33 / 44
失恋の特効薬
32
しおりを挟む
そうしてゆっくり話す間もなく、ノアは1週間も入院することになった。今まで簡易的な応急処置で済ませていた傷の分も安静にして休めとのことだった。
「アメリ…戻ってきてたんだな」
「合わせる顔もないと思ってたけど…まさかこんな早くに会えるとはね。元気だったノア?」
「まぁな…」
お医者さんが来たと同時に看護婦である彼女とも対面することになる。ノアの視線は彼女とは合っておらず極力彼女に視線を見ないようにしているのがわかった。合わせる顔もないと言っているあたり彼女も過去の出来事を過ちだとは思っていたようだ。
「ナタリア、家から物いろいろと持ってきてくれるか?タオルとコップ…歯ブラシと下着と寝巻き何着かあると助かる。」
「う、うん…」
ノアは私の腰に腕を回してやたらと密着しながらそう言った。人目もあり恥ずかしく距離を取るように彼の胸を押し返すが力は緩まなかった。
「ちょっとノア…っ」
「あぁ…悪い」
私が声かけたことでようやく気付いたように手を離すノア。どうやら無意識での行動だったらしい。
「大丈夫…?」
ノアの顔色があまりよくない。こちらから離れるよう言ったが不安になってくる。先程とは明らかに様子が違ってノアのトラウマは思った以上に根深いのだと思った。
「自宅の療養とかでは…ダメなんでしょうか?彼仕事が立て込んでる時期で…体動かすことはさせませんが色々と対応しなきゃいけないことがあるんです」
そんな彼の様子があまりにも不憫で1週間もの入院は回避できないかとそれらしいことを言う。
「ノア君最近頑張ってるのは分かるけどね…今回の怪我に加えて過労の疑いもあるんだよ。その為にも仕事のための自宅療養っていうのは本末転倒なわけだ」
50代くらいの昔馴染みのお医者さんは苦い顔をして頭を掻いた。そしてそんな彼の言葉に恥ずかしくなる。1番近くにいたはずなのにノアが過労状態だったことに気付けなかった自分に。いや気付いてはいたがあまり強く無理をするなと言わなかった。本人が夢中になっている以上私がしっかりと言ってあげなきゃいけなかったのに。
ノアの前の彼女の前だという状況も重なってそれ以上何も言えず、口をつぐんだ。
「ナタリアありがとな…ここまで無理しちまって悪かった。仕事は体が資本ってこと分かってたつもりなんだけどな」
しかしノアは状況判断も知識も乏しい私の甘い考えに礼と謝罪を言うのだ。そうして結局入院は一週間のまま変わらず過ごすことになる。早めに仕事を切り上げて少しでも面会できるようにするが、ノアと1日のうち一緒に過ごせるのはせいぜい1時間だ。
「毎日きてもらっちまって悪いな。あと3日だから…」
「ううん、少しずつ顔色良くなってるみたいでよかった」
体調が良くなっていく彼とは裏腹に私の心は曇る一方だ。ノアは私を裏切ったりしないと思う一方で、彼女は私よりずっと長い時間ノアと一緒にいることを考えると気が気じゃない。
長いと思っていた入院期間もようやく終わりを迎え、退院の日を迎えた。荷物の整理を手伝おうとノアの病室の前に行くと女の人とノアの笑い声が聞こえて体が氷のように固まった。この声───────アメリさんだ。
「ノアのそういうとこ全然変わってない」
「そう簡単に人は変わらねぇよ」
(なんで、笑って話せるの…?その人はノアのこと10年も傷つけてた人でしょ…?)
お風呂でトラウマを吐露する姿や夜彼女の名前を苦しげに呼ぶ姿が思い出される。なのに今は彼女と仲睦まじく話している。地面に足が張り付いたように動けなくてドアの前から一歩も踏み出せなかった。それどころか足は後ろへと一、二歩下がって病院を後にしてしまう。私は何をしているんだろう。自分でも分からないがここで入って胸を張ってノアの彼女は私なんだと言える自信がない。
気付いたら無意識のうちに自宅へ戻ってソファに腰掛けてしまっていた。ほんの数時間前──ようやく彼が退院できると喜んでいたのに。
「私って…やっぱりアメリさんの代わりだったのかな?」
黒髪のロングヘアにハーヴィルのことが好きだった過去。昔の彼女によく似た私がノアのこと好きになれば彼女が自分に戻って気がするから…とか無い話ではない。そもそもあんなに仲が良さそうであれば私がいる意味なんてもう無いのではないか。
家の鍵が開く音がして体がびくりと強張る。ノアが帰ってきたのだ。一体どういう顔をして話せばいいか分からないというのに足音はどんどん近付いてくる。私は咄嗟に寝たふりをして逃げてしまう。
「ナタリア…ただいま」
退院してきて出迎えもしない私を見るなりノアは私の前に屈んで優しく頭を撫でた。耳を撫でる穏やかな声色が心地よくて、彼がアメリさんのことをいくら好きでも手放したくなんかないと思ってしまう。
ノアはそのまま私を抱き上げると、歩いていく方向から寝室に向かいそっとベッドに下ろすと自分も隣に横になって再び頭を撫でて額にキスを落とした。
「ノア…?」
「悪い…起こしちまったか」
流石に寝たふりをこれ以上できず目を開けるとセーターとジーンズを着たノアが向かい合うように横たわっていて私の背中を撫でた。
「あ…私、ごめん、今日退院なのに病院に…」
「いいんだよ、毎日忙しいのに時間作って会いにきてくれただろ?それで十分だ」
やっぱりノアは優しくて、好きだなと思ってしまう。きっと自分が思ってた以上にずっとずっとノアのことが好きだ。だから私は狡い手を使ってしまう。
