婚約者に言い寄る伯爵令嬢を苛めたらオカマと魔物討伐に行かされた件※若干のBL表現があります

水中 沈

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新しい隊員

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魔物討伐大会の結果は言うまでも無く私の圧勝だった。

モニカとジェシカが悔しそうに「次は負けないんだから」と叫ぶ姿を見ながら私は悪女らしく二人を見下しながら思わず上がる口角を扇子で隠していた。

何でもいう事聞くって約束だったわよね。

何をお願いしようかしら?と考えを巡らせるが、お楽しみは取っておこうと一先ず保留にすることにした。

それよりも、先日の魔物討伐で分かったことがある。
急いで中衛を頼める人材を入れなければならない。でなければ私が過労死する。

「まともな戦力が欲しい・・・」

魔物討伐部隊の健康相談所から受け取った紙を握りつぶしながら呟いた。

魔物討伐部隊の人事に何度も掛け合い、話し合いの場を設ける事となったのだが、問題は誰が行くか。

ちなみに、今回の話し合いに出席する人事部の部長は男性だ。

となると、あのオカマ達が目の色を変えて「あたしが行くわ!!」と叫び始めるのは目に見えている。

絶対に行かせる訳にはいかない。

あの三人に行かせようものなら、決まるものも決まらないし、人事部の部長も血相を変えて逃げ出すに違いない。

だから、人事部の部長を脅し・・・じゃなくて、相談の末に話し合いは宿舎ではなく、高級レストランの個室で行う事となった。
表向きは友達とのお食事会である。

そこまで念には念を入れて隠してきたにも関わらず、オカマのカンが騒いだのか、当日になってアイリスとジェシカが「イザベラ、私たちに何か隠してるでしょ!」とわめき始めた。

友達と食事に行くのだと説明すると、「私達も連れて行きなさいよ!」と言うので、久しぶりに会うから二人で会いたいのだと説得しようとしても「私たちも高級レストランに行ってみたいわ!」と言い、挙句の果てには、「もしかして、男と会う気じゃないでしょうね!!」とジェシカが言い出したものだから、

アイリスまでもが「そんなの許さないわ!!私達にもそのお友達とやらを紹介しなさい!」と私に詰め寄る。

そんな私を見かねたのか、モニカが「よしなさいよ、二人とも」と仲介に入ろうとしてくれたのだけれど、ピートアップしていたアイリスが「彼氏持ちは黙っていなさいよ!」と叫び、それに便乗したジェシカが「そうよ!そうよ!」と叫ぶ。

ちょ、ちょっと待って。今聞き捨てならない単語が聞こえたんだけれど。

「モニカって彼氏持ちなの!!!?」
「うふ。そうよ」

にこにこと得意の刺繍をしながらモニカは言った。
そしてすっと懐かしげな顔をすると、「そう、あれは雪の降る広場での事だったわ・・・」と語り始めた。

突然回想シーンに入らないで欲しくってよ。

余りにも長くなりそうだったので、「後でまた聞くわ」とモニカの語りを止めると、アイリスが羨ましさのあまり「私だって愛されたいわ!!」とぽろぽろと男泣きを始めた。

ジェシカはアイリスと同じように涙ぐみながら、アイリスの手を握りしめ、「大丈夫よ。きっと私達にも素敵な王子様が現れるわ!」とアイリスと励ましあっている。

なんて素晴らしいオカマの友情だろうかと言いたいところだけれど、絵面が何とも言えない。本人達は至って真剣なんだろうからなおさらだ
こんな事を言ってはいけないのだろうけれど、何故か絵面がむさ苦しくなるのだ。不思議である。

「とにかく、付いてこないで」

と場所も時間も告げずにこっそりと宿舎を抜け出して約束の高級レストランへと向かう。
万が一のことを考えて、馬車の御者には出来るだけ遠回りして目的地へと向かうようお願いした。

そして、約束の高級レストランへとたどり着くと、予約していた個室では既に人事部の部長、ボリスが到着しており、無精ひげを生やした軽薄そうな男が静かにコーヒーを啜っていた。

「遅かったな」
「ちょっと色々あったのよ」

疲れた顔で席に着き、ダージリンティーを注文する。
ふうっと息をついたその時、ばあん!!とものすごい音を立てて個室のドアがこじ開けられ、アイリスとジェシカが転がるように中に飛び込んできた。
驚きのあまり飛び上がってしまった私と反してボリスは何の気にもしていないかのようにコーヒーをコーヒーに口をつけている。

「やぁっぱり、男じゃない!!」
「久しぶりだな、ダグラスにジレッド」

怒るアイリスに部長は聞き覚えの無い名前を呼ぶ。
するとアイリスが部長にぎゅっと詰め寄ると、ドスの効いた声で「次その名前で呼んだらぶっ殺す」と殺意のこもった目で部長を睨んだ。

「ダ・ダグラスにジレッド?」
「こいつらの本名だよ」
「その名前で呼ばないで頂戴!!いくらイザベラでも許さないんだから!」

本名を言われたのが相当嫌だったのかバンと机を乱暴に叩きながらジェシカが叫ぶ。

そう・・・よね。何も言わないから失念していたけれど、
あのオカマ達の本名がアイリスとジェシカである訳が無い。

ダグラスとジレッドか。そんなに悪くない名前だと思うんだけれど、何がそんなに嫌なのかしら?

