失恋の特効薬

めぐみ

文字の大きさ
上 下
29 / 44
失恋の特効薬

28

しおりを挟む


翌朝─────
ノアの朝勃ちが後ろから押し当てられて昨夜散々焦らしておいて…と恨めがましい目で綺麗な寝顔を睨みつける。いつもは剃っている無精髭が生えてはいるが眉間の皺が消えた寝顔は若く見える。しばらく寝顔に見惚れていたが、視線に気付いたのかノアは「ン…」と息を漏らした。

「ア、メリ…」

その寝言のような言葉に体が固まった。だれか、女の人の名前。私じゃない誰か。一ヶ月前セックスしながら彼が誰かの名前を呼んでいた夢を思い出す。それはただの夢だったが今は現実だ。
次の瞬間ノアの体がこわばって、悪夢でも見ていたのかのように勢いよく体を起こした。

「は、…っ、あ…ふ、はぁっ、ゆめ、か…?」

ノアは荒い呼吸を整えながら額の汗を拭った。じとっとノアを見つめているとノアはビクッと体を震わせてようやく私に気付く。

「悪い、起こしたか?」

「いや…、起きてたけど。」

先ほど彼が呼んだ名前のことは出さず、そっと腕を伸ばした。

「怖い夢でも見たの?」

「…ナタリア、いや…大丈夫だ」

大丈夫だと言いながらノアは私の体に腕を伸ばして抱きしめる。額だけではなく体も汗ばんでいて香水と汗が混じった匂いが鼻を掠めた。

「大丈夫じゃなさそう」

「ちょっと嫌な記憶を夢で見ちまっただけだ。心配してくれてありがとな」

頬を緩めて優しくそう言うノアは私の頭を撫で、額にキスを落とす。いつもだったら素直に受け入れるのになんだかぼんやりとした言葉にそれ以上踏み込ませてくれないような空気を感じてしまう。

「ナタリア…」

そのまま唇を寄せてくるノアの体を反射的に押し返してしまう。呼んでいた女の人のことが気になってモヤモヤしてしょうがない。しかし、そこでやってしまったとハッとした私は慌ててノアの方を見ると露骨に傷付いた顔をしている。

「そ、その…っ、ごめん、ノア…っ、今日も朝からお仕事の準備って言ってたでしょ?」

我ながら苦しい言い訳だと思う。しかしこの重苦しい空気を打破するためにもこんなことしか思い付かなかった。

「久々に一緒にシャワー浴びよう。私も、昨日ので汗かいちゃった。」

「そうだな…」

なんとか誤魔化してベッドから出て先に脱衣所へと駆けていく。一人の時間ができてようやく先程の状況の整理がつけられる。アメリという女性の名前、それにあれだけ汗だくになって嫌な夢だという彼の姿…もしかしてアメリという彼女がノアのトラウマの女性だったりするのだろうか。私と交際を始めても…消えないくらい深く刻み込まれたノアの昔の彼女。

「なんだ、まだ服脱いでなかったのか…もしかして待たせちまったか?」

そうして考え込んでいるとノアが脱衣所にやってきてまだ脱衣所にいた私の姿に目を丸くした。

「そんなに時間経ってた?」

「10分くらいは経ってるけど…悪かったな。一緒にシャワー浴びるっつって遅くなって。先に浴びてるかと思った」

「10分?!ノアは何してたの?」

「あー…まぁいつもの男の事情の処理ってモンだ。昨日あんなに可愛い姿見ちまったからオカズには困んなかったけどよ」

よく見るとノアの頬は若干赤らんでいて男性特有の色気を孕んでいた。…というかオカズとか聞き捨てならないことを言っていたようだがそこは聞き流す。トレーナーを脱いで洗濯機に放り込むとすかさずノアがベビードールを脱がせてくる。

「ど、どうしたの…そんな勢いよく脱がせたりして」

「いや、そのカッコエロ過ぎっから目に毒なんだよ。裸の方がまだ健全っていうか…ホラ早くパンツも脱げ」

「あっ、ちょっとあんまり乱暴にすると破れちゃうから…っ、結構いい値段するんだからね」

あっという間に全裸に剥かれた私は浴室に放り込まれて手早くズボンと下着を脱いだノアも入ってくる。そうしてシャワーのコックを捻ったと思ったら冷水が降り注いであまりの冷たさに悲鳴に近い声をあげてしまう。

「つ、冷たいっ!ノア…っ、温度上げてってば!」

「ちょっと頭冷やさせて…お前も、ココ、熱くなってんだろ?パンツ脱がせた時糸引いてた」

ノアが子宮のあたりをすり…と撫でて体が嫌でも強張ってしまう。一緒にシャワー浴びるなんて提案してしなければよかったと今更ながら後悔する。

「の、ノア…そのっ」

「ンな物欲しそうな顔すんなよ、熱冷ましたいっつーのに…」

ノアの整った顔が近づいて顎を持ち上げられたと思ったら唇が重なる。言ってることとやってることがチグハグなことに気がついているのだろうか。しかしこうなれば私はもう餌に釣られた魚だ。だってノアのキスはどうしようもないくらい気持ちいいのだから。

「んっ、ふ、ぁ…っ♡ん、んぁ…っ」

唾液が絡まって浴びている冷水よりそちらの熱のほうに意識がいく。大きな体が、腕が私の体を引き寄せて密着する感触に興奮しない方が無理だった。

「ん、ぁ…っ、ノア…っ」

やっと唇が離れたところでノアの膝がすりすりと私の秘部を撫でた。彼の膝が愛液で濡れるのを感じて発火するように体が熱くなる。ノアの顔が間近に迫って私の反応を楽しむように口元を緩ませた。

「昨日のじゃ…やっぱり物足りなかったよな?」

「足りない…っ、けど…」

「おーい!兄さん!!まだ寝てんのかぁっ!?6時の待ち合わせいなかったから来ちまったぞ!」

その瞬間、玄関の方から扉を叩く音とハーヴィルの呼び声が響いた。ノアはその声にビクッと体を震わせると、「やべっ!」と慌てて浴室を飛び出して腰にタオルを巻いて玄関へと駆けて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ハイスペ男からの猛烈な求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペ男からの猛烈な求愛

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

イケメンイクメン溺愛旦那様❤︎

鳴宮鶉子
恋愛
イケメンイクメン溺愛旦那様。毎日、家事に育児を率先してやってくれて、夜はわたしをいっぱい愛してくれる最高な旦那様❤︎

処理中です...