失恋の特効薬

めぐみ

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失恋の特効薬

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「はぁーまさか結婚しちゃうとはなぁ…」

昔馴染みの友人、かつ長年恋をしていた相手の結婚式の披露宴、華やかな雰囲気の中場にそぐわない声をあげてしまう。勿論、会場の目立つところでデカデカと声をあげていたわけでは無い。立食パーティーのようになっている会場の隅でこの会の主役、新郎を見つめていた。

「まぁもともと予言もあったし近いうちにこうなる運命だったんだよな」

私の隣には新郎によく似た顔つきの男が立っており、私に追い打ちをかけながらもそっとツマミとして上等な生ハムを差し出してきた。

新郎の名前はハーヴィル・ウルフェンデン。この街で一番の色男で、去るもの追わず、来るもの拒まずの超遊び人だった。だからと言って軽薄なだけではなく子供には好かれ、頭はよく、同性からも好かれる。おまけに未来の村長である。
私は彼に遊ばれるだけの女にはなるまいと友人として、あわよくばこの関係が発展しないかと思っていたが…彼は呪術師から預言されていた結婚相手とついにゴールインを果たしてしまったのだ。

そんな彼によく似た私の隣にいる男は彼の従兄弟であるノア・アボットである。ハーヴィルに似てるとは言っても彼の方が少し年上で、ハーヴィルの髪色は黒だが、ノアの髪は銀髪だ。老けやすい顔なのかハーヴィルより眉間や目尻に皺があり、ハーヴィルが歳を重ねたらこんな感じになるのではと言った顔つきだった。
今年38歳になる彼はハーヴィル同様女好きであったが派手に遊ぶというよりはたまに娼館に行ったり一夜限りの関係を村の外で楽しむといったタイプだ。いや、ヤリチンなことには変わりないのだが。

「ノアは…今日もハーヴィルと勘違いされまくってたみたいで」

「まぁな…俺たち昔から似てる似てるって言われてたから。」

彼は見分けがつきやすいように白くウェーブがかかった髪を後ろで束ねていたというのに何度か新郎さん?と声をかけられていた。

「んで、長年の恋が敗れた今の気持ちをお聞かせ願えるか?」

「…意地悪」

そして私はハーヴィル、ノアと同じ村に住むナタリア・スコット。今年で30歳になるというのに長らくハーヴィルに片思いしてきたこともあり、ろくな恋愛経験がない。というか彼を基準にしたら理想が高過ぎて他の男など目にもくれなくなってしまった。この村では珍しいと言われる、しかしカラスみたいで好きでは無い長い黒髪で俯いた顔を隠す。

「ナタリアも美人なのに勿体無い…村から出たら男なんて虫みたいに寄ってくるだろうに」

「虫みたいにって…まぁこれで区切りがついたと思って諦めがついたよ」

生ハムをフォークで掴みながらシャンパンで流し込む。程よくしょっぱい生ハムが悔しいくらい美味しくて皿の上はあっという間に空になってしまう。

「おい、俺の分………ってまぁしょうがねぇか」

最後の一枚も奪い取った私を恨みがましい目で見つめるノアだったが流石に傷心中の幼馴染にそれ以上は言えないのか息を吐いた。そんな私たちの前に話題の人物、ハーヴィルがやってくる。礼服に身を包んだ彼はいつもの5割り増しでカッコよく、思わず背筋が伸びてしまう。

「よぉ、ハーヴィルこの度はおめでとう。年下のお前に先越されちまったな」

「ノア兄さん、ナタリア…ありがとな」

「預言の相手とやら…預言を受けた当初は不服そうだったが、今日は随分と機嫌がいいな。そんなにいい女だったのか?」

ノアは新婦を横目で見ながら、ハーヴィルに問いかけた。ハーヴィルが受けた預言とやらはとある日に村に訪れる相手と結婚しなければ村に厄災が訪れるといった彼の意思など無視された人柱にも近いものだった。預言を受けた時は多少荒れていたが今日はそれどころかえらく上機嫌に見える。

「あぁ、実はな…彼女自身は忘れてはいるが…昔結婚を約束した女の子だったんだ」

「ほぉ、それはそれは。俺ァ運命とかそういうのは信じないタチだったが…こればかりはそういうのを感じるな」

2人の発言に雷を打たれたような感覚に陥る。そもそもハーヴィルが結婚を約束していた相手がいたこと、これで1hit、そしてその相手と再会、結婚という物語のような運命性で2hit。ただでさえ打ちのめされていた私はただ呆然と2人が話す姿を見ていた。

(本当に…私に見込みなんてなかったんだ…)

諦めがついたなんていう先ほどの言葉は自分に言い聞かせただけの嘘だった。彼らの発言に自分が思っている以上に傷ついていることに気付き、呆然としてしまう。

「ナタリア…?」

そこでノアから声をかけられてハッとする。

「あ、あは…ごめん、なんだっけ?」

自分は上手く笑えているのだろうか?声も震えてしまっているような気がしてそれ以上言葉が出せない。怪しまれないようにしなくちゃ、ハーヴィルに心配されてしまう。もうダメだと思った瞬間頭に大きなジャケットがかかって視界を阻んだ。

「なんかこいつちょっと風邪気味みてぇだ…頭ぼーっとしてるから、悪いが早めに俺が連れ帰るわ。」

「あぁ、そうなのか。そんな時に来てもらったみたいでこっちこそ悪ぃな」

「歩けるか?」

ノアの機転でなんとかその場をやり過ごし、肩を引かれ彼の問いかけに頷いた。

「無理すんなよ、今日はほんとありがとな」

「私こそ、ごめん…」

そうして手を振るハーヴィルを背に私たちは会場をあとにするのだった。

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