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第三王女③
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「もう!なんでこんなに忙しいのかしら!」
今日も今日とて、掃除に洗濯、ディアナ様のお使いと、大忙しだった。
ディアナ様に使える事になってから、数日。私は気づいたことがある。
ディアナ様の周りは圧倒的に人手不足なのである。
基本的に王女の侍女ともなると5人は侍らせているのが普通である。
それなのに。この間の侍女が辞めたことにより、ディアナ様の侍女は現在私とアビゲイル(アビー)だけとの事。冗談も休み休み言って頂きたい所である。
初日のあの日、山の様に洗濯物が溜まっていたのも頷ける忙しさだ。
新しい侍女の募集をかけているが、間に合っていないようで、
「早く新しい侍女を入れてください!それが無理なら他の部署から侍女を派遣してください!」
とアビーと一緒に侍女長に頼みに行ったりもしたのだけれど、
「あー、うん。考えておきますね」
と色よい返事は得られなかった。
挙句の果てには「ハズレ王女の侍女になりたがるなんて、貴方とアビーぐらいのものよ」とまで言われた。
私はともかくとして、アビーに失礼だ。
(アビーは真面目で優しい子なんだから!)
私より1つ年下のアビーだが、侍女としては先輩である。
敬語を使うべきなのだろうが、アビーは、
「アビゲイルさんだなんて堅苦しい呼び方はしないで。敬語もいらないし、気軽にアビーと呼んで欲しいわ。」
と私の手を取り天使の様に微笑んだ。
「ディアナ様の侍女は大変だけれど、一緒に頑張りましょ」
「ありがとう、アビー」
なんて優しいんだろう。まるで天使だ。
協会では冤罪で追放され、王城では女社会のギスギスとした関係に悩まされる私にとって、アビーは唯一の癒しで、
二日目には、午後3時のお茶休憩の際に、私が練習でいれたお茶とアビーが持ってきてくれた簡単なおやつを摘まむのがルーチンとなっていた。
ベリアが全く聞いてくれなかった愚痴も「分かるわ」「大変よね」と真剣に聞いてくれる。
それに、食堂の質素・・・というよりも残り物のようなご飯では全然足りない私にとって、このお茶休憩は貴重な食事の1つである。
今日のおやつはアップルパイ。
たまには贅沢しないとね。とアビーが言うので、遠慮無くいただいている。
「ねぇ、リリィはどうしてディアナ様の侍女になろうって思ったの?」
「んぐっ」
一番突かれたくない所を突かれて思わずアップルパイを喉に詰まらせる。
どうして侍女になったか?
魔物大量発生事件の調査のためですよーなんて絶対に言えない。
そんな事を言おうものなら忽ちアビーの私に対する信頼が瓦礫の様に崩れてしまう。
かといって、ベリアの様に適当な理由を並べられるほど私は賢くなかった。
その結果、妙な沈黙が訪れる。
「えーっと、家計のため・・・かな?アビーは?」
何とか言葉を捻り出す。
ああ、我ながらそれらしい言い訳が出来て良かった。
すかさずアビーにも話を振ると、アビーはティーカップを置き真剣な顔で言った。
「ディアナ様のためよ」
「ディアナ様のため・・・?」
それは一体どういうことなの?と聞き返す前にアビーは話を続ける。
「私とディアナ様は幼馴染みなの。
ある日、急に王城に召し抱えられることになったって言われて、びっくりしたわ
でも、あの子・・・ディアナ様はとっても不器用な性格なのよ。
勘違いされるような態度ばかり取るから、わがまま王女なんてレッテルを付けられて・・・」
アビーが言うには、ディアナ様はツンデレ属性との事。
なるほど確かに、ディアナ様は私が掃除なり、洗濯をした後、その確認の為に私のもとを訪ねる度に「褒めてあげても良くってよ」と言っていた。
あれは彼女的には褒めているつもりらしい。
「本当はこのアップルパイだってディアナ様が用意したものなの」
「へ?」
思わずアップルパイを食べる手が止まる。
デ、ディアナ様が用意した!?
どうしよう!何の遠慮もせずにたべてしまったわ!
よくよく話を聞いてみると、お茶休憩の際に出てくるお菓子はすべてディアナ様が用意してくれていたとの事。
自分より目上の方から物をいただいた時は、それはもう、丁寧にお礼を述べた上でいただき、お返しをするのが一般的なマナーである。
知らなかったとはいえ、お礼も言わずに食べることはかなりの失礼にあたる。
アップルパイの味も分からなくなった私はディアナ様に謝罪するべく急いで立ち上がった。
「待ってリリィ!ディアナ様から秘密にしておいて欲しいって言われてるの」
お礼なんて言ったら私が怒られてしまうわ。
というアビーの言葉で渋々私は椅子に座り直した。
落ち着くために自分で入れた、少々苦みの出てしまっているお茶を飲み干す。
ディアナ様に出すにはまだまだ練習が必要だろう。
ティーカップを置いた私の手を取り、アビーが栗色の目を潤ませながらお願いがあるの。と言った。
他でもないアビーの願いである。無下には出来そうに無い。
「リリィはもう気付いていると思うけれど、ディアナ様の立場は余り良く無いわ。
侍女だって平民生まれのハズレ王女には使えたくないって皆辞めてしまって。
だからリリィあなたが来てくれてとても嬉しいの。
お金の為でも構わないわ。
私と一緒にディアナ様の親衛隊になって欲しいの!」
「ふあい!?」
し、親衛隊とは?
