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追放⑤(※魔王視点)
しおりを挟むここ数年で人間領に魔物が増えた。
最初は単純に魔族領から人間領に入り込む魔物が増えただけだと思っていたが、調べていく内に違和感に気付く。
魔族領と人間領は寸断されていると思われているが、実のところそれは誤りであり、人知れず繋がっている場所がある。基本的にはそこから侵入するパターンと、崖や川を越えて侵入するパターンと2通りだ。
崖や川からの侵入数はそれほど多くは無い。おそらく、繋がっている部分の魔物が増えたのか、あるいは新しく繋がった場所が増えたのか。
調べてみた末、確かに、新しく繋がった場所はあれども、人間領に入り込む魔物がここまで一気に増える事は無いだろうとの結論に至った。
となると、考えられるとするならば「人間領で魔物が発生している」可能性がある。
自慢ではないが、自分は博愛主義である。
全ての生き物は尊ばれる物だと思っているし、その中には魔物も例外なく含まれる。
お互いの領分を犯すとなれば話は別だが。
魔族領から人間領に侵入してしまう魔物は、不可抗力とはいえ、魔族にも責任の一端があるのかもしれない。と勝手ながら責任を感じていた。
だから、ちょくちょく人間領を訪れ、魔物退治に一躍買っていたという訳なのだが・・・。
ワイバーンに乗って人間領に侵入する魔物の処理、調査に向かっていると、何やら人間領側の崖が騒がしい。
近づいてみると、見覚えのある少女が両脇を抱えられて崖の方へと引きずられている。
まさかとは思うが、人間どもは遂に生贄にまで手を出し始めたのか?
飢饉や災害時に人間はよく生贄としてこの崖に人を落とす。
何の意味も無いのに、だ。
「全く、業の深い連中だ」
何度も言うが、魔王べリアは博愛主義である。
生贄に走る人間に対して愚かだとは思えども、嫌悪する事は無い。
生贄にされる少女に対しても可哀想だから助けてやるのは当然の事であった。
落ちるタイミングに合わせて少女の下にワイバーンを操作して、落ちてきた少女を受け止めてやった。
だというのに・・・。
「なんで魔王がこんな所にいるのよ!」
ぱあんと飛んできた平手打ちを寸での所で躱す。
助けてやったのにとんでも無い奴だと思った。
何度か魔物退治の際に出くわし、初対面でもないのにいきなり平手打ちは無いと思う。
「魔王だ!」
少女がぎゃあぎゃあと騒いでいる内に崖に居る人間たちが騒ぎ始める。
(やれやれ、これでは調査どころじゃないな)
「・・・・面倒だな。一度魔族領に戻るか。聖女、お前も来い」
これ以上ここにいるのは具合が悪い。
そう判断して一旦魔族領に戻るためにワイバーンを上昇させる。
耳元で大きな悲鳴が上がるが、状況が状況なだけに構っている暇は無かった。
森に着いてからも、少女は喧しかった。
ワイバーンで城へ向かう時もその口は閉じることを知らない
興味深そうに魔族領を眺めては感嘆の声を漏らしている。
人間の間で魔族領がどういうものとして伝わっているのかは知らないが、ただの一般的な街の風景だ。
特に驚くようなことも無いだろうにと、思わず、「随分とかしましい聖女だな」と呟くと「こういう性分なんだから、仕方ないでしょ!」と怒鳴り声が帰って来る。
その後、よくよく話を聞いてみると、どうやら生贄ではなく、魔物大量発生の主犯格として追放されたらしい。
なんとまあ、面倒なことに巻き込まれたものだ。
ほろりと涙を零す姿を見て慰めの言葉をかけてやろうとしたのもつかの間、今度は魔物大量発生の真相を暴いてやると息巻いている。
全く、元気な聖女である。
とは言え、人間の協力者が手に入ったのは運が良かったとも言えるだろう。
人間。しかも聖女ともなれば人間領の内情には詳しいはずだ。
(これで調査が大幅に進むと良いんだが)
人間領における魔物大量発生の問題は深刻だ。
現在、それほど目立った被害は確認されていないものの、これから被害は拡大していくだろう。
魔王として原因の追究は急ぐべきだ。
その原因が人間領にあるのだとしても。
聖女は火が付いたのか、次々と日ごろの鬱屈とした出来事を愚痴り散らかしている。
適当に相槌を打ってやりながら城へと向かう。
この喧しく驚くほど前向きな聖女がこの事件に目ざましい功績を残してくれる事を期待しながら・・・。
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