38 / 44
失恋の特効薬
37
しおりを挟むギルフォードは、マンドラゴラ夫婦の自宅へと入ると、双葉へと近づいていく。
双葉は、ピンと天へと伸びて元気そうだが、成長しているようには見えない。
種から発芽するまでも長い時間がかかった。
オフィーリア様曰く、この双葉は、両親以上に上位種のマンドラゴラらしく、魔王城から溢れる魔素を浴びてはいるが、それだけでは魔素が足りていないらしい。
魔素が一定以上溜まるまでは、成長できないとのことなのだ。
ギルフォードは、少しでも双葉の成長の足しになればと、森の中で魔石を探しては、双葉の近くに埋めている。
魔石は魔獣の身体の中に核として在る物だ。簡単に言えば、大気中の魔素が凝縮されて固まったものだ。獣と魔獣の違いは、体内に、この魔石が有るか無いかだといえる。
人間は魔石を魔道具の動力にするため必要としてはいるが、中々手に入るものではない。
魔獣を倒して、その体の中から取り出さなければならないからだ。しかし魔獣を倒せる人間は、そうそうにはいない。
ギルフォードは、そんな魔石を魔の森の中で、拾ってくる。
人の手にかからなくとも、死ぬ魔獣は多くいるから。魔獣は死ぬと身体から魔石がこぼれ出て、一定の時間が経つと地に帰る。
ギルフォードは、地に帰る前の魔石を探して、せっせと双葉の元へと届けているのだ。
「きゅっ」
「うきゅっ」
ギルフォードが魔石を埋め終わるころ、マンドラゴラ夫婦がやってきた。手に手にぞうさんじょうろを持っているから、水を汲みに行っていたのだろう。
マンドラゴラ夫婦は、それはそれは双葉を大切にしている。
芽が出る迄は、ヤキモキしていたが、芽が出たら出たで、なかなか大きくならない双葉に、またもヤキモキしている。
それを側で見ていたギルフォードは、自分にも何か出来ないかと、魔石を集めるようになったのだ。
「うきゅきゅー」
ドラ子が双葉に向かって、水をかける。その横で、ゴラ男が謎の伸縮踊りを踊っている。
「早く大きくなれよぉ」
ギルフォードも双葉に向かって声をかける。
柵の外では、シアと亀助が、まだ揉めているようだが、一切無視する。
「きゆゅ」
「え?」
ギルフォードの目の前で、双葉が揺れると、小さな声が聞こえた。
「もしかして、双葉の声?」
ギルフォードは微かに聞こえた声の方に向かい、耳を近づける。マンドラゴラ夫婦も耳を澄ましているのか、双葉に注目している。
ポコリ。
小さな土くれが双葉の横からこぼれ出ると、双葉が揺れながら、伸びていく。
小さな顔が、現れてくる。
「うっわぁ、可愛い」
小さな小さなマンドラゴラが上半身を土から出して、ギルフォードを見ている。
未だ頭の葉っぱは双葉だけだが、双葉はピコピコと動いている。
「「うきゅきゅきゅきゅ~」」
マンドラゴラ夫婦も大喜びだが、その場からは動かない。
双葉は力を入れて身動きしているのだが、中々土の中から出てこられないようで、思わずギルフォードは手を挿し伸ばす。
「あらあら駄目よぉ。生まれたてのマンドラゴラは、自分の力で土から出なければならないのよ」
いつの間にかにギルフォードの背後には女神オフィーリアがいて、ギルフォードの手を押さえ付ける。半透明なオフィーリアの腕は、ギルフォードの手を通り抜けてしまったが。
お手軽顕現の女神に、ギルフォードは驚いて、ピクリと身体を震わせてしまう。
「うわぁ、そうなんだ。知らなかったとはいえゴメン。オフィーリア様に止めてもらって良かった」
ギルフォードの手は、双葉にあと少しという所まで来ていたのだ。慌ててギルフォードは、自分の伸ばした手を引っ込める。
やや長い時間をかけ、やっと双葉は土から自分の力で這い出てきた。
その時、可愛らしい悲鳴を上げたのだが、魔の森に認められているギルフォードに、悲鳴が作用することは無かった。
そして、おぼつかない足取りで、マンドラゴラ夫婦ではなく、ギルフォードへと抱き着いてきたのだ。
「ウフフフ。可愛らしい赤ちゃんねぇ。生まれたばかりなのに、双葉ちゃんはギルフォードのことが好きなのね」
ホンワリと笑うオフィーリアだが、マンドラゴラ夫婦の冷たい視線にさらされているギルフォードは、それどころではない。
「うきゅう、うきゅう」
小さなマンドラゴラは、ギルフォードの腰にしがみつき、嬉しそうに双葉を揺らしている。
「騒がしいけど、どうしたの?」
リーリアが魔王城から出てきた。
夕飯を作っていたのだろう、片手にお玉を持っている。
「もしかして、双葉ちゃんが土から出てきたの?」
ギルフォードに抱き着いている双葉を見て、リーリアが嬉しそうに、駆け寄って来る。
「キシャーっ」
双葉が威嚇音を発し、ピリピリと辺りに魔力が放出される。
「双葉ちゃん……」
リーリアは畑の柵から中に入ることが出来ず、悲しそうに双葉を見ている。
(どうしてこんなにリーリアを嫌うのだろう?)
小さな双葉に触れるのも躊躇われ、ギルフォードは、ただただ困惑してしまうのだった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説



イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる