである。
それゆえ、愛称を許されるのは大変光栄な事で。優れた侍女だという証しにもなる。
「良いんですか?」
「嫌なら良いわよ」
「いえ、嬉しいです!」
思わずトレーを揺らしてしまい、スープが少しこぼれてしまう。
それを見たディアナ様の目がキッと吊り上がる。
「私の努力を無駄にして!」
「わー!すみません!」
冷めない内に早く食べなさい。とディアナ様に怒られ、私は自室へと向かった。
確かにディアナ様は噂で言われているほどわがままな王女ではない気がする。
そりゃあ、いきなり大量の洗濯物を押し付けられた時には驚いたし、とんでもない人に使える事になったなとは思ったけれど、諦めずに数日続けてみると、噂と異なる部分も見えてきた。
ディアナ様はぶっきらぼうではあったが、文句を付けると言うことはほとんど無い。
して欲しいことを淡々と指示するだけだ。
指示の内容も、一般的な身の回りの世話のみで、わがままと言うほどの事でもない。
たまに赤くなった顔を隠すように視線を逸らしながら「褒めてあげても良くってよ」と、不器用ながらも褒めてくれる。
そんな彼女を可愛いらしいと思うし、使える事になった以上はお側で支えられたらと思う。
「一時的な侍女だけど・・・」
ディアナ様に使える事が嫌ではないのだけれど、私が侍女として働いているのは冤罪の罪を晴らす為である。
冤罪を晴らした後の事はよく考えていないが、聖女としての力が完全に消えたわけではない。きっとまたアリスの教育係として忙しい日々を送るのだろう。
アビーはここで初めて出来た友人だ。
裏切るような事はしたくない。
だけれど・・・。
「はぁ」
夕食のトレーを持ちながら、思わずため息をつく。
その時だった。
「どういうことかしら」
鋭い声に視線をあげると、ディアナ様が仁王立ちをしていた。
何が粗相をしてしまった?
必死に記憶を手繰り寄せてみるが心当たりはない。
だが、仮にも主君を怒らせてしまったのだ、きっと何か粗相があったのだろう。
謝罪をしようと頭を下げたとき、ディアナ様は私が持っていたトレー(今夜の食事を)指差した。
「私の侍女がこんな粗末な食事をしているだなんて!」
あなた、これでいいと思っているの。とトレーの上に乗った薄いパンとスープを指差す。
良いわけがない。しかし、これしか出して貰えないのだから仕方がないのである。
「行くわよ」
「何処へですか?」
「食堂に決まってるじゃない!」
そう言うなり、ディアナ様は食堂へ乗り込み、私の侍女にこんな食事を出すなんて!と料理長に詰め寄った。
お飾りのハズレ王女とは言え、ディアナ様は王女である。
「申し訳ございません。すぐに作り直してきます」
と料理長はすぐに厨房へと向かい、しばらくして新しい食事を持って来た。
トレーの上には今私が持っているものと違ってまともな食事が乗っている。
それを見た他の侍女たちが「見てハズレ王女が料理長に難癖をつけているわ」「またわがままを言っているのね」とこそこそ話し始める。
貴方達も私と同じものを食べてみなさいよ!と言いたかったが、ディアナ様の手前、口をつぐんだ。
代わりにキッと睨み付けてやると、彼女達は自分の食事を持ってそそくさと解散していく。
「ありがとうございます」
「あ、貴方の為じゃなくってよ!私の侍女がこんな扱いをされていたら私の品位に関わるからよ!」
ディアナ様はあくまでも自分のためだと言い張りたいらしい。
「でも、良いんですか?私は、一介の侍女ですよ?」
しかも、数日前に入ったばかりの侍女だ。
私としてはあの残飯のような食事がまともになって願ったりかなったりではあるが、わざわざディアナ様が声をあげる利点はない。
それどころかディアナ様の良くない噂が更に広がるだろう。
だというのに、ディアナ様は全く気にするようすもなく白銀の髪をかき上げながら言った。
「良いのよ。だってわたくしはわがままなんだから
貴方もよく知っているでしょう?」
ふふん。と笑みをこぼす姿は気品と自信に溢れていた。
王女なんだから、わがままで当然でしょう?と。
でも、私にはディアナ様が少し寂しそうな顔をしているように見えた。
気のせいなのかもしれない。でも・・・
「・・・わたしは、ディアナ様がわがままとは思いません」
「お世辞を言う必要はなくってよ」
「お世辞じゃありません。
ディアナ様は無理なお願いをしたことはありませんし、上手く出来なくても怒ったりしません。
それに、よく褒めてくださいます。ディアナ様はわがままなんかじゃありません」
まっすぐディアナ様の目を見て言う。
私の言葉にディアナ様は目を白黒させて、「でも、皆がそう言うわ」と溢す。
「それは、皆がディアナ様の事を誤解してるからですよ」
本当はこんなにもお優しい方なのに。
どうして皆本当のディアナ様を見ようとしないのか不思議でならない。
「貴方、変わってるのね」
「よく言われます」
口煩いと変わり者とはよく言われたものだ。
だけど、私はそれを悪いことだと思ったことは一度もない。
「・・・てよ」
「?すみません、よく聞こえなくて」
「ディーと呼んでも良くってよ!」
まるで、林檎のように真っ赤な顔でディアナ様が言う。
王族を愛称で呼べるのは、同じ王族かよっぽど親しい相手であるかのどちらかである。
それゆえ、愛称を許されるのは大変光栄な事で。優れた侍女だという証しにもなる。
「良いんですか?」
「嫌なら良いわよ」
「いえ、嬉しいです!」
思わずトレーを揺らしてしまい、スープが少しこぼれてしまう。
それを見たディアナ様の目がキッと吊り上がる。
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