捨てられ聖女は魔王に拾われる

水中 沈

文字の大きさ
上 下
16 / 16

お買い物①

しおりを挟む
翌日、約束通り私はべリアと城下街へ散策に来ていた。

流石帝都と言うべきか、ありとあらゆる店が立ち並び、そこかしこから客呼びの声が聞こえる。
勝手知った道とは言え、沢山の人が行き交う様子はべリアの言う通り、迷子になりそうだ。

魔族領で頂いた緑のワンピースを着た私に対して、ベリアは支給されている青い騎士服を着ている。
非番なのに私服で来なかったのか?と尋ねると、こっちの方が動きやすいからと笑っていた。

「良い朝だな。リリィ」
「そうね。もう少し距離を開けてくれないかしら」
「相変わらず連れないなぁ」

つまらなさそうにべリアがそっと距離を取る。

だってこの男、さっきから無駄に近いし、さっきからずっと目立っているんだもの。

顔が良いとどんな服でも似合ってしまうのか、騎士服を来たベリアに道行く人の視線が集まっている。

 確かに似合っているけれども!

日用品を買いに来たのに視線が気になってどうにも落ち着かない。
 等の本人は周囲からの視線に気付いていないのか、それとも気にしていないのか、街の賑わいを興味深そうに眺めている 。

「さぁ、何処に行くんだリリィ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」

城下町の地理など知りもしない癖に、ベリアは私の手を引っ張り先へと進んでいく。

思わず私がたたらを踏んだ所でようやく立ち止まり「すまん。はしゃぎすぎた」とばつの悪そうな表情を浮かべた。

「次やったら置いていくから」

と言うと、捨てられる寸前の子犬のような表情を浮かべた。

まるで、私が悪者みたいじゃない。

気にすること無く足を進め、洋服屋に入る。

王城では衣食住の食と住は保証されている。
食は最近までまともじゃなかったけれど・・・。
侍女服は支給されているものの、私服は追放された時来ていた服と魔族領で用意して貰ったこのワンピースのみだった。
僅かながらお給金も入ったし、そろそろ新しい服が欲しい。

「いらっしゃいませーどの様な服をお探しですか?」

店内に入るなり早速女性の店員が声をかけてくる。
私ではなく、ベリアに。

ほんのりと頬を染めている所申し訳ないが、ここで売っているのは女性物の服である。
ベリアを押し退け店員に、「動きやすい服で出来ればワンピースが欲しいんですが」と話しかける。

「少々お待ち下さい」

そう言ってしばらくの後店員が数着の服を持ってくる。

「こちらは動きやすさと洗いやすさを重視した最近の流行りのワンピースになります。御試着なさいますか?」
「はい・・・ちょっとこれ持ってて」

鞄をベリアに預け試着室へと向かう。
一応ベリアに念を押しておこう。この男何をしでかすか分からないし。

「開けたら殺すわよ」
「流石の俺でもそれはしないぞ」

俺をなんだと思ってるんだ。とベリアは肩をすくめた。

それから数着の服を試着したのだけれど、一着は白に花柄のワンピースに決めた。
そして、二着目をレースとフリルの入った黒のワンピースと青のリボンが付いたワンピースとで悩んでいた。

どちらも捨てがたいが、予算的には二着しか買えない。

「ねぇ、どっちがいいと思う?」

交互にワンピースを宛がいながらベリアに訊ねるも、彼はしばらく悩んだ後に「どっちも似合ってる」と言った。

「どちらも買えば良いだろう?俺が買ってやる」
「駄目よ!」

ベリアだって私服を買った方が良いだろうし、彼にとっては人間領での初めての買い物なのだ。
まずは彼の買いたいものを買うべきである。

悩んだ末に、黒のワンピースを買うことにした。
お会計をして店を出る。

「ありがとうございましたー」

にこやかに手を振る店員だが、視線はベリアだ。
ベリアもベリアで、機嫌良く店員に手を振っている。

全くこの男は!
その思わせ振りな態度が後々どれだけ面倒なことになるのか分かっていないのだ。

「次は貴方の服よ!」

店員に手を振るべリアを引きづるようにして次の店へと向かう。
この男の事だ、本当に必要最低限の服しかもっていないのだろう。

「別にこれで十分だろう?」
「良いから!」

私の想像通り、王城で支給される服で十分だと言い張るベリアを引き摺り礼服を販売している店へと向かう。
礼服なんて持っていないのだろう。

一介の騎士とは言え何があるか分からない。
礼服の1つは持っておかないと。 

「全くリリィは強引だな。人形にでもなった気分だ」

ぶつくさ文句を言うベリアを試着室に押し込む。

何着か来て貰ったが、顔が良いだけにどれも似合ってしまう。

「うーん」

悩みに悩んだ末、白い礼服を買うことにした。
白ならば式典やパーティのどちらでも着ることが出来るだろう。
金髪碧眼の現在の彼に白の礼服は良く似合っていた。

買い込んだ服を全てベリアに持たせ、お店を出たのが丁度お昼前。
ランチタイムになると、この辺りの食事処はどこも混みあうだろうという事で、少し早いけれどもお昼にしようと沢山の食べ物屋さんが連なる通りへと向かった。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...