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しおりを挟むその日はゲイルの咳の音で目を覚ました。何事かと隣を見ると眠っていたゲイルがゼェゼェと息を荒げながら呼吸をしている。額にそっと触れると熱を持って明らかに風邪を引いている様子だ。
「ゲイル…ちょっ、大丈夫⁈」
「あ、ヴァ、レリア…さ、むくて…」
こんなに体が熱いというのにゲイルは体を震わせて私の体に抱きついた。
「寒気がするの?」
「ん…わ、るい…」
息遣いも苦しそうで、子供のようにすり寄って来るものだから風邪がうつりそうとかは考えられなくて抱きしめながら頭を撫でる。人肌が気持ちいいのか腕や胸元など肌が開いているところにやけに触れてきた。
「喉とか…頭に痛みはない?あと…鼻詰まりとか…」
「の、どが…いたい…」
「じゃあすぐ戻って持ってくるから、待てる?」
「ん、まつ…」
少し舌足らずな言葉が返ってきて抱きしめられる力が緩むとベッドから出て念のため彼から力を全て抜き取って部屋を出た。そしてキッチンでお湯を沸かして、マグカップに注ぐ。そこに蜂蜜とレモン汁を垂らして、お湯で濡らしたタオルと一緒に持っていった。戻ってくるとゲイルは小動物のように体を縮こまらせ、小刻みに震えてとてもではないが見ていられなかった。
「ゲイル、飲み物持ってきたの…飲める?あったかいよ」
手を貸しながら彼の体を起こすと、のろのろと差し出したマグカップを受け取ってそっと口をつけた。ゲイルはずず…と音を立てて啜るとホッと息をついた。
「ん、うまい…」
「良かった、これで少しは喉楽になるといいんだけど」
ゲイルはそのあと一気に飲み干したようで飲み終わったマグカップを置いてまたベッドに潜り込んだ。でもその体は汗だくでそのままにしておいたら体を冷やしてしまう。
「ゲイル、ごめんね…寒いだろうけど体拭くから、服脱いでくれる?」
「あ、…う」
「すぐ終わらせるから、ね?」
子供に言い聞かせるようにそう言うとモゾモゾと体を動かしてきているシャツのボタンを外した。シャツもところどころ濡れるほど汗をかいていて見ているこっちが辛くなってきた。
「あったかいタオルで拭くから…気持ちいいでしょ?」
体を拭きながらそう問いかけるとゲイルはこくりと頷いて私のもう片方の手を握った。なんだか子供のように甘えられると母性本能がくすぐられるのか彼が可愛く見えてくる。弱っている人間相手にこんな風に思うのは不謹慎だが彼も幼い頃に母親を亡くしているからか仕草で素直に甘えてくるのがわかった。
「よしよし、汗いっぱいかいて辛いよね…終わってシーツ交換したらまたいっぱい休んでいいからね?」
そのままの流れでつい子供扱いしてしまう。体を自分に寄りかからせて頭を撫でながら体を拭く。
「ヴァレリア…ごめんな」
「もう、何で謝るの?」
「お前が優しいことに甘えて…こうしてお前を困らせてる」
少し落ち着いた息づかいをしながら潤んだ瞳で見つめてきた。その顔があまりにも辛そうで、見ている方が胸が痛む。
「困らせてるなんて…なんで…?」
「本当は前の彼氏のことも忘れられてないんだろ?なのに…お前が優しいことと、俺と離れられないことを利用して、こうやってお前に触れさせて…肌まで重ねさせて…」
「それは…」
彼のことを見透かされていて言葉に詰まってしまう。結婚まで真剣に考えていた彼氏のことはそうすぐに忘れられるわけがない。だけど、甘えていたのは私も同じで…ゲイルと触れ合うことで彼とのことを紛らわそうとしていた。
「私も…ゲイルに酷いことしてるもの…」
「俺に?」
「ゲイルが私に好意に寄せてるのわかってて、それに漬け込んで無理矢理彼のこと忘れようとしてる」
私の言葉にゲイルはぽかんと口を開いていた。流石にひどい女だと思ったのだろう。私も彼をみていられなくて俯くと彼から予想外な言葉が出てきた。
「彼のこと…忘れようとしてたのか?俺を彼の代わりにしようとしてたんじゃなくて…?」
「へ?代わり…?そんな酷いことしないよ、流石に!しかもゲイル彼とは全然タイプ違うし!」
あまりに突拍子のない話につい笑いが溢れてしまう。なのにゲイルは何のスイッチが入ったのか私をきつく抱きしめた。
「ゲイル…?」
「俺が…彼に近付けば…ヴァレリアは俺のこと好きになるのか?」
「…ううん、ゲイルはゲイルのままでいてて…」
ゲイルが縋るような声で言うものだから、私に振り向いて欲しくて必死な様子がありありと伝わってきた。だからこそ私はその言葉を否定して彼の手を握った。
「そ、れにね…あの、ゲイル自身のことも…すきに、なってきてるから…もうちょっとだけ、待ってくれる?」
初めての告白かのように辿々しい口調で言いながら顔が熱くなってくる。ついに言ってしまった。
これだけ1日のほとんどを一緒にいて真っ直ぐな愛情を向けられて好きにならないというのも無理のある話だ。強引に見えて、その中に優しさが見えるところも…ひたすらに優しかった前の彼氏とはまた別のタイプだったがそんなところもゲイルに惹かれる要素だった。
恐る恐るつい逸らしてしまっていた顔をゲイルの方に向けると、その顔を見る前に抱きしめる腕の力が苦しいくらいにキツくなっていく。
「げ、ゲイル?どうしたの…っ、くるし…」
「まさか…そんなこと言われると思ってなくて…柄にもなく感動してる。待つよ、お前が忘れるまで…ジジイになってでも待つ」
彼に愛されているのだと実感するとともに彼に応えたいと思っていた。
「俺を好きに利用してくれよ、それで忘れられるんだったら喜んで利用されてやる」
全身がどんどん熱くなってくる。この熱は、彼に風邪をうつされたから、なんて理由じゃない。
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