「アメリ…戻ってきてたんだな」
「合わせる顔もないと思ってたけど…まさかこんな早くに会えるとはね。元気だったノア?」
「まぁな…」
お医者さんが来たと同時に看護婦である彼女とも対面することになる。ノアの視線は彼女とは合っておらず極力彼女に視線を見ないようにしているのがわかった。合わせる顔もないと言っているあたり彼女も過去の出来事を過ちだとは思っていたようだ。
「ナタリア、家から物いろいろと持ってきてくれるか?タオルとコップ…歯ブラシと下着と寝巻き何着かあると助かる。」
「う、うん…」
ノアは私の腰に腕を回してやたらと密着しながらそう言った。人目もあり恥ずかしく距離を取るように彼の胸を押し返すが力は緩まなかった。
「ちょっとノア…っ」
「あぁ…悪い」
私が声かけたことでようやく気付いたように手を離すノア。どうやら無意識での行動だったらしい。
「大丈夫…?」
ノアの顔色があまりよくない。こちらから離れるよう言ったが不安になってくる。先程とは明らかに様子が違ってノアのトラウマは思った以上に根深いのだと思った。
「自宅の療養とかでは…ダメなんでしょうか?彼仕事が立て込んでる時期で…体動かすことはさせませんが色々と対応しなきゃいけないことがあるんです」
そんな彼の様子があまりにも不憫で1週間もの入院は回避できないかとそれらしいことを言う。
「ノア君最近頑張ってるのは分かるけどね…今回の怪我に加えて過労の疑いもあるんだよ。その為にも仕事のための自宅療養っていうのは本末転倒なわけだ」
50代くらいの昔馴染みのお医者さんは苦い顔をして頭を掻いた。そしてそんな彼の言葉に恥ずかしくなる。1番近くにいたはずなのにノアが過労状態だったことに気付けなかった自分に。いや気付いてはいたがあまり強く無理をするなと言わなかった。本人が夢中になっている以上私がしっかりと言ってあげなきゃいけなかったのに。
ノアの前の彼女の前だという状況も重なってそれ以上何も言えず、口をつぐんだ。
「ナタリアありがとな…ここまで無理しちまって悪かった。仕事は体が資本ってこと分かってたつもりなんだけどな」
しかしノアは状況判断も知識も乏しい私の甘い考えに礼と謝罪を言うのだ。そうして結局入院は一週間のまま変わらず過ごすことになる。早めに仕事を切り上げて少しでも面会できるようにするが、ノアと1日のうち一緒に過ごせるのはせいぜい1時間だ。
「毎日きてもらっちまって悪いな。あと3日だから…」
「ううん、少しずつ顔色良くなってるみたいでよかった」
体調が良くなっていく彼とは裏腹に私の心は曇る一方だ。ノアは私を裏切ったりしないと思う一方で、彼女は私よりずっと長い時間ノアと一緒にいることを考えると気が気じゃない。
長いと思っていた入院期間もようやく終わりを迎え、退院の日を迎えた。荷物の整理を手伝おうとノアの病室の前に行くと女の人とノアの笑い声が聞こえて体が氷のように固まった。この声───────アメリさんだ。
「ノアのそういうとこ全然変わってない」
「そう簡単に人は変わらねぇよ」
(なんで、笑って話せるの…?その人はノアのこと10年も傷つけてた人でしょ…?)
お風呂でトラウマを吐露する姿や夜彼女の名前を苦しげに呼ぶ姿が思い出される。なのに今は彼女と仲睦まじく話している。地面に足が張り付いたように動けなくてドアの前から一歩も踏み出せなかった。それどころか足は後ろへと一、二歩下がって病院を後にしてしまう。私は何をしているんだろう。自分でも分からないがここで入って胸を張ってノアの彼女は私なんだと言える自信がない。
気付いたら無意識のうちに自宅へ戻ってソファに腰掛けてしまっていた。ほんの数時間前──ようやく彼が退院できると喜んでいたのに。
「私って…やっぱりアメリさんの代わりだったのかな?」
黒髪のロングヘアにハーヴィルのことが好きだった過去。昔の彼女によく似た私がノアのこと好きになれば彼女が自分に戻って気がするから…とか無い話ではない。そもそもあんなに仲が良さそうであれば私がいる意味なんてもう無いのではないか。
家の鍵が開く音がして体がびくりと強張る。ノアが帰ってきたのだ。一体どういう顔をして話せばいいか分からないというのに足音はどんどん近付いてくる。私は咄嗟に寝たふりをして逃げてしまう。
「ナタリア…ただいま」
退院してきて出迎えもしない私を見るなりノアは私の前に屈んで優しく頭を撫でた。耳を撫でる穏やかな声色が心地よくて、彼がアメリさんのことをいくら好きでも手放したくなんかないと思ってしまう。
ノアはそのまま私を抱き上げると、歩いていく方向から寝室に向かいそっとベッドに下ろすと自分も隣に横になって再び頭を撫でて額にキスを落とした。
「ノア…?」
「悪い…起こしちまったか」
流石に寝たふりをこれ以上できず目を開けるとセーターとジーンズを着たノアが向かい合うように横たわっていて私の背中を撫でた。
「あ…私、ごめん、今日退院なのに病院に…」
「いいんだよ、毎日忙しいのに時間作って会いにきてくれただろ?それで十分だ」
やっぱりノアは優しくて、好きだなと思ってしまう。きっと自分が思ってた以上にずっとずっとノアのことが好きだ。だから私は狡い手を使ってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる