運命の終着点

めぐみ

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「なんかこの辺もだいぶ変わったな」

約束通り翌日朝から森の中を練り歩くとゲイルは落ち着かない様子で周囲を見回している。すこし挙動不審な姿に笑みがこぼれる。

「ゲイル、村に着いたらしばらくはいる感じ?それともすぐ帰るの?」

「あー…どうだろう。多分死ぬまでいなきゃいけないかも」

彼は困ったように笑ってそう言った。なんだか引っかかるような言い方に首を傾げながらも長くいてくれるならいいかなんて呑気に「ふーん」と答えた。

「じゃあここが村になるから…村に入るまで私の手を離さないでね」

ここの村人ではない彼は私が同行し、彼を村に招き入れることを承認しないと入ることはできない。彼の手を握って、一見何もない草むらへと入っていく。すると目の前には村の門が現れて門番が迎え入れた。

「一晩帰らず、男を招き入れるなんてやるじゃねぇか、ヴァレリア!」

「いやいやそんなんじゃないから!」

軽口を挟みながら門の中へと入っていく。そして彼の求める場所で私の家─神官の執務室へと向かった。ドアをノックしようとすると廊下を歩いていた継母が私を見て「神官様なら中庭にいるわよ」と教えてくれる。そうして中庭へ向かうと父は背を向けてしゃがみ込んで中庭で育てている植物の管理をしていた。私が父に近付くよりも先に割り込むように早足でゲイルが父に歩み寄っていく。

「なぜ戻ってきた」

突然の父の硬い声に緊張感が走る。基本温厚で優しい父がそんな声を出すなんてと疑ってしまうほどには驚いた。しかしそれを向けられたのは私ではなく彼だった。
そして父は立ち上がるとこれまた温度を感じさせない冷たい視線をゲイルに向けた。

「ゲイル・”ハルフォード”、父親はどうした?」

「俺が先ですよ、”叔父さん”、あの男は…神官はどこですか?」

ハルフォード?叔父さん?彼らの言っていることに脳の処理が追い付かない。彼らはいったい何を言っているの?この空気に耐えきれなくて私は思わず二、三歩後ずさってしまう。ゲイルもゲイルで人を圧倒するような殺気を発して父を睨んでいる。

「娘の前でそう殺気立つのはやめてくれないか」

「娘…?」

「そう、お前と一緒に来ただろう。彼女は私の娘で…お前たちが立ち去ったからハルフォード家の跡継ぎにならざるを得なかった、お前の従妹だよ。」

ゲイルは私を見つめて目を見開いた。それは私も一緒だ。彼が、私の従兄?そこで私は昔一度だけ聞いた話を思い出した。





私が20歳を少し過ぎたときのこと、父は珍しくお酒を飲みながら懺悔するように私に話したのだ。

「母さんが出ていったのは私のせいなんだ」

「え…?」

私が3歳を迎えたころ、人間だった母は突然家を出てしまい、それから父は獣人の女性と再婚した。それをずっと母が獣人の文化に耐えきれなかったせいだと聞かされていた私はその言葉を一瞬理解できなかった。

「私にはもともと兄がいて、彼と彼の息子が神官としての役目を継ぐはずだったんだ…だが、彼は村を裏切った。」

父に兄弟がいるなんてこの時初めて聞いた。私は昔からなぜ跡継ぎのはずの父が最初に結婚したのが人間の女性だったのか私は全く分からなかったがその話で腑に落ちる。父はもともと神官になるつもりは無かったのだ。それも神官になるはずの兄に息子がいれば完全に安泰、そう思っていたところ彼らが村を出たのだという。
だが獣人の血が100%では無い私を跡継ぎにするのは神官一族としては難しいと祖父に言われたそうだ。
だから…

「母さんを追い出して私が獣人の妻と獣人の跡継ぎを作らざるを得なかったんだ」

父のその言葉に眩暈がした。ずっと私と父を捨てたと思っていた母は、この村を追い出されてしまっただけで…そして父は家のために今の母を娶って…
そう思うと頭の奥が沸騰したように熱くなって父の襟首に掴みかかった。

