呪いから始まる恋

めぐみ

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そうして彼らの元での生活が始まり、日中はセスさんとフライヤさん、夜は帰宅してきたロックスさんと過ごす。最初は驚かされたセスさんとフライヤさんのやりとりもいつしか慣れていった。そして特に組織の人間から襲われることもなく平穏に過ごしていたが呪いの解決方法はいまだに見つかっていなかった。
蛇族のロックスさんでさえ知らないのだからそう簡単に見つかるものでもないだろう。

「すまないな…今日も君の力になれるような成果は得られなかった」

「…そうなんですね。今日もお疲れ様です。夕飯出来てるのでコート脱いでゆっくりしてください」

ロックスさんは首回りに毛皮のついたコートを脱ぐとそれを私に預け、食卓につく。そしてじっと私を見たかと思うとサッと視線を逸らした。

「…?どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。今日の夕飯もうまそうだな」

明らかに何かを隠している様子だったが彼が言いたくないのであれば無理に聞く必要もないだろう。ちょうど出来上がったチキンのソテーを食卓に並べると腰掛けたロックスさんは意気揚々とフォークとナイフを手に取った。いつも落ち着いた彼の無邪気な動作に思わず口が緩んだ。

「いつもありがとな、2人分も作るのは大変だろう」

「いえ、こうやって誰かと食事をするのは久しぶりでしたから。むしろ1日の楽しみな時間になってるんですよ」

私の言葉にロックスさんは口元を緩めた。最初は怖いと思っていた彼の顔つきも今ではすっかり慣れて、存外表情豊かだと感じるようになっていた。

「呪いの件が解決したらまた1人になる…と思うと少し寂しいですね。こんな言い方は変ですよね、呪いが解けるのはいいことなのに」

「また来るよ」

私の言葉が終わった瞬間に、若干食い気味とでも言う具合に彼の返答が来る。驚いて彼を見るとまっすぐと私を見つめていて胸が掴まれたかのような感覚に陥った。

「君に会いに行く。…君が良ければ、だけど」

「………はい、待ってます」

それは1人寂しく過ごしている女への同情も混じっていたのかもしれない。だって彼の居住地はここからずっと遠くてそんな簡単に会いに行くなんて出来ないはずだ。だけどそれが嘘だとしても人と過ごす楽しさを思い出した私には嬉しかった。









その日はとても天気が良く、森の中だというのにやけに暑かった。一方で天気が良いというのは絶好の洗濯日和で、私は朝から洗濯をしていた。庭に干したたくさんの洗濯物は壮観で、それでもあまりの洗濯物の量に服が濡れるほど汗をかいてしまう。
このまま家に戻ってもよかったが暑さで火照った体は一刻も早くその熱を冷ます術を求めていた。すぐ近くにある小さな沢は絶好のスポットで、服を脱ぐと裸のままその沢に浸かる。

「はぁ…気持ちいい」

どうせ周囲には誰もいないのだ。暑い日は昔からよくここで遊んでいたので勝手は知っている。しかし暑さで感覚が鈍っているのだろう、そこにはもう1人いることに気づかなかった。

「おい、誰かいるのか?」

沢の一部は草木に囲まれていてその奥にはまた別の水の溜まり場がある。その奥からやってきた声に体が強張った。今までその存在に全く気づかなかったが、その声の主は草木をかき分けてこちらへやってきて私を捉えると目を見開いた。

「ろ、ロックスさん!?」

私同様裸で水浴びをしていたのだろう。お互いの姿に恥ずかしくなって咄嗟に体を隠すと、逆に彼は私にどんどん歩み寄ってくる。硬直して動けなくなった体はそんな彼を見ていることしかできなかった。

「そのアザはいつからだ?」

「え…?」

ロックスさんは私の腰のあたりに触れてゆっくりとそこを撫でた。体を捻らせてそこを見ると皮膚がわずかに黒ずんでいて全身の血の気が引いた。呪いに侵食された時と同じ、まだ腰の一部分だけだったがいずれ全身に広がっていくのだろう。

「呪いが思った以上に進行してる。気づかなかったんだな?」

彼の言葉に頷くと、ロックスさんは額を手で押さえてしばし考え込んだと思ったら意を決したように口を開いた。

「呪いを解く方法はまだ分からないが…進行を遅らせる別の方法なら見つけたんだ」

「えっと…それは一体…?」

「…その…蛇族の体液を摂取して、対象を同族だと呪いに勘違いさせるんだ。体液の摂取ってのは…粘膜の接触と体液交換が1番効率がいい。ゴホン…はっきりいうとだな、精液や愛液から得られる効果が1番大きいんだ」

ロックスさんは非常に言いづらそうに咳き込みながら説明してくれる。
粘膜、体液…それに精液やら愛液なんて言われたら彼の言いたいことが大体わかって顔が熱くなった。

「あ、あの…ロックスさんと…エッチすれば呪いが緩和されるってことですか?」

「…まぁそういうことだ。ただの施術だと思えればいいが…精をベラの胎内に吐き出すのが1番効率がいい。そうなると勿論妊娠のリスクも生まれる。だが他の手段に頼ってられる時間の猶予ももうないんだ。すまないがこれは受け入れてくれ」

私を助けるための行為だっていうのは分かるが頭が追いつかない展開に混乱してしまう。赤ちゃんが出来ることを覚悟した上で生き延びるか、このまま諦めて死ぬか。
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