捨てられ聖女は魔王に拾われる

水中 沈

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魔族領①

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数時間ほどワイバーンに乗って、やっと第5地区へとたどり着いた。
第5地区に近づくにつれて大きな白亜の城が自然と目に入って来る。

(でかいわね)

遠くからでもかなりの存在感がある。

「ここが魔王城・・・帝都の城にも劣らない広さだわ・・・」

魔王城では他にもワイバーンを飼っているらしく、私たちは城前の一角にあるというワイバーンの駐屯所に降り立った。
それなりの広さがある駐屯所には他にも5体ほどのワイバーンが体を休ませている。
時刻が遅いからか他の魔族の姿は無い。

魔王が乗って来たワイバーンを休ませている間、私は周囲を興味深く眺める。
先ほどまで見ていた城下の家とは違ってこの城はしっかりとした造りだった。いや、頑丈すぎる造りと言っても良いかもしれない。

遠くから話し声が聞こえる。
駐屯所の向こう側では沢山の魔族が行き交っているのだろう。
帝都と謙遜無い騒がしさだ。

「あまりキョロキョロするな。田舎感丸出しだぞ」
「仕方がないじゃない、初めて見るんだもの!」
 
ワイバーンを厩舎に入れ、帰って来た魔王が呆れたような顔をしている。
魔王の言っていることは一理あるのだろうけれど、魔族領への興味で私の頭はいっぱいだ。

聞きたいことや見たいもの。知りたいことが多すぎる。

魔族は魔物を操っていると言われていたけれど、実際に魔族領に来てみるとと少し違う印象を感じた。
ワイバーンから見た小さな光景だったけれど、重いものを引かせたり、農作業の手伝いだったり。まるで生活の一部のように魔物がいた。

もしかすると、私たちは魔族を誤解しているのかもしれない。
そんな気持ちと共にもっと魔族領を知りたいと思う気持ちが湧き上がってくる。

呆れ顔の魔王と共に駐屯所の大きな門を抜けると城前の広場に繋がっていた。
期待通り、広場では沢山の魔族がせかせかと歩を進めている。

「魔族が沢山いるわ」

あの人猫みたいな耳が生えているわ!あの人には角が!!

人間領では見た事の無い光景に私は目を輝かせた。
確かにちょっと怖い見た目の魔族もいるが、可愛らしい見た目の魔族もいる。

魔王に注意されたし、出来るだけ視線が彷徨わないように気を付けつつ魔族を観察する。
そんな私を相変わらず呆れた顔で魔王は見ていた。

「魔族領だからな。一応先に注意して置くが、気をつけろよ。
基本的に魔族は人間に対して寛容だが、皆が皆そういう訳じゃない。それに、あまりの珍しさに連れて帰りたがる奴もいるだろうからな」

離れるなよ。そう言いながら魔王は手を差し出してくる。

「子供じゃないんだから、手なんか繋がなくても大丈夫よ」

子供みたいに手を繋いで歩くだなんてしたくない。
ツンと顔をそらすと、やれやれとため息を吐いた魔王が突然膝を付く。

「お手どうぞ、お姫様」
「うぐぅ!」

くそぅ、顔が良い。

まるでダンスでも誘うかのようなその様子に思わず手を差し出してしまう。
良いようにあしらわれた気しかしないが、それもこれも魔王の顔が良いのが悪い。

そう言い訳しながら魔王の手に自分の手を乗せると、魔王はその手をそっと握った。

・・・いや待って!!これってちょっと恋人同士に見えなくもない!?
握ってから私はそのことに気が付いた。
握らなきゃよかった。そう思っていると魔王が私の手をぐいと引っ張る。

「ほら、行くぞ」
「ひ、ひゃい」

思わず噛んでしまいながら広場を通り抜けて城へと向かう。
城まではここから2つの大きな門を抜けた先にあるという。ちょっと遠い。

広場を抜けるまで魔族行き交う魔族の波に足を取られそうになる度に魔王が私の手を引いてくれる。
手を繋いでいて良かったかもしれない。

二つ目の門を抜けると、人はまばらになり、これまた無駄に広い庭園が見えてくる。

「もう、いいんじゃないですかね」

繋がれた手を指さして言う。

「ああ、そうだな」

ようやく解放された手に安堵のため息を吐くと見た事の無い花が目に入った。
しげしげと見つめていると、「まだ子守が必要か?」と魔王が呆れたように言う。

「ちょ、ちょっと気になっただけじゃない」
「世話の焼ける聖女だ」
「悪かったわね」

庭園を抜け、正門前へやってくると、牛の様な角と耳が生え、分厚い黒縁眼鏡をかけた深緑色の髪の魔族が魔王に声を掛けた。

「お早いお戻りですね」
「ちょっと色々あってな。緊急会議を開くから、皆を呼んでくれ」
「かしこまりました。第一会議室に集まるよう声を掛けて来ます」 
 
そう言うなり、彼は正門の向こうへ消えていった。
魔王が私の方へ振り返る。
 
「帰って早々で悪いが、もう少し付き合ってくれ。他の魔族にもお前の事を説明しないといけないしな」
「分かったわ」

正直今日一日で色々ありすぎて一刻も早く休みたい気持ちはあったけれど、今後の話し合いは大切だ。
魔王以外の魔族が私をどう捉えるのか心配しつつも、私たちは会議室へと向かった。


 
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