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追放②
しおりを挟む「忙しいのに、何の用?」
サインの手を止めドアを開けると、神殿兵が3人ほどなだれ込むように入って来る。
「聖女リリアナ!貴殿を裁判にかける!」
と、そう言うなり、弁論の余地もなく縄でぐるぐる巻きに拘束され、教会内にある裁判所に連行される。
裁判所の無駄に重苦しい扉を開けると、沢山の人が円を描くように並んでいた。
その中心にアリスと最高神官がいる。
アリスと最高神官が並んでいるなんて、神託でも降りたのかしら?と首をかしげていると神殿兵が私の腕を引っ張り壇上へと無理やり上がらせた。
「ちょっと!何するのよ!」
「神託が下りた!神はリリアナを追放せよとのお達しだ!」
(追放ってどういうことよ!!!)
抗議の声をあげると最高神官の隣にいるアリスがしくしくと涙を溢しながら話し始める。
「リリアナ様ったら酷いのよ。
魔物退治なんて野蛮な事、私に無理矢理させようとするんだもの。
何度も何度も。
その度に私、リリアナ様に反省して欲しくて神官様に相談していたのに、リリアナ様ちっとも反省なさらないから、神様に嫌われてしまったのね」
「そんなわけ」
「言い逃れは出来ないぞリリアナ」
無いでしょ!と続けたかったが、最高神官の言葉に遮られてしまう。
「そうだ!そうだ!」
沸き上がる声は徐々に熱を帯びていく。
リリアナを追放せよと他の神官や神殿兵達まで叫び始めた。
仕事を教えていただけなのに、追放なんかされてはたまったもんじゃない。
淑女らしさをかなぐり捨てて最高神官に向かって叫ぶ。
「神託が下ったって、私が何をしたっていうのよ!」
「諸悪の根元が何を言う」
「はい?」
「神はおっしゃられた。リリアナ・リンデルが悪事に染まり魔物を産み出している。大罪人リリアナを追放せよと」
「な、なんですって!!!」
余りにも身に覚えのない罪状に、私は唖然とした。
年中無休で魔物の穢れを祓ってきた私が魔物を産み出すなんてする訳が無い。
あまりにも突拍子の無い神託に、神様がおかしくなったんじゃないかと疑うの目を向けたくなるほどだ。
最高神官の隣でアリスは未だにしくしくと泣いてる。
泣きながらも、か弱いが芯のある聖女様を演じたいらしく、キッと睨むように私を見つめた。
「リリアナ様、そんな悪い方だなんて知らなかったわ。大人しく罪を償いなさい!」
その姿はまさに悪に立ち向かわんとする聖女そのもので、感化された神殿兵達がおおっ。感嘆の声を零す。
が、私にはどう見ても演技をしているようにしか見えない。
「判決を下すまでも無い。リリアナを連行しろ!」
裁判とも言えない裁判が終わり、縄で括られた私は着の身着のまま馬車へと放り込まれる。
ガタゴト揺れる安物の馬車で舌を噛みそうになりながら向かいに控えた神殿兵に詰め寄る。
「ちょっとくらい私の話を聞きなさいよ!」
道中の馬車の中で何度も冤罪だと言い続けた。が、神託は絶対だと馬車の御者や神殿兵は聞く耳を持たない。
そんな神託は下ったなんてありえない。誰かの陰謀に違いなかった。
でも、唯一神と交信出来る最高神官が神託を偽る事などあるのかしら?
今私を処罰すればいったい誰が穢れを浄化するのだろう。それを考えたら私を追放するのは悪手だ。
きっと何か理由があるに違いない。
ただd、今の時点で私に出来る事は無い。
逃げようにも何処に逃げれば良いのか。
色々考えている内に崖へと辿り着いてしまった。
連れていかれた崖の下には大きな川が流れていた。川底は見えない。
崖向こうの鬱蒼とした森の向こう側が魔族が住む魔族領である。
この崖を飛び越えて魔物がやってくるのだ。
「早く進め」
と神殿兵が私を槍でつつく。
追放と言うよりも処刑に近い気がするのは私だけだろうか。
「あなた、一生呪ってやるから」
「言ってろ」
縄でぐるぐる巻きにされた私を兵士がつつく。
せめてもの抵抗にと足に力を入れたが、両脇に腕を突っ込まれて抱えられてしまう。
そのまま崖の向こうへポイっと捨てられて、私の体は真っ逆さまに落ちていく。
何とも呆気ない最期だ。
しかし・・・。
落ちた。そう思った瞬間どさっと何かにぶつかった。
いや、ぶつかったと言うより、受け止められたに近いかもしれない。
重い衝撃が体中を走った。
「痛!」
「っ!?随分とデカイ落とし物だな」
「げっ!」
落とし物だなんて、失礼ね!と思いながら顔をあげると、数度だけ顔を会わせたことのある男の顔が目に入った。
黒髪に赤いルビーのような瞳。
悪人顔だが、よくよく見れば端正な顔立ちで、彼の正体を知らない人は思わず見とれてしまうだろう。
魔物であるワイバーンに騎乗し、髪と同じ黒い騎士服が良く似合っている。
が、今はそんな事を言っている場合ではなかった。問題は彼の正体である。
「なんで魔王がこんな所にいるのよ!」
「俺がどこに居ようと問題あるまい」
「問題だらけよ!」
そう、彼の正体は魔族領を治める魔王べリア。
敵同士なのである。
人間と魔族の関係は険悪どころか最悪に近い
その理由は、昔から続く深い因縁のせいだった。
肥沃な土地を持つ人間領に対して、魔族領は枯れた土地だとされている。
魔族は、実り豊かな人間領の土地を求めて魔物を生み出し、送り込んでいるというのは人間領の一般常識である。
魔王と出くわしたのも、魔物退治の際の数回のみ。この時も魔物であるワイバーンに騎乗していた。
その時は特に何をするでもなく遠くから私たちが魔物を討伐するのをただ見ており、討伐に成功すると去って行った。
怪しい事この上ない存在。私たちが倒した魔物を手引きしたのだと密やかに噂されていた。
初めてこの魔王に出会った時、聞いてみた事がある。何故、人間領に手を出すのかと。
そしたら、彼は何一つ弁解する様子無く、悪人顔・・・所謂、ゲス顔でこう言ったのだ。
「ははは!俺たちが何をしようとお前たちには関係の無い事だろう?」と
正直ふざけるなー!と言ってやりたい。
貴方たちのせいで私は年中無休の魔物退治に駆り出されているんだぞと文句を言っても良いくらいだ。
ゆえに私の魔王に対する好感度は最低を優に通り越している。
タイミングよく通りかかってくれたことは感謝するが、もっと別の人に助けられたかった。と心の中で文句を言っていると、
崖上にいる神殿兵たちが騒ぎ始めた。
「見ろ!魔王だ。やはりリリアナは魔族と通じていたんだ!!」
神殿兵・・・確か、モリアという名前だっただろうか?
魔物退治の際によく見た気がする。男が私と魔王を指差す。
私がこんな奴と通じているですって!冗談にもならないわ。と叫ぶが、神殿兵達には全く聞こえていないようで、
モリアの声に他の神殿兵が「やはりな」だの「処刑しておけばよかったのだ」などと口々に話始める。
余計面倒なことになってしまった。
冗談にもならないとは言ったが、この状況は誰がどう見ても魔王と私が手を組んでいるようにしか見えない。
その位魔王が現れるタイミングが良すぎた。
私だってこの状況ならそう勘違いするだろう。
かと言って、離してとは言えない。
そんな事を言おうものなら今度こそ海の藻屑ならぬ川の藻屑になってしまう。
この状況をどう弁解しようか考えていると、魔王は神官兵を鬱陶しそうに眺めて言った。
「・・・・面倒だな。一度魔族領に戻るか。聖女、お前も来い」
「えっ!!?」
抗議の声を上げる暇もなく、ぐん!と魔王が操縦しているワイバーンが上昇する。
内臓がふわっと持ち上がる感覚が何とも気持ちが悪い。
「ちょっとおおおおお!」
情けない私の声を響かせながらワイバーンは魔族領へと飛んで行った。
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