私の驚きの声を肯定と取ったアビーが「ありがとう!嬉しいわ」と握った手に力を入れる。
今のは違うんです。とは言えず、結局私はディアナ様の親衛隊になる事になってしまった。
今日も今日とて、掃除に洗濯、ディアナ様のお使いと、大忙しだった。
ディアナ様に使える事になってから、数日。私は気づいたことがある。
ディアナ様の周りは圧倒的に人手不足なのである。
基本的に王女の侍女ともなると5人は侍らせているのが普通である。
それなのに。この間の侍女が辞めたことにより、ディアナ様の侍女は現在私とアビゲイル(アビー)だけとの事。冗談も休み休み言って頂きたい所である。
初日のあの日、山の様に洗濯物が溜まっていたのも頷ける忙しさだ。
新しい侍女の募集をかけているが、間に合っていないようで、
「早く新しい侍女を入れてください!それが無理なら他の部署から侍女を派遣してください!」
とアビーと一緒に侍女長に頼みに行ったりもしたのだけれど、
「あー、うん。考えておきますね」
と色よい返事は得られなかった。
挙句の果てには「ハズレ王女の侍女になりたがるなんて、貴方とアビーぐらいのものよ」とまで言われた。
私はともかくとして、アビーに失礼だ。
(アビーは真面目で優しい子なんだから!)
私より1つ年下のアビーだが、侍女としては先輩である。
敬語を使うべきなのだろうが、アビーは、
「アビゲイルさんだなんて堅苦しい呼び方はしないで。敬語もいらないし、気軽にアビーと呼んで欲しいわ。」
と私の手を取り天使の様に微笑んだ。
「ディアナ様の侍女は大変だけれど、一緒に頑張りましょ」
「ありがとう、アビー」
なんて優しいんだろう。まるで天使だ。
協会では冤罪で追放され、王城では女社会のギスギスとした関係に悩まされる私にとって、アビーは唯一の癒しで、
二日目には、午後3時のお茶休憩の際に、私が練習でいれたお茶とアビーが持ってきてくれた簡単なおやつを摘まむのがルーチンとなっていた。
ベリアが全く聞いてくれなかった愚痴も「分かるわ」「大変よね」と真剣に聞いてくれる。
それに、食堂の質素・・・というよりも残り物のようなご飯では全然足りない私にとって、このお茶休憩は貴重な食事の1つである。
今日のおやつはアップルパイ。
たまには贅沢しないとね。とアビーが言うので、遠慮無くいただいている。
「ねぇ、リリィはどうしてディアナ様の侍女になろうって思ったの?」
「んぐっ」
一番突かれたくない所を突かれて思わずアップルパイを喉に詰まらせる。
どうして侍女になったか?
魔物大量発生事件の調査のためですよーなんて絶対に言えない。
そんな事を言おうものなら忽ちアビーの私に対する信頼が瓦礫の様に崩れてしまう。
かといって、ベリアの様に適当な理由を並べられるほど私は賢くなかった。
その結果、妙な沈黙が訪れる。
「えーっと、家計のため・・・かな?アビーは?」
何とか言葉を捻り出す。
ああ、我ながらそれらしい言い訳が出来て良かった。
すかさずアビーにも話を振ると、アビーはティーカップを置き真剣な顔で言った。
「ディアナ様のためよ」
「ディアナ様のため・・・?」
それは一体どういうことなの?と聞き返す前にアビーは話を続ける。
「私とディアナ様は幼馴染みなの。
ある日、急に王城に召し抱えられることになったって言われて、びっくりしたわ
でも、あの子・・・ディアナ様はとっても不器用な性格なのよ。
勘違いされるような態度ばかり取るから、わがまま王女なんてレッテルを付けられて・・・」
アビーが言うには、ディアナ様はツンデレ属性との事。
なるほど確かに、ディアナ様は私が掃除なり、洗濯をした後、その確認の為に私のもとを訪ねる度に「褒めてあげても良くってよ」と言っていた。
あれは彼女的には褒めているつもりらしい。
「本当はこのアップルパイだってディアナ様が用意したものなの」
「へ?」
思わずアップルパイを食べる手が止まる。
デ、ディアナ様が用意した!?
どうしよう!何の遠慮もせずにたべてしまったわ!
よくよく話を聞いてみると、お茶休憩の際に出てくるお菓子はすべてディアナ様が用意してくれていたとの事。
自分より目上の方から物をいただいた時は、それはもう、丁寧にお礼を述べた上でいただき、お返しをするのが一般的なマナーである。
知らなかったとはいえ、お礼も言わずに食べることはかなりの失礼にあたる。
アップルパイの味も分からなくなった私はディアナ様に謝罪するべく急いで立ち上がった。
「待ってリリィ!ディアナ様から秘密にしておいて欲しいって言われてるの」
お礼なんて言ったら私が怒られてしまうわ。
というアビーの言葉で渋々私は椅子に座り直した。
落ち着くために自分で入れた、少々苦みの出てしまっているお茶を飲み干す。
ディアナ様に出すにはまだまだ練習が必要だろう。
ティーカップを置いた私の手を取り、アビーが栗色の目を潤ませながらお願いがあるの。と言った。
他でもないアビーの願いである。無下には出来そうに無い。
「リリィはもう気付いていると思うけれど、ディアナ様の立場は余り良く無いわ。
侍女だって平民生まれのハズレ王女には使えたくないって皆辞めてしまって。
だからリリィあなたが来てくれてとても嬉しいの。
お金の為でも構わないわ。
私と一緒にディアナ様の親衛隊になって欲しいの!」
「ふあい!?」
し、親衛隊とは?
私の驚きの声を肯定と取ったアビーが「ありがとう!嬉しいわ」と握った手に力を入れる。
今のは違うんです。とは言えず、結局私はディアナ様の親衛隊になる事になってしまった。
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