「こんな事なら来るんじゃなかったわ」
「呼んでなくってよ」

心底後悔した様子のアイリスだけれど、私は別に呼んでないし、むしろ来ないでと何度も念を押していただろうに。
そんな恨みがましい目で見られても困る。

「でも結構楽しかったわ。探偵ごっこみたいで」

私が馬車に乗り込んだ後、アイリスとジェシカはすぐに馬車を捕まえて、「あの馬車を追って」と御者に言い。何度か見失ういそうになりながらもなんとかここにたどり着いたのだと興奮ぎみにジェシカは語った。

「もう一度くらい言ってみたいわ「あの馬車を追って!」って」
「元気ねジェシカは。私はもう良いわ」

意気消沈とした様子でアイリスが私の隣に座る。
高級レストランの椅子は決して狭くは無い。と言うかむしろ広い方なのだけれど、アイリスが座った途端圧迫感を感じた。
それだけでも「うわ」と思ったのに、何故かジェシカももう片方の隣に座り、必然的に私はジェシカとアイリスに挟まれる形となった。

両側に筋肉の塊のようなオカマ二人に囲まれるとぎゅっと身を縮めるしかなく、それでも時折むちっとした筋肉が肌を掠めていく。
何よこれ。

「向かい側に座って下さる?狭くてよ!」

と我慢できずに抗議の声を上げたが、二人はとてつもなく嫌そうな顔で

「ボリスの隣なんて死んでも嫌よ」
「私も」

と頬杖を付きながら断固として動かない姿勢を見せた。

「にしても、密会の相手にボリスを選ぶだなんて、あんた、趣味悪いわね」
「密会じゃなくってよ。新しい隊員を入れてもらおうと思っただけだわ」

勝手にそっちが勘違いしたんじゃないと言うと、アイリスは驚いた顔で「そんな事、あたしに任せればいいじゃない!」
部隊長なんだからと。アイリスは言うけれど、貴方が行って、まともに交渉できるとは思えなくってよ。

「で、本題に入るのだけれど、新しい隊員。入れてくださるわよね?」

入れない訳無いわよね。と上から圧力をかけながらボリスに言う。
私程の実力者でなくても、訳アリの多少武芸に富んだ女性の一人くらいはいるでしょう?
絶対に一人手に入れるわ。と意気込む私をボリスは面倒くさそうに見つめる。

「それなんだがな、一人だけ当てがあってな。もうすぐ到着するはずだから、まずは会ってみてくれ」
「あら、意外。もう少しごねられると思っていたのだけれど」
「たまたまさ」

噂のオカマ部隊事、0部隊へ入りたい人などよっぽどの変人かオカマか私のような訳アリ位のものである。
もう少し時間がかかると思っていたのだけれど、ボリスはあっさりとOKを出した。

「もしかして、とんでもない変人じゃないでしょうね」

これ以上の変人はごめんよ。サーカスの見世物じゃあるまいし。と言うと、ボリスは「この中で一番まともだから安心しろ」
との事。

「男?女?」

アイリスが食い気味に尋ねると、ボリスは一拍置いてから「良かったな、男だ」と言うとアイリスとジェシカが椅子をガタリと鳴らしながら立ち上がる。
その瞳は期待に満ち溢れていたが、二人が立ち上がった事により、むぎゅっと私は二人に挟まれる形となってしまった。
「ちょっと!」と抗議の声を上げるも二人には届いていないようだった。

「く、騙されないわよ!どうせ既婚者なんでしょ」
「私達も、既婚者に手を出すほど飢えてないわ!」

と苦し紛れに吠えつつも目がギラギラと光っている。
流石に既婚者に手を出す気は無い様だが、ちょっと、ほんのちょっとつまみ食いくらいはしそうな勢いだ。

「既婚者ではないがお前たちにはちょっと・・・」

とボリスが言いかけた所で開け放たれたままの扉から「すみません」と男性にしては少し高めの声が聞こえた。
四人全員が扉の方を見ると、そこには黒髪にグレーの瞳。黒縁眼鏡の華奢で中性的な見た目の男性がドアの隙間から顔を出している。

「入隊予定のシオン・ラングレッドです」

と言ってたどたどしくドアからシオンが入って来たその時、アイリスが突然ひっくり返った。

「「アイリス!」」

思わずジェシカと共にアイリスに駆け寄ると、顔を真っ赤にして寝転がったアイリスが「好き!!!結婚して!!!!」とレストラン中に聞こえる大声で叫んだ。

「や、無理です」

アイリスの突然の告白にも微動だにせず、シオンは即答した。
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