「どうしてッ!!そんな…っ、じゃあ…っ、母さんは!」

「すまない…本当に、父さんも心から彼女を愛していたんだ」

掴んだ手にぽつりぽつりとしずくが落ちてそれが父の涙なのだと悟った。父も苦しかったのだ。だけど…私たちは”神官一族”…その運命からは逃れられない。伝統を、血を守らなくちゃいけないのだから。



そしてそこで出てきた、父の兄とその息子…その息子がゲイルだとのだというのだろう。
彼らが出ていなければ私は跡継ぎになんてならなくてもよかった。
彼らが出ていかなければ母が村を追い出されることもなかった。

「ゲイル…なんで、出て行ったりしたの?」

私はそれを聞かずにはいられなかった。震える声で絞り出すように言うと突然発せられた地響きと共に唸るような低い声で答えた。

「…俺たちの祖父が俺の母親を殺したからだよ」

「ころ、した…?」

「父はもうこの村に関わるなと言っていたが、その父ももう亡くなった。俺は母を殺した祖父を許していない、この26年間ずっと復讐することだけ考えていた…さぁ叔父さん、奴がどこにいるか早く教えてくれ」

祖父が…彼の母親を殺した?確かに彼は厳格で苦手な人ではあったが…そんな恐ろしいことをするなんて思いたくもなかった。
でも、あんなに優しかったゲイルが鬼のような形相で、父に掴みかからんとしている。憎い相手を探し求めるその言葉に胸が詰まった。

「先代はもう死んだ」

「……………………は?」

そう、祖父はもう病気で一昨年亡くなっているのである。彼がいくら恨みを果たそうともうその相手はいない。ゲイルは呆然としてその場に立ち尽くした。

「全ての元凶はお前の父だ、恨むなら父を恨め。私もあれ以来彼を兄だと思ったことはない」

父のあっさりとした言葉にゲイルの瞳は再び怒りを露わにし、一旦消えたと思った地響きが再び唸り声を上げた。そしてその後、彼の周りをどこからともなく植物が生茂り一際大きな木の枝が父に向かって勢いを持って刺しにかかる。植物を操る力は遠い祖先の狼の精霊が得意としていた魔法だ。神官一族の子孫はこの能力を代々使えるものだがゲイルの能力は祖父や父より段違いの出力だ。

「ヴァレリアッ!!!!」

父が私を呼ぶと、その枝を別の木の枝が取り押さえた。ガチガチに固定させてそれ以上の動きを許さないように。
予想外の妨害にゲイルは私の方を振り返った。

「ヴァレリア…お前、人間寄りの獣人じゃないのか…お前も草木を操る力を…?」

「ううん、私はほぼ人間だよ。でもひとつだけ能力があるの。普段はそんなに役に立たないけど」

彼が発揮した能力より強い力で彼の体を抵抗もさせる前に木々で何重にも取り押さえる。
私の能力は、触ったものの能力を吸い取り、出力できること。ただそれだけだった。それも時間制限付きで触れてから1時間後には吸い取った力は持ち主に戻ってしまうのだ。
彼に出会って触れた瞬間、普通の人間ではないと感じたのは彼の体に巡るエネルギー量。それは触れたこともないとてつもない量だった。彼が村に危害を加えることがないか、保険のために村に入る直前…力の7割は自分に取り込んでいたのだ。
無力化したい相手に触れること、通常の敵ならそんなこと無理だが今回はいつもと条件が違う。その能力を充分に発揮できた。

「父さん…この人すごい、10割も吸い取ってないのにこの村の住人全員の魔力を集めてもきっと彼には敵わないよ」

「それもそうだろう、皮肉にも彼は魔力に関して天才的だからな」

父は拘束する植物の中で暴れるゲイルに拳を振りかざし、そこで気を失わせた。

「きなさい、ヴァレリア…お前には話さなきゃいけないことがある」

そして聞いたのは…残酷な真実だった。

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