呪いから始まる恋

めぐみ

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「しかしそんな俺を助けてくれたのもまた別の人間だった…だからそう簡単に人間を嫌いになれないんだ、俺は」

じっと私を見つめる彼は恐らく人間としての私を見定めているのだろう。自分たちに害なすものか、そうじゃないか。ここまで人間に悲惨な目に遭わされていたら当然だ。

「そういえば…貴方のことは何て呼べば…?」

「あぁ、そうだ言ってなかったな。俺はロックス・グローツラング。すまないが君のことは組織の資料である程度一方的に知ってしまっている。ベラさん、だったね…君の家も奴らの資料から知ってな。幸いそう離れていなかったから連れてきたわけだ」

ロックスさん、と言う彼は見た目に反して穏やかで子供たちが言うように優しい人なんだと改めて実感する。

「そして君の首にかけたネックレスだが…俺の20年分の呪力を込めたものでな…一時的に呪いの進行を抑えているが…それを外したら一気に呪いが君の体を襲って絶命させてしまう。くれぐれも外すようなことのないように」

「わ、分かりました」

改めて自分の首元を見ると黒い革製の首輪のようなネックレスがかかっていた。真ん中に長方形の金属のプレートが付いておりいたって普通のどこにでもありそうなネックレスだ。だけど確かに呪いを受けた直後のような痛みは無くて体のアザも消えていた。

「とは言ってもこれも呪いを抑えてるだけだ。いずれ限界がきたらこんなネックレスじゃ抑えられなくなる。せいぜい…もって三ヶ月ってとこだな…」

「じゃあ、私…三か月後には…」

「今部下にも頼んで呪いを解く方法がないか文献を探させてる。まずはその火傷を治してからだな…俺たち獣人族のトラブルに巻き込んだ責任はしっかり取らせてくれ、俺たちができる限りのことはちゃんとするつもりだ」

ロックスさんは私の手の包帯を解くと焼け爛れていた皮膚はとても3日しか経っていないとは思えないほど回復していて目を疑った。

「これは…一体」

「蛇は医療の象徴でもある…始祖である蛇の精霊は呪いの能力と共に死人さえも蘇らせる治癒力を持っていたらしい。その一片である治癒力を…始祖と比べると微力だが俺たちも持っているということだ」

ロックスさんが私の手を握ると皮膚の荒れが少しずつ引いていき、水ぶくれだけが残った。

「残念ながら…この治癒力は制限があってな…人間相手にしか使えないんだ。獣人でも人間の姿になってる相手には効くが…動物の姿の時に負った怪我には効かない。俺のこの傷や…ウィルの火傷痕も…この力は使えないんだ。だが君の傷を癒せてよかった」

いくら自分が癒やされてもウィルの火傷痕は残るのだと思うと気持ちは重い。

「まだ熱も完全には引いてないみたいだ、すまなかったな。体調万全じゃない中こんな話して。腹減ってるだろ、今飯持ってくるからな。ゆっくり休んでくれ」

「何から何まで…ありがとうございます」

「礼を言うのは俺の方だ。あの子達を支えてくれてありがとう…」

そう言って彼は部屋を出たが私の心が落ち着くことはない。自分で自分が許せない。いくらロックスさんが君は被害者だからなんて言ったって…私の行動が結果的に子供達を殺めたことには変わらないのだから。
いっそ死んでしまった方が気が楽になるのではと首にかかったネックレスを掴んで…だけど外す勇気は無い。中途半端に自分を責めることしかできない自分の無力さに奥歯を噛み締めるのだった。

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