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しおりを挟む「…とまぁそういう話だ。君は俺を助けてくれたあの女の子で…その指輪はその証だ。その指輪を見つけて確信したよ」
「た、確かに…そのガタイの良い獣医っていうのは…紛れもなく父のことですね」
獣医として名物にさえなりつつあった父の姿を思い出して苦笑いした。無敵にも思えた父も魔獣に襲われて命を落としたが本当に誇らしいひとだった。
「君は命の恩人で…こんな素敵な女性になってまた俺の前に姿を現してくれた。俺は君があの少女だと分かった瞬間運命だと思ったよ、だからどうしても手放したくなかった」
ロックスさんは私の手を掴んで手の甲にキスを落とした。父のことに想いを巡らせていた私だったがロックスさんの言葉に顔が熱くなる。運命、なんて信じてはいなかったが彼の瞳は真剣そのもので視線を逸らせない。
「この命は君に救われたものだ…俺の全ては君のために捧げても構わない。結婚してずっと俺を君のそばにいさせてくれないか?」
「あ…ぅ…」
突然のプロポーズに頭が追いつかない。だけど彼の言う運命を信じてみたいと思ったのもまた事実で、しかしそこであることが頭をよぎった。
「でも、私…このまま呪いが解けなかったら…あと2ヶ月の命なんですよ」
「だからこそだ。君と支え合って…君の夫として困難を一緒に解決したい」
しかし現時点で解決策はなく、こんな優しい人をひとりぼっちにさせることなんてできない。私が言い淀んでいるとロックスさんは私の額にキスをした。
「君にも気持ちの余裕がないだろうに…こんなこと突然言われても困ってしまうよな。だけど俺がそれくらい君のこと愛してることは分かってほしい」
「は、はい…」
「ん…気持ちが変わったらいつでも言ってくれ。」
ロックスさんの言葉は直球だけど私の気持ちを優先してくれてもらってばかりだなと思うと彼に向き合った。
「その、私も結婚したくないわけじゃない…です。ロックスさんとずっといたいし…ロックスさんとなら…赤ちゃんも欲しいって…」
「ベラ…本当か?」
ロックスさんの声色から歓喜を感じられて、これから話すことに罪悪感を感じる。
「だ、だけど…ロックスさんは…王族だって分かったばかりだし、蛇族の方は人間をよく思っていないし…呪いのことだって…考えることいっぱいで…」
「そうだな…ただ好きってだけじゃ乗り越えられないものだ。すまない、君の方がずっと俺とのこと、真剣に考えてくれていたんだな」
ロックスさんの優しい言葉と撫でる手が心地よくて流されてしまいそうになる。彼が私を求めてくれるように私だって彼が欲しくてたまらない。結婚という証で彼を繋ぎ止めて他の女の子に取られたく無い。そう思ったところで自分が自分で思っている以上に私は彼に入れ込んでいるんだと感じた。
呪いを受けて、余命わずかな私に他の女の子を見ないでなんて言う権利…無いのに。
「…とりあえず、ずっと話したいと思っていたことを話せてよかった。お腹減っただろ。夕飯にしような?」
ロックスさんは私の手のひらに指輪を握らせると浴室を後にした。私はもう少し湯船に浸かって現状に思いを馳せるのだった。
そうしてお風呂を上がる頃にはテーブルに豪華な夕飯が並べられており、メインの魚のムニエルも食べたことないほどに美味しかった。
「うちの食事は口に合ったか?」
「ええ、とても美味しかったです。ありがとうございます」
「そっか、なら良かった。今夜はもう疲れただろう。一緒に寝よう」
時計は23時を回っている。ロックスさんの部屋にあった本を借りて読んでいたがそろそろ寝た方がいいだろう。歯磨きも済ませていたし、後は寝るだけだ。やや緊張しながら大きなベッドに乗ると沈み込むようなふかふかのマットが体に馴染んだ。
「うちの固いベッドとは全然違う」
「そうか?沈みすぎて寝辛くないか?」
ロックスさんはベッドの周りにある天蓋カーテンを下ろしながら寝る支度を始めた。そうしてベッドの真ん中に私を抱きしめて腕枕をしながら横になった。
「…っ」
ここは思っていた以上に刺激が強い。目の前の私を抱きしめる体だけじゃない。シーツに枕、布団からもロックスさんの香りがして全身を隅々まで彼に包み込まれている感覚に顔が熱くなる。
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