30 / 44
失恋の特効薬
29
しおりを挟む
「ハーヴィル!悪ィ、約束6時だったっけ!?7時と勘違いしてたわ」
「まだ40でボケが始まったか?ってビショビショじゃねぇか。風呂入ってたのか?」
「まぁな…昨晩うなされちまって汗ひどくてよ。すぐ準備するからソファ座っててくれ」
ハーヴィルを家に招き入れたノアは今度は浴室に戻ってきて慌ててシャワーで体を流す。
「はぁ…っ、ナタリアほんっと悪ィ。約束の時間間違えてたわ。」
「ノア大丈夫なの?最近お店休みの日もずっと働き詰めじゃない?それにさっきから気になってたんだけど…体に傷できてるじゃん…狩りで怪我してるんでしょ!」
ノアの手足や腹部には縫ったような痕がある。昨晩はノアの体を見ていなかったからようやく先ほどのシャワーで気付いたところだったがまじまじと見ると最低でも4,5箇所に傷があった。
「大丈夫だって、仕事ももうちょっとで区切りつけるから。その時はまた一緒に居れる時間もできるからな」
「帰ったら怪我のこともちゃんと話してもらうからね」
ジロ…と見上げるように睨むとノアは苦笑いをして誤魔化すように口付けをした。
「見た目より大したことねぇよ。昨日よりは早めに戻ってくるから。」
「約束だよ、待ってるからね」
私もノアの首に腕を伸ばして爪先立ちをしながら彼にキスを返す。ノアは一瞬目を見開いてニヤリと笑った。
「すげー元気出た。絶対早く終わらす」
シャワーを止めて浴室から出るノアを追いかけて、髪を拭く彼の体の水滴を拭き取った。私よりずっと広くて大きな体は拭き取るのも一苦労だが、これで少しでも早く準備できるだろう。
「ありがとな、それくらいで大丈夫だ」
そう言ってシャツと下着を身につけると服を取りに寝室の方へと戻っていった。私も体を拭いて下着と、持ってきていたワンピースを着てキッチンへと向かった。キッチンから見えるリビングにはハーヴィルが座っていて慌てて冷蔵庫からアイスティーを出すとそれをコップに注いで彼の前のテーブルに置いた。
「待たせちゃってごめんね、ハーヴィルも毎日ノアの狩りの手伝いしてくれてるんでしょ」
「おはようナタリア、俺も好きでやってることだからいいんだよ。兄さんの店だいぶ忙しいみたいだからな。村の外にも姉妹店出すとかって計画もあるみたいだし」
初めて聞く話につい身を乗り出してしまう。確かに彼の料理は村の中だけで終わらせるにはもったいない。この村の中には結界が張ってあって村の外からの人は滅多に入ってこれないのだ。
「それより…お前たち随分と仲良いみたいだな。朝から一緒に風呂入ってたのか?」
ハーヴィルはニヤニヤと口元を緩めながら私の濡れた黒髪を見つめた。なんでもお見通しのハーヴィルには言い訳は通用しない。赤くなった顔も今更隠せなくて大人しく白状する。
「まぁ…仲良くやらせてもらってます。私はこういう恋愛ごとは不慣れだけど…恋人のノア…すごく優しいし、誠実で…とことん甘やかしてくれるし…幼馴染の分遠慮しなくて済むから」
「そっか、そりゃ良かった。兄さんから昔のこと…少しは聞いてるか?」
「ノアをハーヴィルの代わりにしてた彼女のこと?」
「…あぁ、半分俺のせいでもある。だからずっと申し訳ないと思ってたんだ。人のこと言えないがずっと自暴自棄みたいな生活して…でも今の兄さんを見てると…幸せなんだなって分かる。きっとお前のおかげなんだよな。」
ハーヴィルはアイスティーを一口飲むと息をついて穏やかな笑みを浮かべた。ハーヴィルへの気持ちは吹っ切れていて自然にノアの話ができている自分に驚いた。そこで意を決して気になっていた話を切り出す。
「その、前の彼女さん…なんだけど、もしかして名前アメリ、とかいう人だったりする?」
恐る恐るハーヴィルに伺うと彼の目が見開かれて嫌な予感が当たったんだと感じた。
「なんで…兄さんが言ってたのか?」
「あー…いや、今日うなされてたって本人も言ってたでしょ。そのときの寝言で…彼女の名前呼んでたから」
「はぁ~…ったく隣に彼女寝かせて別の女の名前呼ぶなっての…」
ハーヴィルは頭を抱えて項垂れた。
「言っとくが兄さんに未練とかそういうものは一切ないと思うぞ。どっちかって言うとありゃトラウマだから」
「でも…10年もノアの心に刻み込まれてるんでしょ…未練じゃなくてもそれは…」
少なくとも彼の記憶の根に深く刻まれてる存在なのだ。悔しいが一ヶ月付き合った程度の幼馴染の私にはそのトラウマを埋めてあげられるほどの存在にはなり得なかった。
「実を言うとな…その彼女、ここ7,8年は村の外に出て仕事をしていたんだが、近いうちに戻ってくる話があってな。それをノアにも話したからそれでトラウマが蘇ってきてるのかもしれねぇ。今はお前が彼女なんだから胸張って隣に立っててくれねぇか?」
ハーヴィルは「頼む」と言って頭を下げた。ノアの昔の彼女が…帰ってくる。その言葉に目の前が眩んだ。今まで彼女から離れていたのにトラウマを抱えていた。そんな彼を私は繋ぎ止めておけるのだろうか。
「まだ40でボケが始まったか?ってビショビショじゃねぇか。風呂入ってたのか?」
「まぁな…昨晩うなされちまって汗ひどくてよ。すぐ準備するからソファ座っててくれ」
ハーヴィルを家に招き入れたノアは今度は浴室に戻ってきて慌ててシャワーで体を流す。
「はぁ…っ、ナタリアほんっと悪ィ。約束の時間間違えてたわ。」
「ノア大丈夫なの?最近お店休みの日もずっと働き詰めじゃない?それにさっきから気になってたんだけど…体に傷できてるじゃん…狩りで怪我してるんでしょ!」
ノアの手足や腹部には縫ったような痕がある。昨晩はノアの体を見ていなかったからようやく先ほどのシャワーで気付いたところだったがまじまじと見ると最低でも4,5箇所に傷があった。
「大丈夫だって、仕事ももうちょっとで区切りつけるから。その時はまた一緒に居れる時間もできるからな」
「帰ったら怪我のこともちゃんと話してもらうからね」
ジロ…と見上げるように睨むとノアは苦笑いをして誤魔化すように口付けをした。
「見た目より大したことねぇよ。昨日よりは早めに戻ってくるから。」
「約束だよ、待ってるからね」
私もノアの首に腕を伸ばして爪先立ちをしながら彼にキスを返す。ノアは一瞬目を見開いてニヤリと笑った。
「すげー元気出た。絶対早く終わらす」
シャワーを止めて浴室から出るノアを追いかけて、髪を拭く彼の体の水滴を拭き取った。私よりずっと広くて大きな体は拭き取るのも一苦労だが、これで少しでも早く準備できるだろう。
「ありがとな、それくらいで大丈夫だ」
そう言ってシャツと下着を身につけると服を取りに寝室の方へと戻っていった。私も体を拭いて下着と、持ってきていたワンピースを着てキッチンへと向かった。キッチンから見えるリビングにはハーヴィルが座っていて慌てて冷蔵庫からアイスティーを出すとそれをコップに注いで彼の前のテーブルに置いた。
「待たせちゃってごめんね、ハーヴィルも毎日ノアの狩りの手伝いしてくれてるんでしょ」
「おはようナタリア、俺も好きでやってることだからいいんだよ。兄さんの店だいぶ忙しいみたいだからな。村の外にも姉妹店出すとかって計画もあるみたいだし」
初めて聞く話につい身を乗り出してしまう。確かに彼の料理は村の中だけで終わらせるにはもったいない。この村の中には結界が張ってあって村の外からの人は滅多に入ってこれないのだ。
「それより…お前たち随分と仲良いみたいだな。朝から一緒に風呂入ってたのか?」
ハーヴィルはニヤニヤと口元を緩めながら私の濡れた黒髪を見つめた。なんでもお見通しのハーヴィルには言い訳は通用しない。赤くなった顔も今更隠せなくて大人しく白状する。
「まぁ…仲良くやらせてもらってます。私はこういう恋愛ごとは不慣れだけど…恋人のノア…すごく優しいし、誠実で…とことん甘やかしてくれるし…幼馴染の分遠慮しなくて済むから」
「そっか、そりゃ良かった。兄さんから昔のこと…少しは聞いてるか?」
「ノアをハーヴィルの代わりにしてた彼女のこと?」
「…あぁ、半分俺のせいでもある。だからずっと申し訳ないと思ってたんだ。人のこと言えないがずっと自暴自棄みたいな生活して…でも今の兄さんを見てると…幸せなんだなって分かる。きっとお前のおかげなんだよな。」
ハーヴィルはアイスティーを一口飲むと息をついて穏やかな笑みを浮かべた。ハーヴィルへの気持ちは吹っ切れていて自然にノアの話ができている自分に驚いた。そこで意を決して気になっていた話を切り出す。
「その、前の彼女さん…なんだけど、もしかして名前アメリ、とかいう人だったりする?」
恐る恐るハーヴィルに伺うと彼の目が見開かれて嫌な予感が当たったんだと感じた。
「なんで…兄さんが言ってたのか?」
「あー…いや、今日うなされてたって本人も言ってたでしょ。そのときの寝言で…彼女の名前呼んでたから」
「はぁ~…ったく隣に彼女寝かせて別の女の名前呼ぶなっての…」
ハーヴィルは頭を抱えて項垂れた。
「言っとくが兄さんに未練とかそういうものは一切ないと思うぞ。どっちかって言うとありゃトラウマだから」
「でも…10年もノアの心に刻み込まれてるんでしょ…未練じゃなくてもそれは…」
少なくとも彼の記憶の根に深く刻まれてる存在なのだ。悔しいが一ヶ月付き合った程度の幼馴染の私にはそのトラウマを埋めてあげられるほどの存在にはなり得なかった。
「実を言うとな…その彼女、ここ7,8年は村の外に出て仕事をしていたんだが、近いうちに戻ってくる話があってな。それをノアにも話したからそれでトラウマが蘇ってきてるのかもしれねぇ。今はお前が彼女なんだから胸張って隣に立っててくれねぇか?」
ハーヴィルは「頼む」と言って頭を下げた。ノアの昔の彼女が…帰ってくる。その言葉に目の前が眩んだ。今まで彼女から離れていたのにトラウマを抱えていた。そんな彼を私は繋ぎ止めておけるのだろうか。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる