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失恋の特効薬
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しおりを挟む「もっと声出していいんだぜ?ここには俺とナタリアしかいねぇんだから」
「ん……っ、やぁっ……も、ぃい…ッ!自分でっ…自分でするからぁ…っ」
彼の指が敏感な芽を掠めたところで彼の腕からタオルを奪い取り彼を睨みつける。しかし彼にとってそれは痛くも痒くもないようで、それどころかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
「馬鹿っ!!!!!変態ッ!!!!!」
「褒め言葉だな、ありがとよ」
褒めてないと拳を振り上げようとした瞬間すっと避けられてその勢いで私の体はベッドに沈んでしまう。
「シャワー浴びるけどお前もどうだ?一緒に入らねぇか?」
「あとで自分1人で入るッ!」
私の反応にケラケラと笑っていたノアは、私がそう答えるのが分かっていたのかタオルを片手にバスルームへと姿を消した。そんな彼に対してこんなにえっちで意地悪な男だなんて知りたくなかったと頭を抱えるのだった。
「綺麗だったね、ハーヴィルの奥さん」
シャワーを浴びて健全にリビングでボードゲームをしていると自然と口からそんな言葉が漏れていた。ゲームに付き合ってくれているノアは吸っていたタバコを灰皿に押し付けてふぅと息を私の顔に吐きかけた。
突然の攻撃に咳き込みながら睨みつけると彼の大きな手が私の頬を鷲掴みにした。
「しけたツラしやがって…そんな後悔すんなら告白すりゃよかったんだ」
「だって…関係崩したくないし…」
適当に置いたコマは大外れだったようでそこそこ拮抗していた戦況をノアに一気に覆される。「あ!」と声を上げたところでもう遅かった。
「そうやってたらたらしてるから足元掬われるんだよ。こういう風になる」
ゲームはもう勝つ手がない。本当に私のようだと思い知らされるが、良い歳して奥さんも特定の彼女さえいないノアに言われるのは心外だ。
「そう言うノアは恋愛したことあるワケ?」
「それ聞くかぁ?」
苦虫を噛み潰したような顔つきになるノア。もしかして過去には本気で恋愛した女性がいたのだろうか?てっきり自分は本命は作らない主義だとか言うものだと思っていたので予想外の反応だった。
「まぁな、付き合ってた女にこっ酷く振られちまって…それきりだ」
ノアほどの男を振るなんてどんな女性なんだろう。しかも彼の様子からトラウマになる程度には嫌な別れ方だったみたいだ。
「一夜限りのお相手で好きになる人とかいなかったワケ?」
「ないない、お互い完全に割り切ってるからな。好きになんなら深く知り合ってからってモンだろ…だけどそもそも最後の恋が原因で深く知り合うことなんて避けるようになっちまった」
ノアの声は少し低くなって怒気を含んでいるように感じる。本当に嫌な思い出なのだろう。正直詳細が気になるところではあるがそれ以上は追及せず、ゲームの方へ意識を向けた。
負けは確定しているが形式上最後まではやらなくてはという律儀さが働く。しかし自分に有利に働いているコマをノアは手で広げて突然バラバラにしてしまう。
「本気で相手が欲しいなら…ルールや形式なんてぶち壊して、めちゃくちゃにしちまうのも手だとは思うけどな」
「………………流石に、ハーヴィルの家庭を壊してまで彼が欲しいなんて思わないよ」
ノアの言葉に息を呑むものの、彼が乱したコマを一つ一つ戻していく。
「まぁ壊したなら壊しただけそれはそれでリスクはあるからな」
ノアは再びタバコを取り出して、火をつけて一息つく。そして私の答えに納得したのか、それ以上強く言ってくることは無かった。その後の盤上の戦いは引き分けが続き、結局勝負がついたのはあの油断した一戦だけだった。
「俺は明日からの店の準備があるからそろそろお開きとするか。気ぃ付けて帰れよ」
時計を見ると昼の3時で結構長居してしまったなと実感する。昨日から考えると丸一日彼の家にお邪魔していた計算になる。
「まぁなんだ、シたくなったり気を紛らわせたくなったらいつでも来るといい。仕事の営業時間外だったら喜んでむかえてや───」
軽薄な笑みを浮かべるノアの顔面に思いっきりボードゲームの板を叩きつける。すんでのところで受け止められ、ノアは「あぶねえな」と私を睨みつける。
「絶対ノアのお世話になんてなんないから!」
「はいはい精々世話になんないように俺以上に体の相性抜群のいい男でも見つけておけ。」
ノアは軽口を叩きながら彼の家から出ていく私をひらひらと手を振りながら見送った。絶対そんなの無理だと分かりきってる口調に腹立たしくなる。別に今までだってセックスしなくても生きていけたワケだし、抱かれないからって死ぬワケじゃない。まぁ確かに…頭おかしくなるくらい気持ちよかったし、ノアの低くて甘い声、表情、大きな体…全部は思い切り五感に刻み込まれていたが。別れた直後にこの調子では先が思いやられる。と、首を振った。
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